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零次機関 ジグルス  作者: Z4n
ZX ジグルス
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第2話 似て非なる

 少年は夢かと見紛う不思議な経験をした。


「うわ!」


 一縷の希望にかけて崖から飛び降りた先に降り立った少年はなんと言うべきか。下から吹き抜ける風に耐えた後ふと身の圧迫感が消え、別世界の穴を潜ったと形容できる非現実的な感覚を覚えた。

 そして眼前いっぱいに広がる土、いや地面。崖から遥か下の別世界へ落ちると言うより地面から高さ僅か数メートルの場所へワープしたと言う感覚であった。


「いてて……」


 幸い木の枝が緩衝材の役割を果たしてくれたおかげで落下によるダメージは想像していたものより軽減されていた。重い腰を上げ服についた砂を払い落とす。


「また森の中……?」


 少年は、自分の現在地を把握すべく周りを見渡す。が、自分が今までいたところと対して変わらない草木がジメジメと生い茂った森の中であった。


「あれ?」


 見覚えのある景色だと少年は気づく。極め付けは自分たちが飛び降りた場所と酷似した断崖。


「俺は……確かに崖から飛び降りて……それで……」


 少年が訳もわからず頭を捻っていると、ここから少し離れたところでバキバキと木々の枝が砕けて折れる音が響き渡った。


「いったぁ……」


 何事かと少年が寄れば先ほど出会った自分と同じ奴隷の格好をした少女が、先刻の自分と同じように落下してきているではないか。


 少女が痛そうに尻を擦りながら立ち上がると、少年と目があった。


「あ」


「何?アンタもついてきたの?」


 少年が抑揚のない声で呆然とする少女に話しかける。


「あの場面ではそうするしかなかったし……」


 少女は顔を伏せ気まずそうに答える。


「それよりここって……あの森だよね?私たち崖を飛び降りたはずなんだけど……一体どうなってるの?」


「それは俺も思ってたとこ。あの崖から見えた景色がなんだったかも……自分がどこに迷い込んだのかも分かんない」


「でも、あの大人たちはいないみたい。窮地は脱したと考えていいよね?」


「さあ?そんな楽観できたらいいけどね」


 自分以外にもここに来れたのなら、執念深いアイツらもすぐ追いかけてくるかもしれない。出来ることなら今のうちに、ここから遠くに離れておきたいな。

 とは言えそんな生死を賭けた博打が出来るほどの度胸もリスクに見合う価値もアイツらにあるとは思えない。思い過ごしが一番いいけど。


 少年は思考を切り替えると少女に然程興味を持ってないのか一人でに歩き出す。それを少女が後を追うように隣に並ぶ。


「あなたも奴隷だよね。見たことない顔だけど」


「そりゃ別の班だからね。俺はH-4L区出身。多分アンタはその隣の班でしょ?顔合わせたことなくて当然」


 少女は少年と会ってからずっと気になっていたことを質問する。


「あなたも大人たちに追いかけられてたよね?何かあったの?」


 少女が悪気なさそうにそう問えば、最初に少年から返ってきたのはジト目だった。

 何か悪い質問でもしたのかと少女は決まりが悪そうに少年を見る。


「呑気だね。アンタのせいだってのに」


「え?私?」


 心当たりがまるでないといった風に反応する少女に、少年は仕方なさそうに話を続けることにした。


「アンタってさ。自分達のところでなんか暴れたみたいじゃない」


「暴れたっていうかなんというか……今日は指導者が会議に行って現場監督が減ったみたいだし、脱走のチャンスだったから。ついでに今までの仕返し目的でその場にいた指導者の昼食に毒を盛ったら、運悪くその現場を目撃されちゃって……」


 少年の予測通りその場の思いつきで考えなしにやった犯行だったらしい。


「それで頭の中真っ白になってね。もうあとはヤケクソ。ヤられる前にヤるって感じに無理矢理その場にいた大人全員の口に毒をねじ込んで……そのまま奴隷たちと大人達の乱闘に発展。激闘の中私は命からがら逃げてたんだけど」


「執念深く追いかけてきた奴らに見つかってしまったわけか」


 少女はコクリと黙って頷く。


「バカだね」


「うん、ちょっと反省してる」


 次に活かす機会もないのに、何の反省なのだか。

 

「それで……あなたはなぜ?」


「こっちは何年も前から脱走の計画を企ててたんだよ。指導者を全員無力化して、事故死に見せかけて別の領地に逃亡……のはずだっのに」


 少年は折角の特大チャンスが外的要因によって崩されたことを、思い返して苦い顔をする。


「アンタが軽々しく報復なんていらない真似したせいで、そっちの大人たちが俺が逃げた方向に、流れてきたんだよ」


「……ごめん」


 少女はまさかそんな流れ弾が被弾する事態になっていたと思わず、申し訳なさそうに謝る。


「別に。いいよ、そういうのは。こっちも想定外のアクシデントに対応できる能力がなかったって話でもあるし」


 少年が素っ気なくそう答えるもやはり少女は、自分の浅慮さを気にし続けてるようだ。


 それに……それにまだ死んだわけじゃない。チャンスはある。人間になる夢はまだ完全に潰えてはいない。


 少年の目に灯る意志の炎はまだ消えてはいない。この機会に何としてでもこの状況を乗り切り憧れの外の世界に飛び出すつもりだった。




「うーん……?」


 少女は一人首を傾げ唸っていた。少年もまた少々目の前の光景に疑いの眼差しを向ける。


「崖から飛び降りた先が私達がいつもいる森になぜか繋がってたのは間違いない。それは確かなんだけど……」


 二人が目にしているのは、自身の仕事場でもある鉱山であった。何の変哲もない。いや、おかしな事に全く手がつけられていない。


「入り口が塞がってるとかじゃあない。開拓がなされる前の自然な状態だ」


「おかしなところはそれ以外にもある。さっきから全然大人も奴隷も私の拠点すら見つからなかった。人がいるような生活の痕跡も全くない」


 だったら俺の爆破した鉱山も、元通りに……あの逃走劇も無かった事になってるのか……?


 二人は自分達の元いた場所と似て非なる世界に困惑する。自分達がいた痕跡がまるっきり消えているのだ。


「……今なら出れるかもな。森の外に。その後は……どこに向かうべきかな?」


 少年の言葉に少女が逡巡する。深く頷いた少女は迷いのない足取りで真っ直ぐ歩き出した。


「正直ここについて何が何だか分からないけど……街に行くなら案内は任せて。人もたくさんいるだろうし情報も集められる筈」


「場所がわかるのか?」


「私は元々外から来て奴隷になったからね。領主の遣いもあっちの方角から来てるから間違いない」


 少年は少女の言うことを信用したわけではないが、この場では自分だけではどうしようもないし、自分のためでもあると考え少女が指を刺した方角に先導してもらう事にした。



 

 その後二人は何事もなく移動を続ける。そして遂に人気のないこの森の終わりが見えようとしていた。


「外だ……!」


「うん。懐かしい。本当に……懐かしい。あなたは……ってあれ?」


 自然と足が前へ前へと急かされ、小走りになる。そのまま森を抜けると、ブワッと風が少年の顔を撫でた。


 森の外だ。木々が拓けて草原が見える。風に揺られて連鎖的に凪がれる草。自然と新たな冒険の始まりを予感させるものだった。

 

 これが……ここが……外の世界。


「良く空が見えるな。空はこんなにも広かったのか。青いし明るい」


 ジメジメとした景色から随分と色づいた世界。初めての、そして念願の森の外の様子に少年は内心興奮で埋め尽くされる。


「眩し」


 日光が差し込んでくる。あまり感じたことのない目の刺激に少年は目を片手で庇う。


 そーと目を開けて再びこの景色を目に収める。瞬きしても変わらずそのまま視界に映る草原の様子。少年は、ジワジワと何かが込み上げてくるのを感じた。


 一人で舞い上がる少年に少女は思わず話しかけるのを躊躇う。先程まで顔色を変えない彼がこんなにも喜色を示しているのが嬉しいような、こんな当たり前の光景すら今まで体感することが出来なかった奴隷としての立場に同情するような、複雑な気分だった。


 少女はゆっくり少年を追いかける。


「ハァ……」


 ───でも完全に自由になれたわけじゃあない。


 今さっきまで喜んでいたかと思えば、一瞬にしてため息ひとつで冷め、いつもの様子に戻った。少年は少女に視線を寄越す。


「今から行く街ってのはアンタが住んでたところか?」


「いや、行ったことがあるだけで出身はまた別のところ。それも何年も昔の話だし」


 奴隷という運命に縛られ続けてきた少女は、少年と同じく長年自由という概念が大人達によって取り上げられていた。故に町の細かい記憶も定かではないと言う。


「まぁ、分かんないよりかはましでしょ」


 二人は草原を越えて舗装された平らな砂利道に出る。不安定な森と違って踏み心地が良く、安心して重心を預けられる頼もしさを感じた。


「ねぇ、感情って何か分かる?」


「え?」


 唐突に振られた質問に少女は答えあぐねる。そもそも何の意図で聞いたかも分からない上、一概に感情と言っても人によって感じ方や規定はいろいろあるだろう。

 少女は広義的で哲学的な質問に嫌な顔ひとつせずに答えようと首を傾げるも、やはり答えは出ずにいた。


「う〜ん」


「急に変なこと聞いた。やっぱ難しい?」


「そうだね、ごめん……」


「そう。でも他人の一言二言で収まるようなものじゃあ困る。結局その答えは俺自身が見つけ出すべきなんだ。今までもそうだった。知りたいことも欲しいものも自分の手で掴み取ってきた。感情の理解は俺が人間になる上での最大の命題。きっとその答えは何処かにある筈なんだ」


 あの泉が俺に色を与えた。自分の進化の種はこれから旅をしていけば、思いも知らないところにあるのかもしれない。


「でも」


 思考を振り絞った少女は、今の少年にこれだけは伝えたいとその感情について極限まで削ぎ落として得られる核心を伝えておこうと声をかける。


「人は、人ってのは幸せを目指して生きてる。感情もそのためには欠かせない。見つけ出して悪い事には絶対ならない」


「……なら俺のなすべき事は間違ってないんだね」

 

 二人は、足を踏み出す。二人の知らない新たな世界で。ここからが二人の成長を促す未知と不可思議が折なす冒険の開幕なのである。


 そして少年らが歩くその陰で、怪しい眼差しが二人の背中を射抜いていた。




「すっかり日が暮れちゃったね」


 二人が歩いているうちに陽は傾きすでに夕刻を過ぎようとしていた。不気味にも茜空には群れを成した黒々とした鴉が日が沈む方へと向かって鳴いている。


「まだ着かないのか?」


「多分もう直ぐ着くよ。でも歩きっぱなしで結構疲れた……街に着いたら一旦休憩しよう」


 少女がノビでもしながら道なりに歩いていると、ある違和感に気づく。思わず顰めっ面をして鼻を覆った。


「なんかこの辺……大分臭い」


「臭い?」


「うん。なんか生ゴミのような悪臭が漂ってる」


「あー、このにおいね」


 少年もそれは感じていた事だが、いつもの森とは違う外のことだということで、これがここでの普通なのだと思っていたがどうやら違うようだ。


 そして目を疑う光景はまだ続いた。


「う、なにこれ……!」


 歩いてる途中も時たまゴミを見かけた。その時は掃除がされてないのかなと思う程度であったが……度を越している。

 道の隅に廃棄物が山のように積まれている。この先の道にも足の踏み場が見つからないほどのゴミで埋め尽くされているのだ。


「悪臭の原因はこれみたい」


 少年は外の常識を知らないとは言え、ここまで不衛生なものには流石に忌避感を覚えた。

 とは言えここで立ち止まるわけにもいかない。二人はそーとつま先立ちでゴミのない場所を歩く。


「なんかよく見たら浮浪者もゴミに埋もれていっぱいいる」


 もう何日、何週間、下手したらそれ以上の期間体を洗っていないであろう人物達が道の端に沢山いるのだ。

 

「うわ!」


 少女は何事かとその様子を覗けば、ゾッもするものを見た。ゴミ山を集団が漁っているのだ。泥だらけの顔、茶色に変色し所々破けた服、汚らしい炎症塗れの手足。奴隷である自分達の今の姿がマシに見える程の汚さだ。

 その人物達がこぞって狂気を孕んだ目で廃棄物に集っているのを見たら誰だっていい思いはしないだろう。


「こんな酷いスラムなんてあったかな……」


 少女の記憶にはもちろんそんなものは残っていない。少なくともこんな強烈な光景を見たことがあるとしたらどう足掻いても記憶に残るだろう。


 そんな道中であった。目の前に黒い外套を纏った不審者のような奴が前に出張ってきた。


「おい、待ちな小僧ら。ここは俺の縄張りだ。通りたきゃ通行料を払いな」


 無精髭の生えた男が下卑た目つきで、二人を見る。


 それだけではない。この男以外の少し離れた周りの者たちまでこちらを品定めするかのように、こちらを状況を静観している。他の浮浪者と違って静かだが何かの闘志を感じる。何か仕掛けるかでいるように見える。


 何だこいつら……


 少年は突如前に現れた男を一瞥した後、何事もなかったかのように平然と通り過ぎた。


「待てコラ!ガキ!俺のこと無視するなんて調子乗ってんじゃねぇぞ!」


 男が通り過ぎた少年の肩を思いっきり掴むが少年はその手を左手で振り払う。


「汚い手で触らないでくれる?」


 悪気もなく言い放つ少年に目の前の男がいきり立つ。


「コイツ!」


 男が少年の舐めた態度に激昂し殴りかかる。


 少年はそれを認識するや否や反射的に飛んできた拳を逸らし、ガラ空きのボディに右足を思い切り蹴り込んだ。


「ヴェェッ!」


 男は鳩尾を蹴られた激痛で腹を押さえて膝をついた。体を震わせながら丸め込み、顔も伏せたまま大人しくなった。


「なんだよ。急に殴りかかってきて」


 加えて、今まで静観していた者たちも、分が悪いと悟ったかのように目を伏せた。今まで感じていた視線が散っていく。


「?途端に萎縮して目線逸らして……何企んでんだか」


 少年らはこれ以上この男に構う必要はないと、男を置き去りにして先へ進む。


 

 

「治安悪いし、不衛生だし……なんか私の知ってる街じゃなくなってる……」


 少女はやけに自分の記憶と噛み合わない現実に不安感が募る。本当に自分らが別世界に来てしまったのかという実感が所々から感じるのだ。


「街の入り口が見えてきたな」


 煉瓦が積み上げられてできた見上げるほどの巨大な防壁が見える。まるで砦の門のように見える。左右には松明が掲げられていてその壁面の古さから分かる歴史が感じられる。


「取り敢えず入ってみよう」


 二人は門をくぐり街に入る。少女は街の中なら自分の記憶と一致する様子なんじゃないかと願望にも似た予想をする。しかしそれは直ぐに裏切られる形となる。


「街の中までも………」


 街の中も外に劣らず酷い有り様だ。外よりかは住宅街があるだけマシに見える。その建物も腐りかけた木材で造られていたり、酷いところは天井が無く布でテントを貼り代替してる住居まで存在する。


 外の様子だけでもあの有り様なんだ。街の中までこうなってて当然か。寧ろ何らかの理由で街に住めなくなった者、あぶれた者が路頭に迷って廃棄物を漁らないと生きていけない極限状態まで追い込まれたと考えた方が自然。


「ここもアンタの記憶とは違う光景?」


「うん。180度真逆。もっと人が賑わっててどこの店も商売繁盛してたんだけど……その面影が全く見当たらない、強いて言えば地形は見覚えがあるんだけど。本当にそれだけ」

 

 予定ではこの世界についての情報を収集するつもりだった。街の外で見かけた人は狂気が入り混じってるか生気が抜けてる者ばかりだし、聞き取り調査など不可能だ。それでも街の中なら……


「でも外よりはまだマシみたいだよ。取り敢えず街の中を探索しよう」


「うん……」


 あやふやな返事に少年が隣を見れば、少女は一人ソワソワしている。少年が何かあったのかと声をかけようとした時、グゥと音が聞こえた。


「……お腹減った」


「言われてみたら確かに……」


 どうやら腹の音だったらしい。長旅の上食事もしていないのだ。空腹が限界を迎えてもおかしくない。少年もそれは同じであった。


「じゃあ、食糧の確保をこれから……」


 少年が言いかけたその時、


「テメェ、俺に因縁つけてやがるのか〜!?アァーン!?」


「被害妄想はやめてくれよ!」


 何処からか聞こえる言い争い。何処だろうと探しているとガヤガヤと野次馬たちもその場に群がってきていたので簡単に見つかった。


「毎度毎度邪魔してきやがって!お前が対戦被せてこなきゃ今頃俺は、勝ってたんだよ!」


「空いてる席がここしかなかったんだよ!それに強いやつから落としていくのは、戦術として当たり前の話だろ〜」


「それの度が越してるってんだよ!ストーカーみたいに付き纏いやがって!」


「ぐぼッ!きっさま〜!やったな!」


 その言い争いは一方の男がヒートアップし手を出した事で、そのまま喧嘩にまで発展した。


「おい!またアイツらがヤってるぞ!」


「いいぞ!ヤれヤれ!」


「サバリッチ!相手のガードが低いぞ!顔を狙え!顔!もっと攻め返せ!」


 周囲に集まってきた人たちが観戦を決め込みながらヤジを飛ばす。この場にいる人間たちの小慣れた感じからもはや日常茶飯事のようである。


 二人がその現場に近づいていく。間近で見るとこのゴロつきのような大人たちの、屈強な肉体が際立って見える。


 そんな二人が喧嘩している場所は、どうやら店の前であるようだ。店に掲げられた右側の釘が外れ傾いた看板には、カジノと書かれていた。


「へ〜ここが賭博場ってやつか」


 少年はよく賭けをする大人たちを見たことがある。勝敗が決まると一方は喜び、もう一方は酷く落胆する。それでも熱狂的に何かに取り憑かれたかのように、大騒ぎする大人たちの姿を見て何がそこまでギャンブルというやつに駆り立てるのだろうと疑問に思っていた。


「ねぇ、こんなところにいてもしょうがないよ。早くどっかいこ。巻き込まれたらいけないし、どうせ賭けるお金ないんだし」


「うん……でも何をあんなに騒ぐことがあるんだろう?」


 少年はここにきて唯一生気を感じるこの場所に、少し興味があった。


「さぁね……大人には大人の世界があるんでしょ」


 少年は、無表情でカジノをじっと見つめた後まだまだ続いている喧騒を背にこの場から去っていった。


「はぁ、日も沈んでるしそろそろ寝床も見つけないと……でもこんな場所で寝てたら何されるか分かったものじゃない」


 少年はそうだねと言いながらキョロキョロと辺りを見渡す。街の中を進んで店が増えた気がする。とは言ってもどこも簡易的な作りなのは変わらない。先程のカジノほどでは無いが路上に人も屯している。


「あそこ食べ物売ってる」


 少年が見つけた所は、リンゴやブドウなどの果物が売っている八百屋だった。


「ホントだ。でもどうしよう。お金がないよ」


 少女はせっかく目の前に食料があるのに、手を出さないという状況にどうしようもなくヤキモキする。


「別に盗めばよくない?」


「え!?いや、でも」


「どうせこんな所なんだし、窃盗の一回や二回大した問題にはならないでしょ。長居なんてするつもりもないから」


「え〜……」


 少年は少女を置き去りにして店まで歩き出す。布でテントを張っただけの小さな店だ。店主と思しき太ったおばさんが一人で木箱に腰掛け帳簿を確認している。


 少年は屈みながら商品が置いてある台を障害物に、おばさんの視界に自分の姿が映らないようにする。


「……」


 少年は立ちあがりざま、左腕で持てる分だけ掻っ攫うと胸に抱え込み走り去っていった。


「!?こら!待て!泥棒!待ちやがれクソガキ!」


 そんなこと言われて待つわけもなく。少年は、どんどん店から遠ざかって行く。


「追っかけてこないな……あの体型だからこれないのか……?」


 いや、店を無人にしたらそれこそ盗んでくださいと言ってるようなものだから追いかけようと思ってもできないのか。何にせよ、このまま逃げ切るのは楽勝みたいだ。


 走りながら振り向いておばさんの様子を見れば店の側で何やら叫んでいるのが分かる。もう少し苦労すると思っていた少年は肩透かしを食らった気になった。


 本当にやったのかと少女は、内心ヒヤヒヤしながら小さくなっていく少年の背中を見る。


「えっと……私はどうしたら……」


「どうかしたんですかい?」


 そしてこの店主の騒ぎを聞きつけ見知らぬ男が現れた。


「リョハンさん!今さっき変なガキが店の商品を盗んで行きやがったんですよ!」


「なに?」


 何処となく剽軽さを醸し出す男はその言葉を聞き、目を細める。


「ほら、あそこですよ!」


「なるほど。たまたま俺が通りかかってよかったな。うちの組のシマと知っての狼藉か……とにかくおばさんからは、みかじめ料も貰ってるし一仕事してきますぜ」


 リョハンと呼ばれた男は、それだけ言い残すと走って少年を追いかけていった。


 !?速ッ!


 まるで草食動物を追いかける猛獣のような、俊足。スタートからトップギアを維持しみるみる少年に追いついてゆく。


「私も行かないと!」


 このままでは少年が追いつかれてしまうのは明白。少女は、急いで少年の背中を追いかけていった。



 少年が安堵したのも束の間、後ろから気配を感じた。それもピッタリ背中をくっついてきているような気配。

 気になって再び後ろを見ると、自分より遥かに速いスピードで追いかけてくる男が目に入った。


「なんか追いかけてきてる」


 元々こうなる事は想定内。少年は気を引き締めて足の回転率を上げる。


「あのガキ……なかなかいい脚持ってんじゃねえか。それも両手が塞がりながらあのスピードを維持してやがる」


 男は不敵に笑うと更に腕を早く振り、走るスピードを上げた。


「まだ、ついてくる」


 凄まじい執念だと少年は顔を歪める。


 このままだとすぐに追いつかれるな。


 少年は手持ちのミカン一つを後ろの追っ手に向かって投げ捨てる。


「小賢しいな」


 追っ手の男はスピードを緩める事なく、ミカンを手で弾き飛ばした。


 少年はなんとか追っ手のスピードを緩めようと通りかかった家に立てかけられていた木材や梯子を足でつついて倒していく。


「あ〜!メチャクチャしやがって!」


 男は自分の追いかけている少年の奇行とも取れる素行から、絶対に捕まってはならぬという強い意志を感じた。


「そんなに捕まりたくないなら、最初から盗みなんてするなよ!」


 何とか走りながら身を捩って倒れてくる木材を躱し事故を免れる。その厳しい体勢で避ける事はできないだろうと、少年は二つ目のミカンを男に向かって投げる。


「ぶっ!」


 避けるのは困難。ミカンは見事に男の頬に命中した。


「や、野郎……!」


 男はこめかみに青筋を浮かべ、静かな怒りを灯す。明らかな怒気を含んだ形相で少年を追いかけ始めた。


「……まだ速くなる!?」


 その後も倒れてる大木を飛び越えたり、人の影を縫うように蛇行したり、洗濯物の干してある衣類で姿を眩ませたり、階段を飛び降りたり、敢えて障害物競争に巻き込んだがそれでも奴の足は止まらなかった。


 全然追い払えない……こうなったら。


 少年は手元に2個のミカンを残してそれ以外を地面に転がした。少年は自分の命には変えられないと、盗んだものを地面にばら撒きミカンを抱え込んだまま走るのを止めたのだ。


 少年は身軽になった事で更に障害物を避けるスピードが上がる。


「ハ!その程度で!」


 男は転がり落ちる果物を意にも介さず飛び越える。


 少年には最早妨害する手立てはない。よってスピードの他でも勝負に出ることにした。


 少年は目の前のボロ小屋の側にある洗濯物干しの木の杭に器用に片足だけで飛び乗る。それを足場にして更にジャンプし、隣の店の布で張られたテントに着地。右手のミカンを左手に移し片方の手を空けると、その場で半回転しテントから小屋の屋根へと飛び移った。右手で屋根のヘリっちょを掴んでそこから体を持ち上げ屋根の上に登る。


「なんだコイツ……!遊んでんのか?」 


 いきなりある種曲芸じみた挙動を見せ始める少年に男は目を丸くし驚愕した。


「チッ!逃すかよ!」


 しかしアイツ……ガキとは思えん身のこなし……だからってここで俺が逃したら仲間に笑われちまう!


 男は逃しはしないと、持ち前の身長で直接屋根までよじ登ると絶対に逃がさんと、決意を固めて屋根から隣の家の屋根へと飛び移る少年を意地で追いかけ回す。


「ちょっと……!追いつけないんだけど」


 少女はと言うと徐々に二人からの距離が開いていき次第に息も苦しくなってくる。

 それでも少年が心配だと、諦める事なく追いかけ続け、先程の少年と同じように古屋の屋根に上った。その時だった。


 バキっと足下の屋根が乾いた音を立てると同時に体が突如として沈んだ。


「え!?」


 そのまま家の中に落っこち尻餅をついた。木屑と埃がその衝撃で舞い起こる。


「いてッ!もう……どんだけツいてないの……」


 少女はジンワリと襲いくるお尻の痛みを紛らわすかのように、尻餅をついた部分を摩りながら立ち上がる。


 小屋の内装を見渡す。質素な家だ。家具も窓も何もない。ただ埃を被っただけのこの小屋は、長いこと空き家であったことがわかる。


「良かった。空き巣で」


 誰かが来ないうちに早く出よっと。弁償まで請求されたら敵わないよ。


 少女は家の扉に手をかける。そのまま扉を外へ開いて出た途端、目の前を誰かが横切った。


「ゼェゼェ……」


 息も絶え絶えに体に鞭を打って走っている状態で、右手に巾着を握っている少年だ。


「ウッ!」


 もはや足も言うことを聞かなかったのだろう。前のめりですり足気味だった姿勢から足が詰まり、とうとう地面に倒れ伏した。


 その拍子に大事そうに握っていた巾着袋も地面に放り出される。それを追うようにチャリンと甲高い金属音が幾つも鳴らされる。


 少年は慌てて立ちあがろうとするも腕に力が入らないのか、うまく立ち上がれないでいる。

何に必死なのか。それでも少年は這ってでも転がり落ちた硬貨を拾い上げる。砂に塗れながらも気にすることなくヨロヨロと立ち上がった少年は頼りない足取りで、何処かの曲がり角へと消えていった。


「何だったんだろ……?」


 少女が少年の一部始終を見た後、少女の疑問に頭を悩ませる暇もなく今度はバタバタと落ち着きのない足音が近づいてきた。


「おい、そこのお前」


 近づいてきた二人の大人の視線は明らかに少女に向いている。まさか話しかけられるとは思わなかった少女は肩を跳ね上げ驚きながらも視線を合わせる。


「さっきここらに薄汚れたガキが来なかったか?」


「いや、見てない……」


 少女は首を横に振り、平然を装ってそう答える。


「チッ!見失ったか……!」


「あの死に体だ。そこまで遠くに行ってないはずだ。二手に分かれて探すぞ!」


 二人組は、ここで立ち止まってる暇は無いみたいだ。何があったのかは知らないがあの少年を追跡すべく二人組は走り去っていった。

 

「つい嘘をついちゃったけど……まぁ、面倒ごとに首を突っ込むこともないしこれでいっか」


 思わず少年の行方を知らないフリをしてしまったが、少女は過ぎたことだとこれ以上気にしないことにした。


「それより私も彼を追わないと」


 少女は、屋根伝いに少年が向かった先に検討をつけて走り出した。




「……しつこいな」


 決して挫けない執念深さに加え俊敏性、瞬発力、持久力。この項目のスペックで言えば全て自分を上回っている。あの手この手で追っ手を巻こうとしたがそれでも通用しない。


 少年は屋根から木の枝へ。木の枝から今まで通ってない反対側の大通りへと飛び降りた。


 そしてここで少年は態と走るスピードを緩めた。


「流石にアイツも、もう体力ないだろ!」


 先程の勢いが消沈した少年を見てやっと追いかけっこが終わるのかと、男は勝ち誇った笑みを浮かべる。まだ決着には早いがこうなれば結果は見えたも同然だと考えているのだろう。

 

 男は少年を捕まえようと更に少年に追いついていく。重ねて少年は逃げ場のない路地の行き止まりに入ってしまった。


「終わりだぜ!小僧!」


 手を伸ばし少年の肩まで数メートルのところで少年はミカンを真後ろに放り投げた。


「何して……」


 少年は壁を蹴って真後ろに振り返りながらジャンプするとすぐ側まで迫っていた男の頭に手をつく。次に足を左右の肩に乗せると、そのまま蹴り飛ばす勢いを利用して男を飛び越したのだ。少年は宙に投げたミカンをキャッチすると路地の外へ逃げて行った。


 少年に蹴られた反作用で、ゴン!!と鈍い音を立て男は壁に頭をぶつける。


「ゴハッ!」


 男は思わず痛みで崩れ落ちそうになるも、根性で踏みとどまる。


「舐めてんのかァ!クソが!」


 男は怒りに感情を任せ突進する勢いで、路地を脱出する。その途端横合いから数々の木材が襲いかかってきた。男はそれに巻き込まれそれらに埋もれる。


「うごァ!クソ!クソ!どけよ!」


 男が少年が死角から倒してきた土木材料を押し退けた時には、すでに少年は曲がり角を曲がっていた。


「ここまで苔にされたのは初めてだ!あのガキ!絶対にボコボコのギッタンギッタンにしてやるぞ!」


 少年は、死角からの妨害と曲がり角を利用して、なんとか追っ手を突き放すことに成功する。


「やっと巻けたか……」


 少年は追っ手がいないことを確認した後、壁のそばにも垂れ込み膝に手をつき息を整える。少し休憩しようとそのまま座り込んだ。


 もう走れる体力はない。あれ程しつこく追いかけ回されるとは思ってなかった。空腹だったとは言え、正直迂闊だった。


 少年は自分の浅慮な判断を深く反省すると同時に、自分の手に残った二つの食料を見る。


「ん〜みかん二つか……」


 少年は早速一つみかんの皮を剥く。変色してないか、腐ってないか、異物が混入してないかなど匂いを嗅いだり、観察したり、ほんの少し齧ってみたりして安全性を確認した後、一切れ千切って口に入れた。


「味は悪くないかな」


 少年はみかんを一個食べ終わると、余った皮をその辺に捨てる。残りの一個も皮を剥きゆっくりと食べ始める。


「結局……ここは何処なんだろ」


 連れ添い曰く、自分の知ってる街とは違うけど確かに同じ街。今日確かに目に映ったのは、魂の抜け殻なような浮浪者とこの街に住む高慢な大人たち。見覚えがあるはずだ。取り巻く環境は違えど自分がいた集団とそっくりな場所だよ。


「外の世界には期待してたんだけど……上に立つ人間と下に立つ人間に分かれてるのは何処も同じなのかな」


 少年は少々落胆した様子を見せる。失望とまではいかなくとも、期待を下回る外の世界の様子に好奇心が薄れつつあった。


「……て言うか、何か忘れてるような」


 少年はボーと頭上の架け橋を見上げる。漠然とした感覚。何かを取り残してきたような……


 暫くそうしているうちに曲がり角の向こうから気配がした。少年は足音がする方向を警戒する。

 一つの人影が先行した後現れたのは……


「こんな所にいたの。やっと見つけたよ」


 連れ添いの少女が肩で息をしながら姿を現した。


「あ」


 少年は得心のいった様子を見せた。


 ───そうだ。何か忘れてた気がしたんだ。こいつのことだったか。


「あちこち探したんだよ。もう、勝手にどっかにいかないでよ」


「まさかついてきてくれてたとはね」


「そりゃそうだよ。こんな街で一人置き去りにされる身にもなって。探し出すの大変だったんだから」


 少年は膝に手を当てゆっくり立ち上がる。


「また別のところに食糧探しに行くか」


 こんな街だから治安維持がザルだと思ってたけど……あの追いかけ回してきた男。警備隊らしき人がいたな。通報されたら面倒だし次盗む時は暗い夜の間にやろう。


「またァ?もう走り回るのはゴリゴリだよ……でも、空腹なのも確かだし……」


 少女が少年の言葉を完全に否定できない程の極度の空腹が葛藤を生み出していた。板挟みに唸りながら、やむを得ないと切り出そうとしたところで、


「ぐぅ!」


「このガキ!このガキ!」


 二人がいる橋の下の目立ちにくい向こう側に一人のガタイのいい男がいた。その足元には地面にまんまると蹲った少女が呻き声を上げていた。

 何度も何度も容赦なく背中を踏みつけられ、横腹を蹴られても出せずにいる。


「この泥棒が!お前のせいで!俺は散々!あ〜クソ!イラつくぜ!お前の息の根を止めてやる!」


「グフ!ゲホッ!」


 二人の間に何か事情があるようだ。この一連の出来事だけを見てどちらが善悪なのかは判断をつけれない。


「ちょっとこれは……あまりに可哀想じゃない?」


「何のこと?」


 少年は目の前の出来事を見せ物にするつもりはなかった。そんなことよりも自分のことを気取られないように早々に立ち去ろうとする。


「あ、待ってよ。放っておくの?」


「……さっきから何がそんなに気になるって言うの?あれくらい別に珍しいことでもないでしょ。面倒ごとに首を突っ込みたいなら自分だけで行きな」


 少年が面倒臭そうに踵を返した時、ついに男がこちらに気づいた。


「何だお前ら……!こっち見てんじゃねぇよ!こいつと同じ目に遭いたいか!」


 少年は言わんこっちゃないと言わんばかりに目を細める。


 少女の方を見ると、彼女は少年とは対照的に勇んで前に踏み入った。


「その子が何をしたのか分からないけど……少しやり過ぎだよ」


「は?急になんだお前?」


 少年も男と同じように、少女の言動に何のつもりなのかと懐疑な表情を浮かべる。


「何がしたいのかしらねぇがな。お前のようなガキがこっちの事情も知らず、口を挟んでいいようなとかじゃねぇぞ、ここは」


「でももう十分でしょ。その子痣だらけだし、呼吸すらまともにできてるか怪しい。このままだと本当に死んじゃうよ」


「だからお前とは関係ねぇだろうが。それともなんだ?お前にはどうしてもこいつを助けなきゃならない事情でもあんのか?」


「……そうじゃないけど、じゃあ彼女が死んでもいいって言うの?一時はおじさんの気も済むかもしれないけど、平常心に戻った時、後処理が大変じゃない?問題が解決するどころか増えてしまうかも───」


「やかましい!説教のつもりか!?ガキの分際で────ガキ?」


 自分の言葉にハッとした男は、反芻し二人の身体をマジマジと見つめる。その後、何かを勘づいたかのようにフッとしたり顔でニヤケ面を見せた。


「見たところお前らとコイツは歳が近そうだな。そう言うことかよ。お仲間だったか」


「え?」


 二人は何かを勘違いされてることに、気づくも男は気にせず続ける。

 

「今回の犯行はコイツだけでなく、複数犯によるものだったな。なんの正義気取りかと思ったがお前らもコイツが必要だったわけか」


 話があらぬ方向に進んでいき、修正不可能なレベルまで捻れてしまった。事情はわからないが、目の前の二人がなんらかの事件と関連があることがわかる。そこで軋轢が生まれたみたいだ。


「そうと分かれば話は早ぇ。共犯がノコノコと現れてくれたんだ。お前らもまとめてカルネスト組に突き出してやるよ!」


「や、やる気!?」


 でも私たちに気が向いたおかげで、おじさんが彼女から離れた。私に釘付けになってるうちに、彼があの子を連れて逃すことはなさそうだから……この場で倒すしかない。


 少女は突進してくる男を迎え撃つように、前へ踏み込む。


 男は少女のあまりに無謀な選択に、もはや笑いが込み上げてくるようだった。


 望み通り返り討ちにしてくれる!


 男は少女の頭頂部に拳を振り下ろす。一切の加減もなく打ち下ろされた拳は少女の頭に吸い込まれるかのように向かったように見えた。が、少女はさらに頭を低くし姿勢を丸め、大きく一歩を踏み出し相手の懐に飛び込んだ。男の拳は少女の背中スレスレを通過する。

 男は予想を裏切る展開に、歯軋りする。こんなガキに一発でも外してしまったことがよほど屈辱なのだろう。


「フッ」


 少女はその勢いのまま相手の鳩尾に肘打ちを打ち込んだ。


「ウグッ!」


 男は臓器を揺さぶられる激痛に悶絶する。少女の元へ差し出されるように垂れ下がった顎に、遠慮なく右のアッパーを叩き込む。白目を剥く男を背にするようにその場で半回転し、伸びたままの右腕を掴んで背負い投げの要領で男を投げ飛ばした。


「おりゃ!」


 少年は投げ飛ばされた男をヒラリと躱す。倒れ込んだ子供に近寄る少女の方を見た後、男に一瞥をくれる。


 あながち蛮勇ではなかったわけか。


 少年は男に向き直ると、念の為状態を確認しに行く。


「二発目のアッパーで気絶していた。油断による意識外からの攻撃だったとはいえ、これだけの体格差がある相手に」


 少年は男の下でしゃがむ。グッタリと横たわっており、明らかに正気ではないことが分かる。


 状態を確認した後、おもむろに男の懐を漁り始めた。上着のポケットからズボンのポケットに手を突っ込むとある感触を感じた。

 少年はそれを引っ張り出すと紐で口が固く閉じられた財布を見つけた。


 収穫あり。これはもらっとこ。


 少年はさりげなく金品を窃盗すると、少女の方へ向かっていった。

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