行く先は
私は旅をしていました。
とても辛く、険しい旅でした。
しかし、同時に心躍る旅でした。
何故なら目的地がどこよりも素晴らしい楽園だと聞いていたからです。
だからこそ、私はどんなに苦しくとも耐えられたのです。
進むことができたのです。
そして今。
私は目的地にたどり着きました。
「うそ……でしょ?」
私は自分自身の言葉をどこか遠くで聞いていました。
自分の声や心さえもが自分のものだとは思えなかったほどに、私は動揺していました。
私の眼の前に広がる楽園の入口。
それは、何か大きなモノが涎を垂らして開いていた大口だったのです。
こんなところに入りたくなんかない!
そう思ったのも束の間。
私は後退りさえ出来ないことにようやく気が付きました。
いえ。
より正確には足が前にしか動かないことに気づいたのです。
本当に、今更。
「やだ……やだ!!」
泣きながら叫びましたが、私の足はそのまま前に進み続けました。
止まることなく。
けして、止まることなく。
・
・
・
ある存在が命を喰らい、開いていた口を閉じた。
それは疑問を乗せたため息を吐く。
「人間というものは理解ができん。何故、奴らは結末を幸福だと思うのか」
あらゆる命が必ず至る結末。
それが、死。
故にこそ生き物は悔いのないように生きる。
恐ろしいものを理解し、最後には静かにそれを受け入れる。
しかし、人間だけは違う。
死の後があると信じ込んでいる。
終わりの先を疑わない。
「理解できぬ。終わりは終わりだ」
そう言ってその存在は大口を開き、新たな命が死に至るのをのんびりと待った。