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6話

 所変わって泉の女神フォンテーヌの領域。ボスールに加護を与えたのちいつも通りに訪れたボワは、空間を渡った瞬間に領域の主に突撃を食らった。


「もおおおおっ、ボワちゃんずるーーーい! 私出られないのに自分ばっかり会いに行ってー!」


 飛び込んできた先輩女神を大樹のごとき安定感で抱き留めると、ボワはフォンテーヌを横抱きにしてすたすたと室内に入っていく。


「なーに言ってんですか。今出ていけないのは自業自得でしょ。感情の赴くままに加護与えるだけ与えて降臨しなかった先輩のフォローしてあげた可愛い後輩に文句いわないでくださーい」


「一息で言うー! ボワちゃんの意地悪ぅう」


 泣き言を言いながら首に縋りついてくるフォンテーヌを、ボワはさっさとベッドの上に放り投げ、その隣に腰を下ろす。


「むしろ感謝してくださいよ。アッシュ、降臨がなかったのめちゃくちゃ気にしてたじゃないですか。あの言い方なら魔物のせいで出てこられないんだって思ってもらえるでしょ? 事実がきゅんとした結果加護を与えたものの恥ずかしくて最後まで出られなかっただけってことは隠し通せますよ」


「ごめんなさいありがとうございますボワ様! でももう言わないでよ~~~~! 私だって反省してるんだってばぁぁ……」


 ベッドの上で横向きに寝転がったまま顔を両手で覆い、フォンテーヌは足をバタバタと動かし悶えた。本来加護を与える際の神の行動は「加護を与える」「加護を与えた人間の前に降臨する」がセットになる。前後する場合もあるが、どちらも行う、という点について変わりはない。感情の高ぶるままに加護を与えてしまったとしてもそれは同じことだ。本来であればフォンテーヌは、アッシュに加護を与えた時点で彼の前に姿を現す必要があった。しかし見た通りに箱入り女神の彼女は自分の感情についていけず、待ち続けるアッシュに申し訳なさを覚えつつも結局彼の前に降臨出来ずに終わってしまった。


 なおこのことは、「それが高位女神のやることか」と周辺の神々からもお叱りを受けている。とはいえ、今更何もない状況の中出ていくのは神格的になんとも具合が悪い。結局、アッシュに同情しつつも、神々は「『来てもおかしくない』という状況になるまで降臨は見送る」、という結論に至ったのだ。


 それからの数日、フォンテーヌは地上の様子を水鏡で観察してはときめき、ときめいては自身が傷付けてしまっている現状にしょぼくれるを繰り返していた。その様子を毎日見ていたボワはどうにかフォロー出来ないかと日々考えていたが、ボワ自身もフォンテーヌより下とはいえ神格の高い女神。おいそれと降臨するわけにはいかない。


 そこにきて、今日のボスールの活躍である。ボワがボスールに加護を与えたのは先の言葉の通り森を守った功績とその祈りの深さを認めたからなのだが、理由の一つにはフォンテーヌのフォローをする機会を得るため、というのがこっそり含まれていた。それだけ心を砕いたのだ。多少意地悪を言うくらい許してもらいたい。


 くすりと笑い、ボワはまだ悶えているフォンテーヌの肩を軽くぽんぽんと叩く。


「まあまあ、何はともあれ言い訳は立ったわけですし、もう素直にときめき爆発させてもいいですよ? 『我が女神』、とか言われちゃいましたもんね?」


 軽く声をひそめてからかうような色を見せれば、フォンテーヌはぼふっと瞬間的に火が沸き上がったように顔を紅潮させた。それを見てボワはにやにやと笑みをこぼす。そう、これが見たくてフォローしたのだ。


 我が、という言い方は、聞きようによっては神を所有物扱いするような不遜な物言いに思えるものだろう。だが、この国においてはその限りではない。この国は多神教であり、遙か昔から神はそのことごとくを敬って然るべきとされている。その上で、個別の神を祀る神殿が増えるに従い、人々は自身の心の内に置く神を決めるようになった。その存在を表す言葉こそが、「我が」なのだ。


 神々にとってこれは賛否両論ある事態なのだが、同時に「多数分の一」ではなく「自分のための信心」が捧げられる貴重な現象でもある。そして、信心が集まりづらい比較的若い神々からすれば、この言葉は憧れの対象でもあるのだ。フォンテーヌは神格の高い女神であるものの人が訪れる機会の少ない――少なかった森の泉の女神であるため、今までそのような機会に恵まれてこなかった。そんな彼女にとって、深い祈りを捧げ自分のために戦ってくれる騎士が「我が女神」と呼んでくれたことは、これ以上なく刺激的なことである。


「や、やっぱり言ったよね!? 私の聞き間違いじゃないよね? アッシュ私のこと『我が女神』って呼んだよね? ~~きゃあああああっ、嘘みたい嘘みたい嘘みたい! あんなに深い信心の人間が私のこと選んでくれたなんて! 降臨する時に、わっ、『我が騎士』、とか呼んでも良かったりするかな? ねえねえボワちゃんどう思う?? いいかな?」


 我が騎士、とは、神々からすれば加護を与えた人間の中でも特にお気に入り、かつ神界にて自身の、あるいは人界にて自身の教会の守護を任せた相手を指す言葉だ。祈りを捧げられ信頼を返す関係性、ということで、若い神々にはこれまた憧れのひとつなのだ。何故憧れか、というと、一昔前の神々が「我が騎士」を乱立させたせいで、さらに上の神々から怒られ、「騎士を任命するのは1柱3人まで」と決められてしまったからだ。長い長い時間の中、たった3人。神々にも見極めが必要になってしまった。結果、騎士にと思える人間を見つけられることは最早若い神々からすれば「運命の出会い」なのだ。


 先程と違う意味で悶えるフォンテーヌ。180度違う楽し気な様子に、ボワも満足そうに微笑み「いいんじゃないですか? 喜びますよ」と相槌を打った。ともすればただのおべっかだが、相手がアッシュだと本当に喜ぶ姿しか浮かばない。ボワの心からの肯定にフォンテーヌはまたも興奮して歓声を上げて足をばたつかせる。


 アッシュたちは早く解決してくれないだろうか。降臨の日が楽しみで仕方ない。そんなことを思いながら、ボワは自身に供えられた酒を空間から取り出しごくりと喉を鳴らした。甘ったるくはしゃぐ女神は辛口の酒によく合う。


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