2話
誤字報告ありがとうございました✨
始まりは些細なことだった。いつも森の女神に祈りを捧げてから木を切っている信心深い木こりが、ある日斧を泉に落としてしまったのだ。泉の女神・フォンテーヌはそれを憐れに思い、いつもの信心深さを褒めるつもりも込めて彼の斧も持ちつつ泉から姿を現しこう尋ねた。
『あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それともこの銀の斧ですか?』
正直者の木こりはそれをどちらも「違う」と答えたので、フォンテーヌは満足して彼に全ての斧を渡してやった。
すると、正直者故に女神からの賜りものについて隠すことが出来なかった木こりは友人にその話をし、友人は「ならば自分も」と喜び勇んで斧を泉に投げ捨ててきた。そうと知らずフォンテーヌは泉の縁で泣いている――のちに泣き真似と分かったが――男を憐れみ同じように質問をしたが、男は欲に駆られ最初から金の斧を要求してきたのだ。フォンテーヌは怒り、男の斧も返してやらず泉に戻った。激しく反省していたようなので少しばかり憐れみが浮かんだフォンテーヌだが、他の神々や妖精たちに女神を騙そうなどという不敬な真似を許すべきではないと諭され彼についてはそこで話を終わらせた。
問題が起きたのは、その後だ。
木こりとその友人の話が出回ると、人々は友人の二の轍を踏まなければいいのだ、という解釈をしたらしい。次々に訪れては泉に物を投げ入れ始めた。最初の頃こそ真面目に対応しては、本当に困っていて藁にも縋る思いで来ている者だけは助けていたフォンテーヌだが、欲望まみれの人間ばかりになってきた頃にぽっきりと気持ちが折れてしまう。
「もう私知らない!!」
言うや否や泉の奥底に引きこもったフォンテーヌ。女神が姿を現さなくなった泉に、しかし人々は次々に物を投げ入れ続ける。水は次第に濁り、汚れ、穢れは次第に泉の中や水が流れた下流に魔物を発生させるようになってしまった。
泉から発生し始めた瘴気は徐々に徐々に森を侵食し始める。それを受けて怒りを人間に向けたのは、森の女神ボワだ。彼女は神殿に怒りの神託を授けた。
『泉にこれ以上ゴミを投げ入れ泉の女神を侮辱するのであれば、人間に森の恵みは渡さない。疾く対応せよ』
女神の神託に事態を重く見た神殿はすぐさま触れを出し、下位機関である教会を通しこれ以上泉に物を投げ入れることのないよう人々に呼びかける。信心深い者たちはそこで止まり泉の女神に非礼を詫びた。しかし、それでも泉に物を投げ入れる者は後を絶たない。商人を通じて遠方まで噂が広がってしまったせいで収拾がつかなくなったのだ。
泉に水の魔物が生じてしまったため泉を綺麗にすることも出来ず手をこまねいている状況で、物が増え、さらに魔物に襲われた人間の血で穢される機会が増えてしまっては悪循環と言う他なかった。
これ以上女神の不興を買うわけにはいかない教会は、ある時ついに決断する。強い信心を持ち一風変わった才能から聖騎士にしたものの、融通が利かな過ぎて扱いづらい男を泉の守護にすることを――。