1話
大地を揺るがさんばかりの轟音と振動。それを与えた巨大な武器が自身のすぐ脇を掠めたことに、尻もちをついた男は目を見開き青ざめる。視線は正面から動かすことが出来ない。本当は目を逸らしたい、こんな、鬼のような形相の男から――。
「……てめぇら……」
ゆらり、と鬼のような男が動き、巨大な武器が――通常サイズより大きなハルバードが、ゆっくりと持ち上げられた。刃の先からバラバラと落ちたのは、尻もちをついた男が持ち込んだ懐中時計だ。
「ここが女神の泉と知っての暴挙だな? 教会や神殿がここにゴミ捨てんなって発布してんのはもちろん知ってるよなぁ……?」
ゴゴゴ、と背後に怒りが渦を巻き、尻もちをついた男とその周辺に転がっている仲間たちは悲鳴を上げて何度も謝罪を繰り返す。ああ、来るんじゃなかった。教会からの通達は知っていたのに、欲に駆られてこんな所まで来てしまったのが運の尽きだった。信じていなかったのだ。泉を守る鬼がいるという話を。その鬼が――
「知ってて来てやがんならてめぇら全員罪人だ! まとめて八つ裂きにしてやらぁぁ!!」
「だから民間人にハルバード振るっちゃダメだって言ってんでしょうがああああ!!」
まさにハルバードが振り下ろされる直前、鬼のような形相の男と同じ制服のツンツン髪の男が必死の形相でそれを羽交い絞めにして止める。鬼のような形相の男はそれでも止まらず、ツンツン髪の男を振り払わんと暴れた。
「放しやがれボスール! こんな奴ら神の敵だ! 神の敵は滅ぼすのが俺らの使命だろうが! 何故止める!?」
「お言葉ですが止めないとここが現職聖騎士による殺人現場になるんですよ!! 教義の拡大解釈はやめてくださいアッシュさん!」
――ああまさか、誰が信じるのだ。泉を守護する鬼が、教会に所属し神に仕える現職聖騎士だなんて。
止める男――ボスールまで振り回して、鬼のような形相の男ことアッシュは暴れる。最早止められるのも時間の問題に思えた。その様子を震えて見ていた男たちに、ボスールは必死で叫ぶ。
「逃げろぉぉぉ、俺が抑えている内に早くーーーーー!!」
その叫びを受け、ようやく正気に戻った男たちは我先にと悲鳴を上げながら逃げ出した。
「待てやぁぁぁぁっ、逃げんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「追わないでくださいマジで教会の威信に関わるんでぇぇぇぇぇ!!」
聖騎士たちの叫びを背に、男たちは逃げる。ただひたすらに逃げる。そして後日近くの町では「泉に物を投げ入れようとすると鬼が出る」という噂が流行り、教会では上層部が揃って頭を抱えることになるのであった。
しかし彼らには暴走脳筋を引き上げられない事情がある。それは今から三か月前の話――。