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スキル【デイリーボーナス】

「うう……お肉が食べたい!!」


菜食主義じゃないのに、何日肉にありつけていないのだろう。それどころか、毎日空腹である。孤児院の貯蔵庫も悲しくなるぐらいに空だ。猟に出てはウサギなどの小動物を捕らえるけど、食べ盛りの子供たちがいるから、あっという間に食べ尽くされる。


何か定職にありつければ良かったけど、孤児院出身の人間が働くことが出来る場所は限られていた。一攫千金を目指せるのが冒険者になることだったけど、ユーリイが成人式の際に神様の像を拝んで得た固有スキルは【デイリーボーナス】という不遇スキルだった。


最初の1か月は、何が貰えるんだろうって、そりゃ楽しみだった。けれど、じゃがいも3個だの古びた斧だの、村の近くにある草原でも手に入るものばかり。

雑貨屋で二束三文で売っているものが大半で、食費の足しにもならない。

小銭とはいえ、ないよりはいいけどさ、とブツクサ言いながら、今や常連となった店の暖簾をくぐる。


店主はユーリイの顔を見るなり「今日は回復ポーションかい?」と声をかけた。スキル【デイリーボーナス】は曜日ごとに同じアイテムなので、毎日通っていればそうなる。今のユーリイにとって、小銭すら貴重な収入源なのだ。それに、受け取りをさぼると、ゴミ捨て場で拾った、ろくに入らない魔法の鞄、マジックバッグがいっぱいになってあふれだして、ゴミ屋敷になるからシスターに怒られる。


ユーリイはスキル【デイリーボーナス】以外スキルがない。どんなにレベル上げをしても、それ以外のスキルが発生しないのだ。


それでも憧れの冒険者になりたくて、前世である如月優斗の知識をフル動員して体を鍛え、ギルドに登録して魔物の討伐に参加してみたけど、お荷物っぷりは明白だった。パーティの仲間に迷惑かけっぱなしで、誘ってくれた孤児院の先輩との関係にもひびが入りそうだったので、仕方なくPTを抜けた。


(あーあ……。僕だって、夢見た時はあったんだけどなー……)


レベルを上げていけば、スキルレベルを上げれば、じゃがいもや古びた斧ではなく、もっと良いものが出てくるだろうと。

ただし、それが幻想だと気が付くのは、そう遅くはなかった。


いくらレベルを上げたところで、代り映えのないアイテムの個数が増えるだけだったのだ。


じゃがいも3個が5個に、5個が10個になった時、ユーリイの夢は脆くも崩壊してしまった。【デイリーボーナス】という見たこともないレアスキルを得た時、「働かずに貰えるなら、老後は安泰だなあ!」と思ってしまった自分を殴りたくなった。


「どうしてこんなやつ誘ったんだ?」という白い目に耐えてレベル上げをしたというのに、ひどい仕打ちである。


「……あれ? おっちゃん、もしかしてこれ値上げした……?」

「そうなんだよ。ワインの出来が今年は悪くてね」


酒浸りになりたくても、酒を買うお金もない。


(神様!!! どうして僕にこんなスキルを授けたのですか!!!???? どう頑張っても貧乏で、お先真っ暗なんですけど!!!)


ユーリイは絶望のあまり、僅かな貯金を握りしめ、気が付いた時にはスキルを授かった女神像の前に立ち、心の中で恨み言を叫んだ。


「な、なんだこれ……!?」


翌日、寝ぼけ眼でスキルを確認したユーリイは驚愕した。


スキル【デイリーボーナス】が【レジェンドデイリーボーナス】に変化していたのだ。


「ん~……。でもなあ……」


スキル名だけ豪華になって、報酬が変わり映えしないジャガイモとかもあり得る。この数年間の実績から、スキル【デイリーボーナス】への信頼感はぜろだった。


「こわいなあ……今日のデイリーボーナスは何だろう」


何時もだったら今日はジャガイモのはずだ。だが、ジャガイモの代わりにランダムボックスが入っていた。


説明書きを見てみると、ランダムボックスはリボンで封がされており、開封すると中身を入手出来て、箱が消滅するシステムになっているようだ。

試しに取り出してみると、リボンはレインボーで無駄にキラキラしている。孤児院の子供たちに見せたら、大喜びしそうだ。


(だけど、中身次第だよなー……。ぬか喜びさせてしまったら可哀そうだし。でも、これは期待しちゃうでしょう……!)


ユーリイはドキドキしながら、生唾をゴクリと飲み込み、おそるおそるリボンを開封してみた。


ポンッという音と共に出てきたのは―― 大きなニンジンだった。


普通のニンジンが、大根サイズのニンジンになっていた。


(うん……。そうだよね……。わかってはいたけど……)


その可能性は、考えていた。


それでも、ユーリイは嘆いた。


(違う……。違うんだよおおおおおおお!!! たしかに豪華になったけど!!!! こんなの規格外だから余計に売れないでしょ!!!??? 普通のニンジンが増えたほうがまだマシだよおおおお!!!!)


ユーリイは、地面をバンバン叩いて絶望した。


「お、おう……どうしたんだ? 今日はやけに殺気立ってるな?」


「ええ、ちょっと色々ありまして……」


ユーリイは大きなニンジンを片手に、血走った目で女神像に向かった。――お金がないので徒歩で。


女神像に祈りを捧げた数日後、ユーリイは襲撃を受けていた。ピコピコハンマーで頭をぶん殴られて、壁まで吹っ飛んで激突した。

脳震盪でも起こしたのか、頭がふらふらするし、見たこともないぐらい大きなたんこぶが出来たので、これはまずいと思い、ポーションをがぶ飲みして回復した。


最も売れる商品なので躊躇したが、病院に行くよりポーションを飲むほうが安上がりなのだ。


何しろ、襲撃者は女神エレノアである。ケチって死にましたじゃ、死ぬに死にきれない。


(まだ恋人だって居ないのに!)


ユーリイは、青春を謳歌するまで、死にたくなかった。


「姉さんに告げ口したのはお前だなー!?」

「……はい、そうですよ」


まさかスキルを作った張本人がお出ましになるとは思わなかったけれど、ユーリイは白い目で出迎えた。女神エレノアは、あの女神像の姉妹神だ。


世間的には天才と言われていて、スキルを作る創造神だ。


その偉そうな口ぶりと、派手な服装、そして尋常ではないパワーから、ユーリイは本物だと確信した。


「ちゃんとデイリーボーナスをレジェンドボーナスにしたじゃない! 私の傑作スキルに何か文句あるの!?」

「不具合スキルの間違いじゃないですかね」

「ええー? なんでそんなこと言うの!? ありきたりのスキルじゃ面白くないでしょう!? だからね、私すっごいの考えたんだ!! 私が異世界で読んだ神漫画と神小説からランダムに抽出してみたんだ。 どう!? 最高でしょ!!」

「どう!? じゃありませんよ!! 著作権的にも大丈夫なんですか、それ!? すみません、スキルをチェンジすることは出来ませんか?」


確かに昨日のデイリーボーナスではクマのぬいぐるみ、今日は飛び出す絵本が出てきた。いずれも使い古したもので、売り物にならなかったので子供たちにあげた。クマのぬいぐるみは立って歩いて喋るわ、飛び出す絵本は絵本の中の綿の羊が飛び出してきて子供たちは大喜びだったが、ユーリイの懐は以前よりも厳しくなった。

二束三文でも、売れるジャガイモのほうがマシだった。


ユーリイは怒りに震えた。


(こんなノリで生きているような女神に、僕の人生を委ねるわけにはいかない……!)


ランダムに抽出という時点で、闇鍋の香りしかない。ユーリイは女神エレノアと言い合いになり、大いに揉めた。


「もうっ! 人間なんて大嫌いよ!」


言い争いの末、エレノアがピコピコハンマーを再度振り上げたので、ユーリイは身構えた。けれど、そのピコピコハンマーはユーリイに届くことはなかった。


「ごめんなさいね、私の愚妹が迷惑かけて」


女神エレノアの姉が降臨したのだ。エレノアは姉に平手打ちをされ、両頬を腫らした。エレノアは、不貞腐れたような表情でユーリイに「しょーがないわね。ほらっ、これで満足するでしょ!」と頬に接吻をした。


「な、なにするんですか!」

「ほらキスしたらさ、女神の祝福がね」

「なるほど、祝福……」


しかし、でかでかと女神の呪いとステータスに追加されて、ユーリイは噴出した。


「どこが祝福!? 呪いじゃないですか!!」

「あ、嫌々やったからか」

「消してくださいよ!!」


てへっと舌を出すエレノアに、ユーリイは激怒し、再び言い合いを始めた。それを見かねて仲裁したのはエレノアの姉だった。エレノアの姉は、ため息をつきながら、エレノアの耳をつねった。


「女神の呪いを消すには、この子のスキルポイントが足りないの。天才だからとちやほやされて過保護に育ったから、世間知らずなのよ。それでね……」


お姉さん、言いずらそうにしている。

女神エレノアと視線あったら口笛吹きながら明後日の方向に向いた。


「しばらくこの子といっしょに過ごしてもらうしかないわね」


「嫌な予感しかしないんですけど……」


ユーリイの呟きは女神エレノアの「あー、お腹減ったわ。何か食い物ない? は? じゃがいもとニンジンしかないの? お前貧乏だなー」という神経を逆なでするような言葉によって、かき消された。


「うま! ただのジャガイモなのに、なんでこんなに美味しいの!?」

「ジャガイモばっかり手に入るから、ジャガイモの扱いに慣れてるんですよ……」


ジャガイモしかないのかと文句は言われるが、手持ちの食材がジャガイモしかない。【デイリーボーナス】が【レジェンドデイリーボーナス】に切り替わってしまったから、出るアイテムも変わってしまった。


ジャガイモは、ちょっと遠出する必要があるが、草原に自生しており、掘れば出てくる。食べ飽きてはいるが、ジャガイモのおかげで、飢え死にしなくて済んでいるようなものだ。


ニンジンは「下界の飯も悪くないな!」と食欲旺盛な女神エレノアが全部食べてしまった。仕方なく、ジャガイモ尽くしの料理を作っているのだが、女神エレノアは上機嫌で、もりもり食べた。


「あんた、良い旦那さんになれるんじゃない?」

「予定はないけど、ありがとう……。すみません、ちょっと気になるんですけど、なんでマイ箸とマイ皿を持っているんですか?」

「必要だから、創った。どう? これさ、可愛いでしょ~?」

「そんなことにスキルポイント使わないでくださいよ!」


女神のスキルポイントは貢物をすればするほど増えるらしい。ジャガイモを食べさせたから、少しだけスキルポイントが増えたのに、せっかく増えたポイントがきれいさっぱり使われていた。


ユーリイはぷっつん切れて、こう言った。


「僕は敬虔な女神様の信者ですからね。お供え物をして、今日あった出来事を、お姉さまに御報告を……」


「待った……! 待ったあああああ!! もうしない! もうしないから!!」

「……今度からスキルポイントを使う際は、僕に一言言ってくださいね。おかわりが欲しいなら、まだいっぱいあるので、食べてくださいね」


ガタガタ震えだす女神エレノアを哀れに思い、ユーリイは少しだけクールダウンした。


食事を終え、ユーリイは孤児院の自室にエレノアを招いた。エレノアの姿はユーリイにしか見えないようだったが、それでも寝泊りする場所は必要だろうと思ったからだった。

年長であるユーリイの部屋はそれなりに広く、エレノアが寝るスペースぐらいはあった。


「殺風景な部屋ね。……これは何?」

「ああ、それはお恥ずかしながら、小説ですよ」

「へー こうゆうの好きなんだ? 私も好きだよー」

「漫画と小説を読んでるって言ってましたもんね。どんなのが好きなんですか?」

「悪役令嬢系だよ! それ以外は勝たん!!」

「へんな言葉も覚えちゃって……」


ユーリイは前世のことを懐かしく思った。前世は前世で楽しい人生だったからだ。


「小説を書いている途中でこちらに来てしまったので、つい書いてしまうんですよね。続きを待っている読者様もいただろうに、せめて完結してからこっちに来たかったですね」

「ちなみに、どんな作品を投稿してたの? 作者名は?」

「え? いや恥ずかしいんで無理です」

「続き書いてあるなら、代理で投稿してあげるよ。こっちに来てかなり時間が経っているだろうけど、時を司る神に友達がいるから、そいつに頼めば時間を遡ることも出来るし」


女神エレノアの提案に、ユーリイは目をパチクリさせた。


「本当ですか? こちらに骨を埋める覚悟でしたので、それが出来るなら助かるんですが。紙もどんどん貯まっていくばかりだったので」

「今回の件は全面的に私が悪いしね。そのぐらいはしてあげるよ」

「えーと、たしか作者名は……、厚切りブロックって名前にしてましたかね」

「お肉好きね……」

「はい……」


だからこそ野菜しか食べれない生活は辛いものがある。前世では両親がキャンプが大好きな人達で、近所の激安店で肉をいっぱい買ってはバーベキューをしていたから、なおさらだ。

きっとエンゲル指数は高かっただろう。


「って字小さ!?」

「紙も貴重品なんで、そんなに使えないんですよ。友人が生産スキルを持っているので、ご厚意で作ってくれるんですけど、何時までも甘えていても悪いし、そろそろペンを折ろうかと思っていたところなんです」

「へー」

「まぁ、こうゆうところに住んでいると、創作意欲が湧くというか……気が付いたら羽根ペン持ってますね。たまに挿絵とか表紙も描いたりするんですよ」

「ねぇ、それちょっと見せてよ」


食い気味にエレノアが顔を近づけるので、ユーリイは眉を八の字にした。


「ええ……なんかちょっと恥ずかしいなあ」

「いいから見せてってば」

「下手の物好きというやつですよ。下描きも着色も出来ないから、一発描きに近いですし」


ユーリイは描いた絵をエレノアに見せた。エレノアはその絵を見るとプルプルと肩を震わせ、土下座した。


「神いいいいいい!!! なんでもやるから、もっと描いて!!!」

「え、ちょっと、神様は貴方でしょう! 土下座はやめてくださいよ!!」


神エレノアのユーリイへの態度は百八十度変わったのだった。






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