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4 聖剣と結界

・【悲報】シナリオ中の重要アイテムがどう見ても地球の地名

 四角い本体に逆U字形の金属棒をつけた、あの錠前。

 パリの橋の欄干なんかに『愛の証』としていっぱいつけられているあいつ。


 その名前は 南 京 錠 orz


 仕方ないので、別名である巾着錠・パドロックを使用しますm(_ _)m


・1エンゲット=2メートル強。

 勇者の使っていた武器『偃月刀』の長さが起源。


 異世界の単位をどうするかは悩ましい問題ですが、私はオリジナル尺度を使っていくスタイルです。

「話を逸らしてしまいました。

 黄金の曲刀こと聖剣・金地螺鈿毛抜形太刀を、タウンハウスにて公開するということでしたね?」


 シーズリー男爵の言葉にコジュリーはうなずき、話を進めた。


「そうです。元は領地の某所に──他の家宝や聖遺物がまだありますので、詳細は申しませんが──厳重に保管してありました。それをタウンハウスまで移送したのが5日前です」

「失礼、移送はどのような方法だったかお聞きしても?」


 クリフォス卿が尋ねた。


「幸い国から転移の許可が下りまして。まず聖剣と子爵夫妻、つまり僕の両親。それと魔術師、使用人、警備の者たちの合わせて10名ほどが、領地から王都まで転移陣を使用しました」

「なるほど。国宝とも言える聖剣を馬車などで運んでは、盗難の恐れがあります。当然転移許可は出るでしょう。

 転移陣は都の端にありますが、そこからご自宅までは?」

「前もってわが家の馬車を待たせておりましたので、それを使ってタウンハウスまで移動しました」


 納得したのか、クリフォス卿がうなずいた。


「ご自宅の警備はいかようなものですか?」

「ええと、あんまり具体的なことを言っちゃっていいのか……」

「今更何を言っているのかね、お若いの。その警備に問題があったからこんなことになっておるのだろうが。

 皆で問題点を徹底的にあげつらってやるから、キリキリ説明したまえ!」


 顎肉ぷるぷるを発動させつつオヴィトリン侯爵が吠えた。

 赤ちゃんのほっぺがぷるぷるしてたら可愛いんだが、爺さんの顎肉はお呼びではない。


「わ、分かりました。

 まず魔術による結界、これが屋敷を包んでいます。

 もうちょっと正確に言うと、各壁面と屋根の表面を覆うように、見えない魔力の壁が張られています。物理的に物を遮ることはできませんが、これに触れたり通過したりすると、屋敷内の警報の魔道具が発動する仕組みです。

 ちなみに屋敷は3階建てのおおむね直方体で、ベランダやバルコニーのたぐいはありません」


 そこまで裕福でもない子爵家なので、王都の屋敷は広くない。土地を効率よく使うために表に庭はなく、裏庭以外は敷地ギリギリを占める単純な四角い形状をしている。

 屋敷のある中流貴族用住宅の区画には、同じ大きさの長方形の敷地がずらっと並んでいて、それぞれ同じような屋敷が建てられている。貴族の屋敷なのでそれなりに広くはあるのだが、この公爵家の広大な邸宅とは比べるべくもない。


「窓や扉から何かが出入りする、あるいは──想定しがたいですが──壁や屋根が破壊されれば結界魔術が反応し、警備室に連絡が行きます。

 無論、普通に扉から出入りしても警報が鳴ります。ですから玄関は別の警報に対応しており、他の部分とは別個にチェックしています」

「いくつか質問があります。

 まず、結界の効果は警備への連絡だけですか?

 術式によっては、結界面への接触に反応してその面全体に『雷撃』のような攻撃魔術を放つ仕様にもできますが」


 軽く手を挙げながら、シーズリー男爵が質問してきた。質問内容からして術式に詳しそうだ。賢者の学院は世界初にして最大の魔術大学であるから、彼も魔術師を目指していたのかもしれない。


「いや、実は子供の頃、夜に鎧戸を開けてしまったことがありまして。鎧戸や扉は外開きですから、窓から手を出したり、夜に鎧戸を開けたりすることでも結界は反応します。

 その時も警報が発動して、すわ泥棒かと大騒ぎになりました。

 そういうことがあるので、攻撃魔術と組み合わせることはしていません」

「貴重品を保管している店舗や役所などはともかく、一般的に個人の住宅では攻性結界は採用しないものです。ハーグンシェ卿のおっしゃる通り、住人やペットが怪我をする可能性がありますから」

「なるほど、そう言われるとそうですね」


 コジュリーに加えてクリフォスも説明し、シーズリーは納得したようだった。

 クリフォス卿も詳しそうだ。何故。


「それと、警報の仕組みですね。

 普通は結界と対になる魔道具があって、結界に反応があれば光ったり音が鳴ったりして知らせます。

 警報の魔道具はどのようなものですか?」

「音で知らせるタイプです。背の高さの支柱に大きめの鐘を下げているのですが、その鐘に術式が書いてあり、結界に何かが触れると揺れて鳴る仕組みです。各結界に対応した鐘を、詰所に並べてあります」

「鐘や音叉など、音が鳴る品を組み合わせることが多いようですね。ご自分でそれを聞いたことは?」

「いえ、聞いたことはありません。1階の警備員の詰所にありますので、鳴っても僕たち家人には聞こえないのです。

 事件のあった夜も、警報は鳴りませんでした。それが謎なのですが……。

 詰所は警備員たちの寝泊まりする相部屋を兼ねており、常に警備の者がおります。ですから彼らが聞き逃すことはありません」

「普通に生活していれば、玄関扉の開け閉めなどで頻繁に警報が鳴ると思いますが、いちいち警備員がそこまで行ってチェックするのですか?」

「詰所には窓があって、門や玄関口を見ることができますが、昼間はそこまで厳密なチェックはしません。使用人が行き来していて、彼らの目もありますから。警報に注意するのは、主に夜です」


 といっても、これらは事件が起こってから警察に聞かされた受け売りなのだが。


「朝と夕方の、屋敷中の鎧戸を開け閉めする時は鐘が鳴ります。この鐘の術式はあまり魔力を蓄えられないので、鳴り終わった都度警備員たちで補充します」


「分かりました。ありがとうございます」


 いったん質問をやめ、シーズリーは紅茶のカップを持ち上げた。

 コジュリーは説明を続ける。


「同じような結界が、敷地を囲む鉄柵にも設置されています。柵の高さは約1エンゲット、成人男性が真上に手を上げたくらいの高さですね。上端は尖って乗り越えられないようになっていて、格子の隙間は大人の腕が通る程度。

 門のある正面部分は、やはりこれも別の警報の魔道具にリンクさせていています。

 残りの3つの面ですが、両隣は他の貴族の屋敷、裏は警察署に面しています。当然出入り口はありません。これは3面で1つの警報魔道具ですね。

 子供の頃から格子から腕を出すな、片腕くらいならいいがおもちゃなんかを同時に出すなと、散々親や執事に言われてきましたね……まあ、これも子供の頃、ふざけて両腕を同時に出して警報を発動させていました」

「分かる……」

「うちもそうだった……」

「柵で遊んで警報が鳴って怒られるまでが1セット。誰もが通る道だ」


 共感を得られた。子供時代を懐かしむ貴族一同。

 そこへ空気を読まないシーズリーの質問が飛ぶ。

 

「高さは?」

「はい? た、高さ?」

「結界は、塀や屋敷の角となる部分、真上から見て多角形の頂点にあたる箇所に術式を書き込み、それらを結ぶ直線上に──たいていは物理的な強度を持ちませんが──平面の障壁を構築します。

 しかし屋根のある屋敷と違って、屋外では天井部分に結界を張ることができません。何もない空中に術式は書けませんからね。

 従って屋外の結界は、上空はガラ空きにならざるを得ません。障壁を上に長く、つまり高く設定することはできますが、限界はあります。

 それで繰り返しになりますが、結界の高さはいかほどだったのですか?」

「え? えーと、現場検証で、警察の魔術師がそれを確認していたようです。『飛行』で上がっていたんですが、3階建ての屋敷の屋根よりずっと高く飛んでいました」

「それでしたら、おそらく高さは12エンゲットです。王都のタウンハウスで推奨される仕様なので」


 横からクリフォス卿が口を挟んだ。


「魔術師でない一般人の魔力量だと、『飛行』で移動できる距離の限界はおよそ20エンゲット。

 侵入者が『飛行』の魔道具を使って結界を乗り越えるとします。

 結界の範囲外である上空まで12エンゲット。その上を越えて降りようとすると倍の24、最後の4エンゲットで魔力が尽き、墜落することになります。

 よしんば侵入できたとしても、再び『飛行』で逃げることはできません」

「落ちたら危険な高さですね。魔術師であれば、魔力は一般人の10倍ほどあると言われていますから、問題なく行き来できますが」

「実際には、結界がそこまで続いていることに気づかず通過して、警報が発動するようです。『飛行』の維持には精神集中が必要ですから、『魔力探知』など他の魔法はまず使えません」

「なるほど。

 ……とはいえ庭に張られた結界なのですから、実際には小鳥や虫などが飛んで来るでしょう。いちいちそれに反応していては困りますね?」

「はい。ですからこのタイプの結界は、ある程度の大きさ以上の物が通過した時に反応するよう設定されています。家屋の結界は片腕、庭は猫程度の大きさまでの物には反応しないようになっています」

「結界は平面ですから、通過した物体の立体としての大きさは判断出来ません。あくまで結界面を遮った断面積が一定数を超えたときに反応するはずです。

 そのあたりに、つけ込む隙があるかもしれません」


 聴衆を置き去りにして語り合う、シーズリーとクリフォス卿。

 だから何故そんなに詳しいのか、この2人。


「結界はそのようなものです。

 次に聖剣ですが、まず特注の、繻子の内張をした革のケースに収め、それを金庫代わりの大きな鉄の箱にしまっています。箱には最新型の錠をつけてあり、鍵は父子爵が肌身離さず身につけておりました。

 紐を通して首にかけ、眠る時はもちろんつけたまま、風呂も浴槽横の棚に置いて目を離しません」

「最新型の錠?」


 クリフォス卿が確認する。


「ある商会の新製品で、新型の鍵と巾着錠(パドロック)に、さらにそれぞれ術式を施したものです。鍵を挿して魔力を流すと、双方の術式の組み合わせが正しい時だけ錠が開くというものです」

「ああ、発売されていますね。分かりました。極めて合鍵の作りにくいものです」


 具体的な警備の仕組みなど、普通貴族が知らないことなので、皆なるほどとうなずいている。


「充分な警備システムであると思います。特におかしなところはありません」

 クリフォス卿が結論づけるように言った。

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