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10 詐欺師と聖剣盗難事件

「……別に使用人を疑うまでもないのでは? 先程侯爵がおっしゃった通り、偽賢者が聖剣を盗んで逃げたに違いありません。詐欺師の遁走と聖剣の盗難が、偶然同じ日に起こるわけはないのですから、同一人物の仕業でしかあり得ませんな」


 リーガッタ伯爵が力強く断定したが、コジュリーが否定的な口調で返す。


「いえ、それは考えられません。

 何故なら偽賢者が逃げ出した後に、僕たちは聖剣の無事を確認しているのです。

 もし彼が犯人なら、いったん家から逃げた後、その日のうちにもう一度我が家に侵入し、聖剣を盗んだことになります」

「ならば、そうしたのではありませんか?

 警察官も言ったのでしょう、彼はハーグンシェ家の間取りを把握していると。

 それも、聖剣がどこの部屋にどのように管理されているか、客人として見ているのです。

 しかも詐欺師とはいえ魔術師でもある。何らかの方法で結界の術式を操作し、無効化したのではありませんか?」


 リーガッタ伯爵の言葉に合わせて片眼鏡もきらりと光る。格好良かった。

 どうやって光らせているんだ。俺に光が当たる反射角とか熟知している? 

 コジュリーはかなり訝しんだ。


「確かに、筋は通りますが……行動が不自然ではありませんか」

「いや、他に考えようがない。その詐欺師が犯人に違いありません。

 小生としては、偽スレイマンこと当該詐欺師の捕縛こそが急務であると考えますぞ」


 リーガッタの言葉にも熱がこもってきた。

 が、しかし。


「いやリーガッタ伯爵、残念ながらそれはあり得ないんだなあ」

 

 オスビエル男爵が横から割り込んできた。先ほど受け取った手紙を掲げ、ひらひらさせている。


「僕の友人の1人に、王宮警察の関係者がいるんですがね。

 ただ今話題沸騰中の詐欺師、我らが偽スレイマン氏が逮捕されたということです」


 ……………………。

 沈黙。


「「はい?」」


 いきなり重大な情報を放り込まれた。


「いや本当本当。ほら。この手紙に書いてありますよ。

 昨夜、アルバリ地方──結構国境寄りだな、隣の帝国に逃げるつもりだったのかな──の警察が、彼を確保しました。

 その後転移陣を使って速やかに王都に護送。尋問の末に、聖剣盗難とは無関係と確認されたと」


 コジュリーは再び(おのの)いた。

 だから何で王宮警察の友達がいるんだ。

 だから何でそいつは重要な情報を漏らすんだ。しかも最速で。

 ここの貴族たちの情報収集能力が恐ろしい。


「そ、それは……。いや、聖剣を盗んでからアルバリに逃げたのではありませんか? そのような犯罪者の抗弁など信じられますまい」

「そうだ! 詐欺師が無実を訴えたところで、誰が信用するものか」


 オヴィトリン侯爵も援護する。


「それがねえ。宮廷魔術師が『隷属』の魔術を使ったそうですよ。あれをかけられて命令されれば、嘘はつけません」


 今宵何度目かになる、どよめきが起きた。

『隷属』とは、設定された主人に対して、自殺以外のあらゆる命令に従わされる魔術だ。自白しろと命じられれば、当然喋らざるを得ない。

 非人道的な禁呪として国の厳しい管理下に置かれ、重犯罪者の行動抑制など特定の条件下でのみ使用が許可される魔術である。


「『隷属』の使用許可が出たのか!」

「まだ裁判も、まして有罪判決も出ていない容疑者に対して使用されるのは異例中の異例ではないか?」

「裁判所もよく決断したな」

「それだけ、聖剣奪還のためにはなりふり構っていられないということだ」


 コジュリーは、面白そうに微笑むオスビエルに向き直った。声が上擦ってしまう。


「そ、それで、偽スレイマンは他に何と?」

「それが、大したことは白状していないんですな。

 ハーグンシェ家は聖剣の保有者、此度(こたび)の勇者ブームと相まって、チャリティーパーティーでたっぷり儲けているに違いない、儲け話の詐欺で巻き上げようと思って紹介してもらったと。

 ところがパーティー前で金はなく、逆に怪しまれた。聖剣は魅力的だが、警備が厳しく盗めそうにない。元々、大掛かりな盗みは専門ではない。

 手下はいるが、この件ではその他の犯罪者と繋がっていない。聖剣盗難は自分には関係ないし、ハーグンシェ家の情報を漏らしたこともない。誰が盗んだのか見当もつかない。

 以上、ないない尽くしの自白でした」

「ええ……」


 何かすごい新事実が明らかになって、捜査が一気に進展するのを期待していたのに。


「なんてこった……」


 期待したのに何もなしというのは精神的にくる。

 コジュリーはテーブルに肘をついて、頭を抱えてしまった。


「大丈夫かい、コジュリー君? まだがっかりするのは早いよ? このサロンのメンバーの集合知によって、何かすごい新事実が明らかになって、捜査が一気に進展するかもしれないよ?」

「僕も5秒前まではそう思ってました……」


 もう駄目なんじゃないか? 

 やっぱり、聖剣は取り返せないんじゃないか?

 

「ハーグンシェ卿、偽スレイマン氏が犯行に無関係だったというのは重要な情報ですよ」


 新情報に感心したのか、シーズリー男爵がうんうんとうなずきながら言った。

 そんな新情報は慰めにならない。


「こんな偶然ってありますか? 詐欺師と盗人が同時に家にやって来るって」

「あると思います。聖剣、それも世界で最も美しい、黄金と貴石で飾られた『黄金の曲刀』です。聖遺物としても、美術品としても第一級の品です。

 それが王都に運ばれたのですから、多くの犯罪者が狙ったに違いありません。

 たまたま真っ先に実行して表沙汰になったのが、詐欺師と盗人だったのでしょう。それに」


 シーズリーがコジュリーの顔を覗き込んだ。彼の持つ魔力の流れが瞳を通して見えたのだろう、その灰色の虹彩が一瞬、宝石のように複雑な色彩を帯びてきらめく。その底知れない輝きに、彼は見入ってしまった。

 

「これで容疑者から詐欺師は取り除かれます。

 卿もおっしゃったでしょう。屋敷の中に内通者がいると。

 主犯か共犯か、それと知らずに情報を犯人に漏らしてしまったか……ともかく、その者は屋敷の間取りは勿論(もちろん)、警備の詳細を知っていたのです。一般の使用人ではそこまで知り得ません。

 家人に執事、魔術師や警備員。あとは卿やご家族の秘書、子爵夫人の侍女といった、お家の内情に詳しい方々ですか。

 まずはそのあたりについてお聞かせ下さい」

「あ、はい」


 姿勢を正して、コジュリーは記憶を掘り返した。


「えーっと……警察にも聞かれたんですが、秘書はうちの警備計画には関わっていません。間取りは知っていますが、警備については何も知らないはずです。

 知っているのは、両親と兄と僕。それから執事に、魔術師と警備員たちですね。

 家族はもちろん、執事たちにも口外などしないよう言っております。ですから一応、侍女なども含めて他の者には知られていないはずです。……そのはずです」


 語尾が自信なげになってしまう。


「とは言いましても、酒の席などでうっかり、などということはあり得ますな」

「そこが否定できないんですよ……」


 リーガッタの言葉にうなだれる。

 そんなことがあれば、警備の内情を知っている容疑者が際限なく増えていくのだが、ないとは言い切れないのがつらい。


「分かりました。ですがそれを気にするとキリがありませんので、差し当たって内情を知る使用人に絞ってお伺いします。

 まず執事はタウンハウス付きの者で、一年を通して屋敷に住み、管理をしているのですね」

「はい」


 事件のあった日は、偽スレイマン氏について相談に行き、警察の屋敷の捜索に同行した後は通常の業務に戻った。夜は1階の自室で就寝していた。

 

「次に魔術師の2人ですが、年配の男性がタウンハウス付きで住み込み。卿の婚約者でもある女性は普段は領地の屋敷に住み込みですが、今はご実家から通っておられる」


 普段は、色々な魔道具の魔力補充や管理などを業務としている。魔力補充は一般人でもできるが、魔力量の多い者が優先的に行うのである。

 2人とも夜の騒動の時にコレクション室に行き、床の術式の不具合を発見、指摘した。

 彼らは仕事の特性上時間の自由がきき、各自単独で作業をすることも多い。そのため1日を通してアリバイのない時間が満遍なくあった。

 女性魔術師はコジュリーの婚約者であるため、空き時間に彼と話をすることもあったが、事件当日は騒ぎのせいでほとんどその機会はなかった。


 犯人許すまじ。コジュリーは改めて誓った。


 9時頃に女性魔術師が帰宅。男性魔術師は屋敷の2階の自室で就寝した。


「次は警備員ですが、4人いますね。領地から来たのか、元からタウンハウスに勤めているのか。それと事件当日、つまり昼の詐欺師逃亡の時と夜中の盗難発生時、4人の各自の行動を教えていただきたいのです」

「えーっと、どうだったかな。記憶違いがあるかも」

「こちらの供述調書も併せて見れば確実です」


 その結果。


 警備員1。元からタウンハウスに住み込み。事件当日の夕方は書店に偽スレイマンを探しに行き、警察官が来た際に子爵及びコジュリーと同行する。夜は午前2時までの前半の巡回を勤めた。

 警備員2。元からタウンハウスに住み込み。昼は1階の警備員詰所で待機。夜は就寝していた。

 警備員3。領地から来た。昼は1階の警備員詰所で待機。夜は午前2時からの巡回当番として仮眠をとり、午前2時から朝まで巡回を勤めた。

 明け方に、興奮して警備詰所に向かう子爵と出くわして聖剣盗難を知る。通信の魔道具で警察に通報。

 警備員4。領地から来た。昼は1階の警備員詰所で待機。夜は就寝していた。

 夜間、警報の鐘が鳴ることはなかった。


 ということが分かった。


 さらに各自の居室について。

 地下は、住み込みの使用人の部屋がいくつか。あとは倉庫。

 1階は警備員の詰所兼居室と執事の部屋。あとは問題のコレクション室や図書室など、武器や書物のような重い物を置く部屋。厨房や洗い場などの水回りの部屋。

 2階は、道路側に面した食堂。反対側の裏庭に面した部屋に男性魔術師の部屋。あとは客室など。

 3階は子爵家の居住空間。道路側に面した部分は子爵夫婦の各個室と寝室で、残りがコジュリー兄弟の居室、夫人のドレスルームなど。

 

「ふむふむ。なるほどなるほど」


 シーズリーは満腹した猫のように目を細めた。


「えーっと……これで何か分かりましたか?」

「分かったような分からないような」


 どっちだ。

・すごく警備員ABCDって書きたかった


・屋敷の間取りですが、物語的に必要な部分以外はふわっとしてます。1階に色々部屋があるので、食堂とか2階でいいですか? くらい。求む有識者。

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