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66 どうしても謝りたかったのよ!

「はぁ、何だったのかしら……」


 無事に夜会を乗り越えはしたが、あの時のメラニーの苛烈な視線がどうにも気にかかる。

 コレットとアロイスと一緒にいても気がそぞろになっていたようで、二人にも指摘されてしまった。


「シュゼット……だいじょうぶ?」

「珍しく夜遊びして疲れてるんだろ。無理せず寝とけよ」

「もぉ……夜遊びじゃなくてお仕事よ」


 誤魔化すように笑いながら、シュゼットは内心で嘆息した。


(二人に見破られているようじゃ駄目ね。今の私の居場所はここなんだから、メラニーやニコルのことなんて気にしないで頑張らないと)

「でも心配してくれてありがと! 今日は天気がいいから外でピクニックしない?」

 シュゼットがそう提案すると、コレットはぱぁっと顔を輝かせた。

「ピクニック! いきたい!!」

「ふふ、アロイスはどうする?」

「ま、まぁ……どうしてもっていうならついて行ってやってもいいけど……」


 ……なんて生意気なことを口にしながらちらちらとこちらの様子を伺うアロイスに、シュゼットは口元がにやつくのを隠せなかった。


「んふっ……じゃあ一緒に来てくれる?」

「……仕方ねぇな!」

「うふふふ、ありがと~」

「こらっ! にやにやすんな! 頭を撫でまわすな! 子ども扱いすんな!!」


 ぎゃんぎゃんと喚くアロイスをコレット共に両側から挟みつつ、シュゼットは足取りも軽く部屋を出た。

 空は快晴。こんな日は部屋の中で勉強するだけじゃなく、お日様の下でのんびりすることも大事だろう。

 三人で厨房に足を運び、用意されていたおやつやいくつかのフルーツをバスケットに詰めてもらう。

 バスケットがパンパンになるほどたくさん詰めてもらったのは、使用人たちの幼い兄妹二人を思う心ゆえだろう。

 戦利品を携え、シュゼットたち三人は上機嫌でエントランスから屋敷の外へと足を進める。

 いつもの秘密基地もいいが、たまには丁寧に手入れが施された庭園でゆっくりするのもいいかもしれない。

 アッシュヴィル侯爵家の敷地は広く、中にはなかなかの大きさの池やそこにかかる橋、まるで物語の舞台にでもなりそうなガゼボなどを備えた本格的な庭園もあるのだ。

 うきうきと足を進めていたシュゼットだが、ちょうど正門の傍を通りかかった時……何者かが言い争うような声が耳に届いた。


「だーかーら! あなたじゃ話にならないわ! 早くシュゼットかアッシュヴィル侯爵を呼びなさいよ!!」

「……来客があるとのお話は伺っておりません。お引き取りください!」

「使えないわね! 私はシュゼットの親友なのよ!? シュゼットに言えばあんたなんかすぐクビにできるんだから!!」


 ……その声には聞き覚えしかなかった。

 途端に表情が引きつり、そんなシュゼットの変化にアロイスとコレットもすぐに気づいたようだ。


「おい、どうした?」

「誰かがおこってるみたいだけど……」


 二人の声に、シュゼットははっと我に返る。

 それでもまだ、正門の方から聞こえる声は止む気配を見せない。


(メラニー、どうして……!)


 あそこにいるのは、間違いなくメラニーだ。

 どうして、なぜ侯爵邸に。

 もちろん彼女が来るなんて話は聞いていない。

 使用人も追い返そうとしているようだが、メラニーはどんどんヒートアップしていく。


「早くシュゼットを出しなさい! いることはわかってるんだから!! このグズ!!」


 聞くに堪えない暴言に、シュゼットはぐっと唇を噛みしめた。

 ……冷静に考えれば、この場は使用人に任せて立ち去るべきだったのかもしれない。

 だが焦ったシュゼットは、早くメラニーをなんとかしなければ……という思いに駆られ、足を踏み出してしまったのだ。


「ごめん、ちょっとここで待ってて!」

「おい!?」


 アロイスの引き留めるような声が聞こえたが、シュゼットは構わずに正門に向かって駆け出す。

 すぐに、何人かの使用人に食って掛かるメラニーの姿が見えてくる。


「奥様っ……!」


 シュゼットの姿に気づいた使用人が焦ったような声を上げる。

 それで、メラニーも気づいたようだ。


「シュゼット……!」


 一秒前まで怒りをあらわにしていたメラニーは、ぱっと明るい表情に変わる。

 その豹変っぷりに、シュゼットはぞくりと背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「よかったぁ、会えなかったらどうしようかと思っちゃった!」


 使用人の警戒が緩んだすきに、メラニーは使用人を押しのけるようにしてこちらへとやってくる。


「ごめんなさい……何かの手違いがあったみたいで、全然シュゼットに連絡がつかなかったのよ。何通も何通も手紙を書いたのに」

「え…………?」


 そんなことは初耳だ。

 驚くシュゼットに、メラニーはしおらしい態度で告げる。


「私……あれから色々と考えたの。すごく反省したわ。知らない間に、あなたを傷つけていたんじゃないかって……」


 うるうると瞳を潤ませながらそんなことを言うメラニーに、シュゼットは愕然としてしまった。

 いったい彼女は何を言っているのだろう。

 まったく状況がつかめず、意味が分からなかった。


「だから、どうしても直接会って謝りたかったのよ!」


 がしっとシュゼットの手を取り、メラニーは情熱的に告げた。

 これには、シュゼットの方が面食らってしまった。


 まさかあのメラニーから「謝る」なんて言葉が出てくるなんて!


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