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6 私の勘なんて、当てにならないだろうけど

 そうして、シュゼットはユベールの妻となることを決めた。

 当然、家族は大反対した。


「考え直してシュゼット! 相手は悪い噂の絶えない死神侯爵なのよ!?」

「お母様、彼はそんな方ではありませんわ。とても優しく紳士的でしたもの」

「自暴自棄になりすぎだよ姉さん、いくら婚約破棄されたからって――」

「ロジェ、私はむしろ婚約破棄されてよかったとすら思っているのよ? だって、そのおかげで素敵なご縁に巡り合えたのだから」

「「シュゼット姉さま死んじゃやだー!!」」

「ファニー、ソニア……おおげさよ。私は別に猛獣の檻の中に入るんじゃないのだから」


 口々に引き止めようとする家族を説得しながら、シュゼットは内心でため息をつく。


(まぁ、当然の反応よね。私だって、身近な人が『死神』に嫁ぐなんて聞いたら、絶対に反対するもの……)


 ただ父だけは、心配そうな顔をしてはいたがシュゼットを止めようとはしなかった。


「シュゼット……お前は私の自慢の娘だ。お前がが自分でそう決めたのなら、私はその決断を支持しよう」

「お父様……ありがとうございます」

「ただ、忘れないでくれ。私たちは常にお前のことを想っている。何かあったら……いや、何もなくてもいつでも帰ってきていいんだからな」

「ふふ、覚えておきますね」


 家族の優しさをくすぐったく感じながら、シュゼットは今後の段取りを頭に思い描く。

 この国では結婚前に半年ほど妻が夫の家で暮らし、相手の家の作法や心得を学ぶ、いわば「花嫁修業」を行う慣習がある。

 ユベールからは既にその日程も聞いていた。

 あと数日もしないうちに、シュゼットは侯爵家での生活を始めることになる。


(侯爵閣下が私に求めるのは主に公の場でのパートナーとしての振る舞い。それ以外は基本的に自由にしていて構わないそうだけど……)


 今まで働きづめだったシュゼットには、侯爵夫人の優雅な日常というものがうまく想像できなかった。


(……大丈夫かな、私)


 なにしろ相手は両親や兄を殺した疑惑のある「死神侯爵」なのだ。

 シュゼットがあまりにも役に立たないポンコツだと判断すれば、彼らのようにシュゼットを亡き者にしようと――。


(……でも、あまりそんな風には見えなかったわ)


 初めて相対した死神侯爵――ユベール・アッシュヴィルという人間は、確かに冷たい心の持ち主だと感じられた。

 だが……両親や兄を自ら手にかけるような、強い野心や欲望を秘めているようには見えなかったのだ。


(私の勘なんて、当てにならないだろうけど……)


 シュゼットにはどうにも、彼が噂に聞くような残虐で非情な人間だとは思えなかったのだ。

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