46 ここから大逆転
「くっ……!」
いくら二対一でも、さすがにユベールは強かった。
相変わらず、二人は圧されていたのだ。
「くそ……やっぱり勝てないのかよ……」
汗を流しながら、アロイスが悔しそうにそう呟く。
その様子を見ていると、どうしても彼を勝たせてあげたくなってしまう。
「……閣下、少し作戦会議の時間を頂けますか」
手を挙げてそう宣言すると、ユベールは鷹揚に頷いた。
「構いませんよ」
「ありがとうございます! さぁ、作戦会議よ!」
コートの隅へアロイスを引っ張り、シュゼットはこそりと囁く。
「いい? アロイス、これから私の話す作戦を信じてほしいんだけど」
「……なんだよ。また負けたら許さないからな」
「勝つか負けるかはあなた次第よ。あのね……」
話始めると、意外とアロイスは静かに耳を傾けてくれた。
「確かにユベール閣下は強敵。でも……よくよく観察していれば癖があることに気づいたのよ」
「癖?」
「えぇ、どのあたりに打ったら、どう打ち返してくるか……とかね。それと、あなたの得意な打ち方についても」
コートのどの位置で、どう打つのが一番アロイスの力を引き出すことができるのか。
今までコレットと一緒に二人の勝負を見て、そして一緒にやってみて、シュゼットは確信していた。
「私が閣下を誘導して、あなたの得意なゾーンで打てるような状況を作る。だからあなたは――」
そして今、二人は再びコートに立っている。
ユベールは相も変わらず涼しい顔をしている。
せめて、冷や汗のひとつでもかかせてやりたいものだ。
「いくわよ! ……それ!」
小気味よい音を立てて、ラリーは続く。
ユベールは必要最小限の無駄のない動きで、的確にこちらへ打ち返してくる。
だが、シュゼットはひそかに機会を伺っていた。
(ここであのあたりに打ったら、閣下はこうやって打ち返してくる。そこからこう打てば……アロイスの一番得意なゾーンで打てるはず……!)
シュゼットは作戦を悟られないように、機会を待った。
そして――。
「今よ、アロイス!」
「オラァ!」
アロイスが勢いよくラケットを振りかぶり、勢いよく飛んだシャトルが相手のコートへと突き刺さる。
ユベールも瞬時に反応したが……それでも、届かなかった。
自陣に落ちたシャトルを呆然と見つめ、ユベールは驚いたように目を丸くしている。
彼の額から汗が一筋流れたのを目にして、シュゼットは歓喜した。
「やったわ、アロイス! 私たち、一矢報いてやったのよ!」
喜びのままにハイタッチを求めると、アロイスは驚いたような顔をしたが……控えめにタッチを返してくれた。
「……考えたようですね」
喜ぶ二人に、相変わらず感情の読めない顔でユベールがそう声をかけてくる。
「ふふ、勝負はこれからです! ここから大逆転をしてやりますから。ね、アロイス!」
「……まぁ、な」
一矢報いることはできた。ユベールに汗を流させることもできた。
だが、彼の悔しがる顔はまだ見れていない。
ここから完勝して、なんとしてでも彼を悔しがらせなくては!
「わかりました。勝負を再開しましょう」
「はい!」
いつになくウキウキとした気分で、シュゼットはラケットを握りなおした。