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39 どこまで計算ずくなんですか

「ふふ、いいじゃないですか。にぎやかで。今日はみんなでわいわい楽しみましょう?」

「……まったく、あなたは意外と策士ですね」

「お褒めに与り光栄です」


 そう言ってシュゼットがスカートを摘まんでお辞儀をすると、ユベールは大きくため息をつく。


「…………まぁ、いいでしょう。承諾したのは僕ですから、付き合いますよ」

「ありがとうございます、閣下!」

 嬉しくなって満面の笑みで礼を言うと、ユベールはふいっと視線を逸らしてしまった。

「……けっ、デレデレしやがって」


 その様子を見たアロイスが、不貞腐れたようにそうに呟く。


(デレデレって、私のこと? そんなつもりはないんだけど……)

「アロイス、相手に何かしてもらったらお礼を言うのは当然のことよ。デレデレして……とか、からかうのはよくないわ」

「だからお前のことじゃなくて……もういい!」


 何故か怒った様子でエントランスから外へ出ていってしまったアロイスを、シュゼットは慌てて追いかける。


(はぁ、先が思いやられるわね……)


 今日の目的は、大自然の中で開放的な気分になって、ユベールと兄妹のわだかまりを解消することだ。

 アロイスはユベールのことを誤解しており、ユベールも口下手なうえに二人と関わろうとしないあの態度だ。

 きっと腹を割って話し合えば、すぐに問題も解決できるはず……だ。


(大丈夫……よね? だって、ユベール閣下が本当にお兄さんとその奥さんを殺したなんてあるわけないし……)


 一瞬不安になりかけたが、シュゼットはすぐに思い直した。


(えぇ、きっと大丈夫よ。どうせユベール閣下がわかりにくいことを言ったから、アロイスが誤解しているだけに違いないわ)


 きちんと誤解を解けば、ユベールと兄妹の関係もよくなるだろう。

 昔のように……とはいかないだろうが、少なくともろくに会話すらしない現在の状況よりは好転するはずだ。


(ふふ、責任重大ね。頑張らなきゃ!)


 今まではたいして「未来の侯爵夫人」らしい金の使い方をしていなかったシュゼットだが、今日のためにお出掛け着を新調したのだ。

 気合は十分。心を痛めているレアたち使用人のためにも、なんとしてでも三人の仲を改善せねば。


「そろそろ出発しませんか、閣下?」


 さっさと馬車に乗ってしまったアロイスを追い、コレットを乗せてあげながら、シュゼットは背後を振り返りユベールへと呼びかける。

 ユベールは何とも言えない表情で、じっとシュゼットのことを見つめていた。


「本当に……どこまで計算ずくなんですか、あなたは」

「……? お恥ずかしながら、あまり計算は得意じゃないんですよ。侯爵夫人としては必要なスキルなんでしょうが――」


 下町で働いていたこともあるので、シュゼットとてお金の計算はしたことがある。

 だが屋敷や領地の帳簿に関わることも多い侯爵夫人ともなれば、もっと細やかな計算が必要になってくるはずだ。


(あっでも、私はあくまで閣下の形式上のパートナーだし、別に実務的なスキルは必要ないのかしら……?)


 うーん……と頭を悩むシュゼットの下へ、ユベールはゆっくりと近づいてくる。

 そして、シュゼットに向かって手を差し伸べた。


「……必要な時が来れば、僕がお教えします」

「は、はい。ありがとうございます……?」


 果たして「必要な時」とやらがやって来るのかはわからないが、シュゼットは反射的に差し出された手を取っていた。

 そのままユベールはシュゼットを馬車の方へと導き、乗り込む際にもエスコートしてくれた。

 思えば彼にそんな扱いをされたことは初めてかもしれない。


(ちゃんと、お出掛けのこと意識してくれているのかしら……)


 そう考えると急に嬉しくなって、シュゼットは淑女にはあるまじき強引さでユベールを馬車の中へと引っ張り込むのだっだ。

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