34 推理
「ちっ……見つかったか」
本日の勝負の題材はかくれんぼだ。
狭い植え込みの中に隠れていたアロイスを発見したシュゼットは、這いつくばった体勢のままにっこりと笑った。
「うふふ、また私の勝ちね」
「まったく……こんなとこまで来るなんて、どうかしてるぞお前」
そう憎まれ口を叩きながらも、アロイスはシュゼットが近づいてくるのを拒絶しようとはしなかった。
近付くことすらできなかった頃に比べれば、大きな進歩だろう。
しゃがみ込むアロイスの横に、シュゼットも腰を下ろす。
アロイスは逃げない。それだけ、シュゼットの存在を許容してくれるようになったのだ。
「……悪女の癖に、服が汚れるぞ」
「悪女だから汚すのよ。使用人の仕事を増やすなんてとっても悪いことだと思わない?」
「なんだよそれ」
シュゼットの言葉に、アロイスが笑う。
その顔は、年相応の子どもらしく心を和ませてくれる。
「……ねぇ」
「なんだよ」
「ここ最近の勝負であなたから話を聞いたうえでの、私の推理を披露してもいいかしら」
「……好きにすれば」
幼い少年から、拒絶の言葉は出てこなかった。
……もしかしたら彼も、待っていたのかもしれない。
誰かが、自身の思惑に気づき、踏み込んでくるその時を。
「ここ一年ほど、あなたはとても侯爵家のご令息だとは思えないほど暴れて、何人もの家庭教師を追い出している。それは家庭教師が気に入らないわけじゃない。……ユベール閣下を、話し合いの場に引きずり出したいから」
「……そうだ」
「彼に伝えたいのは、使用人の横暴ではない。悪女と呼ばれる私がやって来たことでもない。……一年前の、あなたのご両親が亡くなった事故についてね」
「……あいつが、あんなこと言うから」
アロイスは何かに耐えるような苦悶の表情を浮かべている。
「……外の噂を信じているのね。でもあれは面白おかしく飾り立てたゴシップで、ユベール閣下は――」
「違う! あいつが言ったんだよ!」
激情を吐露するように、アロイスは強く叫んだ。
その剣幕に、シュゼットは思わず口をつぐんでしまう。
「馬鹿にすんな。俺だって、あんな噂を信じてるわけじゃない。だから、あいつに聞いたんだ。……まさかお前が、父上や母上を殺したわけじゃないよなって」
「ぇ……」
まさかもう、彼が直接そのことを聞いているとは思わずに、シュゼットは絶句した。
その場でユベールが身内殺しを否定したのなら、ここまで彼らの関係がこじれているとは思えない。
だとすれば、まさか――。
「俺は、信じてたのに。あいつは根暗で何考えてるかわからない奴だけど、父上はあいつを『頼りになる弟だ』って言ってたから……」
怒りか、悲しみか。
まだ幼い少年は、憤るように強く拳を握り締めて震えていた。
「なのにあいつは、俺たちの父上と母上――二人は自分が殺したって言ったんだよ!」
「なっ……!」
アロイスの言葉に、シュゼットは思わず息を飲む。
……単なる行き違いだと思っていた。
この幼い少年が外の心無い噂を信じているだけで、腹を割って話し合えば解決する問題だと思っていた。
いや……そもそも、シュゼットはユベールの身内殺しを「誤解」だという前提で話を進めていた。
……ユベール本人から、そう説明されたわけでもないのに。
(本人が、身内殺しを認めたってこと……? そんな、嘘……)
がらがらと足元が崩れていくような錯覚に陥り、シュゼットは頭が真っ白になってしまった。