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13 ひとつ頼みがあるのだけれど

(あの子のことを抜きにしても……なんとなく、侯爵閣下と使用人の間にわだかまりを感じるのよね)


 まぁ、それも無理はないのかもしれない。

 前当主夫妻とその跡取りとなる予定だった夫婦。

 彼らが亡くなって、まだ一年ほどしかたっていないのだ。

 今日話をした使用人の中には、はっきりと口にはしないがユベールをあまりよく思っていないであろう者もいた。

 それこそ、本当にユベールが身内を手にかけたのではないかと言いたげな者も。


 ……どうやら華々しい侯爵家も、内情は複雑なようだ。


(閣下のあの性格を掴み損ねているのは、私だけではないようね)


 ユベールがあんな調子で大丈夫なのかも気になるが、それよりも急いで対処すべきは別館の兄妹の方だろう。


「レア、少しいいかしら」

「はい、奥様」

「明日、別館を訪れることにするわ。もしも向こうと調整が必要ならお願いしたいのだけれど」

「え、ええぇぇぇ!?」


 ひっくり返ったような声を出すレアに、シュゼットは首を傾げた。


「何か?」

「で、でも……侯爵閣下は――」

「別館に近づくなとは言われていないわ。不快な思いをしたくないのなら近づかなければいいと言われただけよ」

「そ、それは近づくなという意味なのでは……」

「はっきり言わない侯爵閣下が悪いのよ」


 にやりと笑うと、レアはおろおろしていたが……やがて、感心したようにため息をついた。


「なんていうか……奥様って思ったよりも肝が据わった御方ですね」

「まぁ……いろいろあったからね……」


 婚約者と親友に嵌められ、社交界での立場も仕事も奪われたことに比べれば……このくらいなんてことはない。

 シュゼットにはもう失うものはほとんどないのだ。

 ユベールから金銭援助の約束は取り付けた。書面での契約も交わした。

 だったら、少しくらい自分の思うままに動いてみてもいいだろう。


「わかりました。こちらで調整いたします」

「ありがとう、レア、助かるわ」


 これで当面の目標はできたと、シュゼットは静かに微笑んだ、のだが――。



 ◇◇◇



「申し訳ございません、奥様……!」


 翌日、特にやることのないシュゼットがのんびり本を読んでいると……やってきたレアが開口一番謝り始めてしまったのだ。


「ちょっとレア、どうしたの!?」

「その……昨日の別館への訪問について向こうの使用人に話をしてみたのですが――」


 歯切れの悪いレアに、シュゼットは何となく事情を察する。


「断られた、というわけね」

「申し訳ございません!」

「あなたが謝ることじゃないわ。断った理由は何か言ってた?」

「いえ、その……お二人はご家族を亡くしたばかりの傷心状態で、見知らぬ人間に会うと不安定になるというかなんというか……」


 そう説明するレアの目は泳いでいる。

 おそらくは、その1.5倍ほどはシュゼットに聞かせられないようなひどいことを言われたのだろう。


(……明らかに、私のことを邪魔者扱いしてるわね)


 ――「ここから出てけ! 悪女め!!」

 ――「帰れ! お前が悪い奴だってことはわかってるんだからな!!」


 ユベールとあまり交流がないであろうあの子が、なぜシュゼットの噂を知っていたかと考えると……別館の使用人が吹き込んだと考えるのが筋だろう。


(そうなると、真正面から行っても良い結果にはならなさそうね……)


 シュゼットは至高を巡らせた。


「……ねぇレア。本館の使用人はまったく別館で仕事をすることはないの?」

「いえ、別館は使用人が少ないのでヘルプに入ることはままあります。もっとも、坊ちゃまやお嬢様には関わらせてもらえませんが――」

「なるほどね」

(使えるわ)


 内心でにやりと笑い、シュゼットは口を開く。


「それなら、ひとつ頼みがあるのだけれど――」

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