屋根裏とサイコ
洋は彼女である唯美にフラれた。
原因は、その異常なまでの束縛だった。世に言う地雷系男子というやつだ。
メールへの返信は、届いてから一分以内。男友達と会うことはもちろんのこと、会社の男と話すのも嫌がった。
そんなことが、ずっと続き、交際二週間足らずで、唯美は見切りをつけた。
今では、電話、メール共に着信拒否をされている。
怒り狂った洋は、唯美の家に突撃した。しかし、警察を呼ばれ、それ以来近づけなくなってしまった。
それでも、まだ諦められない洋は、あることを思いつく。それは、アパートの二階の最上階である唯美の家の更に上、屋根裏に潜んで彼女を観察すればいいのではないかと。
そして、現在に至る。
洋は屋根裏に住み、その床、つまり、唯美の部屋からすると天井に穴を空け、彼女の様子を伺っていた。
じっと様子を伺い、それを楽しむ。
食事の姿。友達と電話をしている姿。テレビを観ている姿。そして、お風呂上りの姿も、屋根裏にいる洋にしか見ることができない姿だった。
しかし、男が訪ねてきた時には、吐き気を覚えるくらい怒りが沸いた。だが、出て行くことはできない。それがもどかしく苦しい。
たまらず、床を叩いてしまう。
ダンッ!
大きな音が天井から響く。
「何の音でしょう?」
玄関先から室内の天井を見て、男性警官が言った。
「古い家だから、家鳴りかもしれません」
怯える様子はなく、唯美は言った。
「お巡りさん。もう、見回りはしなくて大丈夫です。彼は私のところにやって来ることはないと思います」
「何でまた、その様に?」
「実は、もう彼とは折り合いがついたんですよ」
「おっと、そうだったんですね。それはよかった」
「はい」
唯美は満面の笑みで言った。本当に嬉しそうだ。
その笑顔に、警官も本当に解決したんだと、安堵した。
「今まで、見回りをして頂いて、ありがとうございました。他の警官の方にも、伝えておいてください」
「ええ、分かりました。それでは、私はこれで」
「はい。ご苦労様です」
警官は一礼して去って行った。
「ねえ、折り合いはついたものね」
屋根裏に現れた唯美は言った。
そこには、手足を拘束された洋がいた。喉は潰され、声は出せない。
「あなたの食事も、排泄も、全部私が面倒を見てあげる。その穴から私を覗いていても怒らないわ。だから…」
顔を洋に近付ける。
「死ぬまで私のペットでいてよ」
唯美はくすくすと笑った。洋もつられて笑う。
異常な精神は伝染する。