みんなとの想い出を
「いいじゃんそれ!」
「…え?」
「楽しそうじゃん!合宿なのか旅行なのかわからないけど!」
「まぁ正直に言うとうちの部活何もやることないし旅行になるかな。いつもいつも雑談ばかりで、そういうことあんまりしてこなかったでしょ?」
「確かにそれだけじゃ面白味に欠けるね」
「それが私達の良さでもあるんだろうけどね」
みんなとの雑談はすごい楽しい。
「僕は賛成だよ、だけど……」
「なにか問題でもあるの?」
「みんなは賛成してくれるかな?」
「大丈夫大丈夫賛成してくれるよ」
「聞いてもないのによくそんなこと言えるね」
「だって、部長は楽しいことが大好きだし。新入部員は無理やり連れていくから問題ないよ」
「まぁあの人インドア派っぽそうだしね」
「あんな場所にずっと篭ってたら頭にキノコ生えそうだし。そろそろ出ないと不味いでしょ」
「そうだね」
「それじゃあ…とりあえず、ここから出なさい」
「ええ、もう出なきゃいけないの?」
「当たり前よ、ここ私の部屋よ」
「うーん、どうせならお姉ちゃん帰ってきたら一緒にごはん作ろうかなって思ってたんだけど」
「よし、作りましょう」
「はや!切り替えはやっ!!」
「当たり前じゃない、姉弟仲良く料理してみたかったのよ!!」
「でも、お姉ちゃん包丁苦手だったよね?」
「ピーラーがあるから問題ない!」
実を言うと、今朝包丁を握ったら粉砕しました。こっそり捨てたけど。
それに、入院中は点滴生活で、ろくなご飯食べていないし誰かと行動だなんてしてなかったから寂しかった。
「それなら、今日は何のごはんにするの?」
「ポテトサラダとコロッケ。潰すのは任せて」
「わかった、なんかやる気出てきた」
そうして、私達は台所に向かう。…が
「ああ、ごめんロン。部長に合宿のこと聞かなきゃ」
「はーい」
「……もしもし?」
「夜分遅くにごめんなさいね部長」
「ああ、貴方か」
「逆に誰だと思ったんですか……」
「いや、久しぶりにみる番号だったからさ。誰なのか忘れちゃってね」
「私の名前で登録しておいてくださいね」
「よくわからないんだよねそれが」
「頭はいいのにどうして機械音痴……」
「それで、何の用?」
「ちょっとした相談があるんですがね」
「相談?」
私は返答する。
「春休み、合宿行きません?」
「合宿?それはまた突然だね」
「恋も突然と言うじゃないですか、それと同じですよ」
「貴方は何を言っているの?」
うん、ぶっちゃけ私もよくわからない。
「合宿といっても何をするの?私達の部活はアレだし…やることなんて」
「部員との距離を縮める、それだけじゃだめなんですか?」
「………充分縮んでるけどね」
わからなくはない。
「でも、一応例の新入部員もいるんですから、ね」
「ね、と言われてもね……」
少し困ったような返答をする部長。
「無理っぽいですか」
「悩ましいところではあるわね。合宿しても意味なんてないじゃない」
それはそうだが。
「でも、確か部長ってあと一年なんですよね?」
「そうね、貴方達といられるのも……」
私は一年もないんだけどね。
「それで、想い出を作りたいなと」
「ええ、部活の想い出。私達だけの想い出を作りたいなと、それが合宿……旅行です。この部活が最高だったなと、そう感じられる想い出が、私は欲しい」
「なるほどね」
電話越しに軽い笑い声がした。
「面白そうだけど、らしくないね?」
「らしくない…とは?」
「珍しいわよ、貴方が自ら何か行動を起こすなんて」
「え?」
「大抵、貴方は周りのすることに便乗しているだけ。そんな貴方が企画を持ってくるだなんて…明日は槍でも降るのかしら」
「私だって企画ぐらい作りますよ」
「まぁ、悪いと言っているわけではないわ。ただ、一つ気になることがあるのだけれど」
「…なんでしょう?」
部長は返答する。
「…何故、春休みなの?」
「…………」
「私が部活を引退するのは夏、そういうことをするのなら夏の方が良いと思うのだけれど」
「……………それは」
言おうと思ったが言えなかった、この人にだけ告げるか?私の命は夏まで持たないって。
…ダメだ、心配をかけたくない。私はみんなとの想い出を作りたいだけ。悔いを残してはいけない、未練を残してはいけない。そして………
「……言いづらいことなら言わなくてもいいわ」
「…すみません」
「まぁ、変なことを考えているわけでもないだろうし。春と夏、行う時期で因果が変わるとは私は思わないし。でも、貴方からしたらそうなんでしょう?」
「そういうこと、です」
「わかった、考えておく。私も部員達と派手なことやりたかったしね。でも、部員との交渉は貴方がやること、いいわね?」
「わかりました」
「それじゃあね、部員との想い出たくさん作れると良いわね」
そうして、電話は切れた。
「随分、長かったね」
「部長と話してた、部長はおっけーらしいよ」
「そっか、じゃああとは英傑くんだけだね」
「雲雀を忘れてるよ」
「雲雀さんは来るでしょ、下心たくさんで」
「言えてるね」
微笑しながらそう答えた。
「それで、どこまで進んだ?」
「え、長すぎるから終わっちゃったよ」
「え」
「簡単だから、すぐに終わったんだ。はい、ピラフ」
「あ、いただきます」
そうして、一口頬張る。
「…美味しい」
「えへへ、よかった」
そうして、夜が更けていく。ピラフが美味い、それだけを感じながら………
「旅行、ですか」
「そう、みんなからは許可は貰ってる。あとは貴方だけ」
「僕インドア派なんですけど」
「そんなもの見たらわかる」
モリモリのインドア派っぽそう。
「わざわざ春休みなんかに家から出たくないんですけど」
「そっかそっか、それじゃあ詳細は後で話すってことで」
「どうして行くことになってるんですか!」
「行かないの?」
「行きませんよ!」
「えー、行かない理由とかあるの?」
「インドア派には辛いんですよ、先輩のようなアウトドア派にはわからないでしょうがね」
「私つい前までインドア派だったんだよ」
「…本当ですか?」
「ほんとほんと」
嘘は言ってない、本当にインドアしてた。
「なら、どうしてインドア派からアウトドア派になろうと?」
「単純に、みんなとの想い出を作りたいから」
「…想い出?」
「貴方だって、部長に恩を感じてるんでしょ?」
「そりゃあ…ありますけど」
「私だってある。そんな部長はもうすぐ三年。部活も引退しなくちゃならないんだよ」
「それと旅行になんの因果が?」
「察しの悪い人だね」
私はため息をついて
「部長ともうすぐお別れってことだよ」
「まぁ、そうなりますね」
「だから、この部活のみんなでちゃんとした想い出を作ろうってわけ」
「…………ふむ、そういうことですか」
「貴方も新入部員とはいえ、ちゃんとした部員だからね。全員で行きたいんだよ、無理にとは言わないけどね」
「先輩、それをズルいって言うんですよ。断れないじゃないですか」
「よくわかったね」
これが人間の心理を応用したもの。無理にとは言わない……そうして相手に申し訳なさを感じさせ断ることに罪悪感を覚えさせる。
「……わかりました、乗りますよ。それで、何をするんですか?」
「合宿という名の旅行だね、適当に観光して想い出ができたら良いなって」
「わかしました、そこらは貴方に任せます」
「恩に着るよ」
「でも、僕の取り扱い説明書なんですが…」
「貴方は機械だった……???」
「たくさん歩かせないでください、すぐに疲れてしまいますから」
「じゃあ途中で何度か休憩挟むか…」
「日当たりのいい所に置かないでください、干からびてしまいます」
「貴方は蚯蚓か、日傘を持たせた方が良いね…」
「すぐに喉が渇きます、常に水を渡せるようにしてください」
「わかった、その時はすぐに水を買って……それはただのパシリじゃないか!」
「あ、バレた」
「自分でやりなさい!私は貴方の母親じゃないんだよ!」
「手厳しいですね」
「どこがだ!!このインドア派の極みめ!!」
「極めてますから」
「誇れることでもなんでもないからね?」
「人間、休める時に休まないとダメなんですよ?」
「貴方の場合休みすぎだと思うけどね」
「そんなことはありませんよ」
「…まったく、水分補給と日傘だっけ?」
「おお、準備してくれるのですか。まぁ、日傘は自分で用意しますよ」
「そう、じゃあ水分補給だけか。まぁ春休みだから暑くも寒くもないだろうけど」
「でも、水分補給に越したことはないです」
「それじゃ、参加するってことで良いんだね?永劫くん」
「永劫でいいですよ」
「どうして?」
「仲間外れみたいで嫌じゃないですか」
「そっかー、えーと、永劫?」
「何故か疑問形ですがなんです?」
「よろしくね」
「はい、こちらこそ」
そうして、時間は過ぎていく。想い出、形にはならないだろうけど心には残るもの。私は求める、みんなとの想い出を。寂滅は、桜が散る頃に死ぬと言っていたけれど、具体的にいつなんだろう。その前に死ぬ可能性だってあるのに。
どうか、想い出ができるまでは尽きないでくれないかな。
そして……春休みはやってきた。私達は…想い出作りのために旅行へと向かった。