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人狼と半獣


「あ……っぶない!!!」


「おお、僕たち生きてる!!!」


「生きてる生きてる、よかったよかった」


断片が飛んできた瞬間、力任せに地面を蹴り飛ばしたのが良かった。ロンと自分を助けることができた。


「それにしても……よく僕ごとあれから逃げることができたね」


「それは…運動神経が良かったおかげかな」


「別にお姉ちゃん運動神経良くないでしょ」


「それは昔の話、今は違うんだよ」


「そんなすぐに運動神経とか変わるものなのかなぁ」


……変わるものなんだよねそれが。


「それにしても……本当に変だよね。何があったんだろう」


「そうだね、不自然すぎる」


こっち側の建物は損害無しだけれど、あっち側の建物は全滅している。


「地震だとしてもおかしいよねぇ」


「地震だったら不自然すぎるよ」


「だとしたら、誰かが故意的にやったとしか………」


そこで、私の脳裏に電流が走る。


「…ああ、なるほどね…」


「……どうかした?」


「少し用事が出来た、ロンはどっかに行ってて!!」


「どっかってどこ!?」


「なんていうか……安全な場所!!」




あの子は私の言うことをよく聞く子だから、きっと安全な場所に避難するはず。


「………そんなことより、問題は」


この大災害を引き起こした人物のことだ。それは……私と同じ半獣、そう私は思い浮かべる。この前の事件の犯人は半獣だと、あの人は言っていた。その場所はここからそんなに遠くない、つまりその身体能力ならここまで来ることは容易い。試しに崩壊した建物を思い切り蹴っ飛ばす。


「……なるほど」


半分と言えども、その能力は恐ろしいものだった。建物は粉砕し、粉々になり、塵になった。


「うーん………自分で自分が怖いな…」


本当に、自分が半獣なんだなって実感してしまう。


「……ん?」


上には、満月を浮かべる夜空。


「今……空に何かが………行ってみようか」


私はジャンプする。


「おっとっと」


まだこの力には慣れていなくて、建物の屋上よりも高く跳んでしまった。


「…やっぱり、慣れが大事なのかな」


なんとかして屋上に足をつけ、先ほどの正体を確かめるために追いかけた。




…………そして、その『正体』は足を止めた。




「……先に聞いておくけれど、君は私の同類か?」


その何かはそう私に問いてくる。


「………違う」


「………………半獣でもないのに、どうやってここまで来れたと言うんだか。もう一度聞く、同類なんだろう?」


「…まぁ、半獣…………なのかなぁ」


「ならば、何故君はこういうことをしないんだ?」


「こういうこと?」


「君や私には、物凄い力が宿っている。それはまさに人類を超越している力。どうして、その力を己の思うままに振るわないのかって話だ。この力は、どんなことだって可能にする。不可能を可能にしてくれるんだ」


「不可能を可能にする………か。まぁ、確かになんだってできる。でも………できないよ、力だけじゃ」


「………何?」


心の底から理解できていない、まさしくそんな声を私に向ける。


「確かに、力があることは良いことかもしれない。でも、それだけじゃ想い出、家族、愛情、友情を育めるわけがない。私は、別に金にガメついわけじゃないからね」


「君は……バカなのか?」


「貴方から見たらそうなんだろうね、貴方と私の考えが根本的に違うし。でも、それに間違いや正しいだなんてものはない。人が違えば、考え方も違うから。貴方は貴方の考え方、私には私の考え方がある。だから、私には貴方の考えは到底理解できない」


「……だったら、君は邪魔な存在だな。同じ半獣同士、君がそういう考え方をするのなら、私と君は反発するってわけか。ならば、今ここで…」


その半獣は、じりっと構えて


「始末させてもらう…!!!」


そうして、襲いかかってくるその瞬間だった―――





「悪いけど、今ここでその子を殺されたら困るんだよね」





―――声がした、その後何かが咬みついたような音がした。



そこに居たのは―――




「なんで…貴方が……黄泉 寂滅…それに…」


叡智と……小さな女の子?


「なんで………君が………」


……その半獣は思い切り胴体を咬みつかれていた。深く深く、その鋭い寂滅の牙が。


「なんで…………君が………私……を」


「理由なんてどうでもいいね」


すると、寂滅は半獣を思い切り地面に叩き落とすように投げ飛ばす。まるで、キャンパスに赤い色をぶちまけるように、血液が飛ぶ。


「どうして………刃も銃弾も通さなかった体なのに!」


「半獣風情が、人狼の牙に勝てると思うな」


「ぐっ……あぁ……」


「どうせ、無くなりかけてた命。少しでも長く生き延びられたことに感謝することだね。それじゃあね、名前も知らない人間よ」


寂滅はそのまま、その半獣を踏み潰した。だというのに、私は至って冷静だった。


「…………どうして、殺したの?」


「こいつが貴方を殺そうとしていたから」


「私…を?」


「貴方、一切その力使ってないでしょ。だから、貴方はその能力を使い慣れていない」


「まぁ、そうだけど」


「けれど、この半獣は力をたくさん行使していた。だから、自分の力を制御できていた。貴方は……間違いなく負けていたよ」


「この世にはワンチャンって言葉があってだね」


「そんな限りなく零に近い可能性に賭けても仕方ないじゃない」


「それは……うーん……なんというか……恐れがなかったっていうか」


「恐れが無かった、ね。面白いね。まぁ、なんであろうとなかろうと、貴方は生きているんだし。だったら、精々その余生を謳歌することだね」


「待って」


「何、まだ聞きたいことがあるの?」


「……どうして、私を助けたの?」


「そんなに理由が知りたいの?」


「そりゃあ気になりまくりでしょ」


「……強いていうならば、人類に可能性を見出した…ってところかな」


「人類の可能性………?」


「そ、どうしてわざわざ貴方を生き延びらせるような手立てをしたかわかる?」


「半獣の組織を作って、人類を滅ぼすため?」


「どうしてそんなことをしなければならないのさ、第一そんなことするんなら死にかけの人間じゃなくても良いじゃない」


「確かに」


わざわざ死にかけの人間を選ぶ必要もないか。


「だったら、何?」


「そこら辺はクイズってことで」


「何なのさそれ…」


「今答えを言っても面白くないじゃない」


「面白くない、か」


寂滅の考えについては一旦保留ということにしておこう。


「あと、忘れないでね」


「?」


「貴方の命は短い、それこそ土からやっと這い出た蝉のように一瞬」


「それでもいいよ」


「余裕だね」


「余裕なんかじゃない、死が近づいてくるっていうのは怖いことだし、実際怯えてる」


「へぇ、それは意外だね」


「それでも、延命の手立てを教えてくれたことには感謝してる。贅沢はだめだからね」


「ふーん」


「とりあえず、桜が散るまでだっけ。それまでに、やるべきことは全て終わらせておくよ」


「やるべきこと?」


「大好きな人たち、お別れを告げること」


「へぇ……あの部活の子達かな?」


「よく知ってるね、ストーカーしてるの?」


「人狼はね、半獣の何十倍も五感が発達しているんだよ。だから、貴方が何をしているかなんて私には筒抜けってわけ、凄いでしょ?」


「盗聴か…」


「そんな口を聞くんなら今からでも殺してやろうか?」


「ごめんなさい殺さないでください」


「とにかく、貴方の命は私の牙にかかっている。肝に銘じておくことだね」


「それは、わかってるよ」


「それじゃ、私は消えるとしますかね。行こうか、二人と………も……」


途端に、寂滅は片膝をついた。


「ぐ……おええっ……づあっ……痛い……」


「姉さん!」


女の子が寂滅に近づく。


「その子は……」


「ああ、言ってなかったね。この子は幻、私の妹」


「へぇ……」


「ああ、大丈夫だよ幻。古傷が痛いだけ……いつものことじゃない」


……その表情は、辛そうだった。そういえば、五感は半獣より遥かに発達していると言っていた。そして、先ほど半獣を殺した時、確かに半獣の血液は彼女の口の中に入った。そしてその身体に生える深い体毛の一部が剥がれ痛々しい痕が見える。


五感……視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の総称。


味覚、つまり先ほどの半獣の血液の味が鮮明に理解できる。


触覚、つまりその古傷の痛みが鮮明に伝わってくる。



寂滅は、苦しい顔をしていた。




「寂滅」


「……何?」


「貴方は、人間が嫌い?」


すると、寂滅は答えた。


「人間は、嫌いだよ」


「……そうなんだ」


「でも」


「……でも?」


「……人を殺すのは、それ以上に嫌いだよ」


「寂滅……」


その表情は、悲しそうだった。紅い瞳が、だんだん蒼くなっていく。


「それじゃあね、せめて弟さんには何か言ってあげたほうが良いと思うよ」


「そ、そこまでのことも!?」


寂滅は二人を抱えると、そのまま跳んで消えていった。


「……プライバシーのカケラもない狼め」


わかってる、伝えないといけないってことぐらいは。


でも、勇気が出ないんだ。


私が、もうすぐ死ぬだなんてことをさ……






「………どうしてここに?」


「ごめんなさい!」


家に帰って自室に戻るとロンが居た。


「勝手に部屋に入るなって言ってるよね」


「だ、だってお姉ちゃんの大事なもの落としてたから…」


「え?」


ポケットをまさぐる、けれど大事なアクセサリーがなかった。


「だから、お姉ちゃんの机に置いておこうかなって…」


「あー、善意でやったならいいんだ。それよりも、部屋の中探ってないでしょうね?」


「するわけないじゃんか!!」


「ほんとかなぁ…?」


「ほんとだって!!」


「とにかく、見られちゃ不味いものもあるから見ちゃだめだからね」


ロンの反応的にアレは見られてなさそう。アレっていうのはアレだ、余命これくらいだよって書かれた宣告書みたいなもの。見てたらこんな反応できないだろうし。


「お姉ちゃん…何してきたの?」


「興味があったからね、少し調査してきたの」


「なんの?」


「何が起きたのかなぁって調査」


「危ないよー…?」


「こうやって帰ってきたんだから別に良いじゃない」


ぐーっと背伸びをして


「そういえば、部屋に入ったのは久しぶりじゃない?」


「そうだね、お姉ちゃんしばらく家に帰ってこなかったし」


「それはごめんね」


「謝って済む問題じゃない」


「ほんとにこれしか言えないんだって」


「それじゃあ約束、消える時は僕と一緒に消えること」


「なにそれ駆け落ちじゃん」


「楽しそうじゃん、駆け落ち」


「待ってるのは恐ろしい現実だけどね」


「楽しくない奴」


アンタがマイペースなんだよ。


「ああそうだロン、少し提案なんだけどさ」


「なに?」


本来なら、部長やロンが言うことであって私から言うことではないのだが。


「春休み、どこか合宿みたいなところに旅行に行かない?」


「え!?」



―――みんなとの想い出を、残したいから。




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