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二分割の愛

作者: 広野狼

頭空っぽにして読めるような、こう、暑苦しい旦那様と、ドライな奥様が書きたかったんです。



 わりと裕福で幸せな結婚生活を送っている。とは思っている。

商家の大店の跡取りと結婚したから、義務とかもなく、お仕事も強制でないので、気楽なもの。おそらく、貴族みたいな暮らしをしながら、貴族よりも自由気ままに生きているはずだというのも、理解してる。

旦那様をそれなりに愛しているし、結婚生活に不満はなかった。

そう、過去形なんですよ。

現在進行形で不満たらたらです。

なぜって、旦那様がうざい。

大変うざい。

いえね。旦那様は、私のことを大変愛してくれているんです。いえ、自慢とかではなく、事実として。

旦那様の向ける愛情と同等の愛情を向けることは、私には無理で。

その、なんというか、実に愛が重すぎて、一度お断りしたんですよね。なんというか、狂信的な雰囲気が怖かったんですよ。

ただ、愛が重すぎたので、逃げられなかったんですけど。

まあ、でも、嫌いとは思えなかったんですよね。ちょっと怖かったけど、付き合っていくうちにそこそこ慣れることが出来たし。

なので、嫌いではないが好きに変わるのは、それほどかからなかったですし、いい人ではあるんです。私が関わらなければ。

現在、不満たらたらなのは、妊娠したから。

私は喜びました。曲がりなりにも愛してる旦那様との間の子ですから。今からどんな子が生まれるのか楽しみと、旦那様に報告してからが、けちの付けはじめと言うんでしょうかね。

いえねえ。旦那様も私の子が生まれることに喜んではいるんですよ。でも、この子は旦那様の血も継いでいるわけで。

 「減る。君の僕に対する愛情が減る」

と、まあ、嬉しいけど許容できないと、こんなことを言いだしたときに、いやな予感はした。けど、起こっていないことに手は打てないのが世の常というか。今考えると、ちょっとでも策を弄しておけばと思わなくもないんですけど。

その時には、ちょっと信じたくないという気持ちもあって、流してしまったんですよね。

でまあ、そのいやな予感が的中したから、最初のうざいって話しに戻るんですけど。

そんなわけで、旦那様。あの報告以降、仕事から帰ってくると、ソファーに座ってゆっくりとしている私の元に来て跪くなり、私のまだ、ささやかに膨らんだかも、な程度の腹に向かって、とにかく牽制すると言うのが日課になりつつありまして。

 「おまえは確かに僕の子だし、彼女の子でもあるから、愛しいと思うよ。けれどね、彼女の愛情は僕のものなんだ」

なんてことを、とうとうと語り続けるので、まあ、鬱陶しいことこの上ない。

旦那様は子供に言っているつもりでしょうが、その子供は現在進行形で、私の腹の中にいるので、その鬱陶しい言葉を私も否応なく聞く羽目になるわけですよ。

これをうざいと言わず、何をうざいというのか。

 「旦那様。その法則でいくと、そろそろ私の旦那様への愛情が枯渇すると思いますわ」

だって、うざいし。鬱陶しいし。煩わしいし。とにかく、気分が悪いので。

 「そんなっ」

私の言葉に、旦那様は、この世の終わりが来たとでも言わんばかりの顔をする。大げさなとは、思うけど、ここは一つ、胸のうちに収め、話を進めましょう。

 「旦那様。良いことを教えて差し上げます。愛情は誕生日ケーキなんです」

 「切り分けて減っていくんだろう。やっぱり」

おやおや、今にも床にくずおれそうですね。

 「違います。誕生日ケーキは、招待する人が増えれば、みんなに行き渡るように増えるのです。愛情も一緒。人が増えれば、その分増えるのです。それでも減ると思うのなら、それは、旦那様の私に向ける愛情が減るのです。私への愛情を減らして、子供に嫉妬するから」

まあ、関心が減るだけなら、私個人としては大歓迎なんですけど。だって、正直愛は重苦しいし、ちょっと鬱陶しいとか思ったりしなくもないですし。だから、ちょっと関心が減るのは良いかなって。その減るのが、子供の愛情として向いたら最高と思ってたんですけど、人生上手く行かないものです。

私を愛してくれているのは分かりますけど、子供にねちねちってのはちょっと。引きますよね。実際目にしたら。

 「そんなことはない」

旦那様は、必死に私の言葉を否定しますが、今現在、旦那様はとっても不利なんですよ。気が付いていないようですけど。

 「本当ですか? 今、まさに私に向ける愛情が減っているのではないですか?」

 「え?」

 「私がここにいるのに、旦那様は私の顔も見ないで、私に対する挨拶も無く、おなかの中の子供に声をかけていますよ」

事実を突きつけられて、旦那様は口ごもる。自分でも気がついてしまったのかな。私を見ていなかったことを。

 「僕が愛しているのはあなただけです」

本当なんです。と、すがりつく旦那様の頭をなでながら、私はいつものように、はいはいと、気のない返事を返す。

 「はい。出来れば子供にも向けてくださいね」

付け加えれば、たっぷりと時間をおいてから、現時点で最善と思える返事を返してくれました。

 「がんばろうと思います」

苦肉の策とでも言いたげな表情の旦那様を見て、私はくすりと笑う。

 「ありがとうございます。旦那様」

まあ、旦那様の自爆のおかげで、子供が産まれる前に、こじれるのを避けられたのはよかった。と、思うべきなのかな。

このまま放置で、子供が産まれたら、戦争勃発は避けられない感じがするし。そうなったらまた面倒だ。

しかも、子供が競争相手だなんて理解したら、その場で引き下がったとしても、また同じことが繰り返されるはずだし。そう思うと、やっぱりここでどうにかできたのは、よかったんだな。

足下にすがりながら、ぐずぐずと泣き続ける旦那様の頭を優しく撫でつつ、私は遠い目をした。

嫌いではないが好きに変わっても、熱量の差は埋まらないし、どうしてここまで私が好きなのかと思う日もあるけど、総体的に幸せなので、これでいいと思ってる。

思ってはいるが、やっぱり時々面倒くさい。

 「ほらほら旦那様。そんなお顔をしていると、愛が冷めそうですわ」

まあ、冷めるのは愛じゃなくて、食事なんだけどね。

私の言葉に、冷めたスープを温め直す指示がこっそりと出てる。ここの使用人は本当によくできてるな。

 「そんなっ」

今にも死にそうな顔をする旦那様に、にっこりと笑って、食事を勧める。

 「ですから冷める前に、お食事にしましょう」

笑みのまま促せば、そうだね、なんて言いながら、旦那様は勢いよくぴょこんと音のしそうな雰囲気で立ち上がり、当たり前のように私を抱き上げた。

 「まだおなかも膨らんでないですし、そんなに気を使わなくてもいいと思うんですが」

 「だめだめ。妊娠は初期が危ないって聞いた」

したり顔で自分の行動を正当化しようとしてるけど、ここで甘い顔をすると、とんでもないことになる。なった後、修正するのは大変なのだ。

 「旦那様は、そのまま出産後も何かにつけて私を抱き上げて移動しそうなんですが」

 「そ、んなことは、ないよ」

目が泳いでますよ。旦那様。どんだけ過保護にするつもりなんだろう。怖いので、今のうちに軌道修正しないと。

 「旦那様。私、適度な運動は好きなので、程々にしてくださいね」

 「……分かりました」

渋々と言った声に、私は声を上げて笑う。本当に旦那様は、憎めない人。

嫌いじゃないが好きに変わって、好きに愛が混じり、隣にいるのがふつうになった。

だから、私の愛は、そんな器用に半分になんて出来ない。

変わっていくそれは、増えているのかも分からないけど、濃さは変わってるかも。なんて感じてるけど、旦那様には今のところ秘密。

教えると、なんかとんでもないことになりそうだから。

いつか。

そう、子供も大きくなって、また二人きりになったら、言ってもいいかも。

 「旦那様には負けるけど、私も愛しておりますよ」

てね。


ちょっと照れ屋で、なかなか言葉にしない奥様と、愛情が重くてちょっと怖い旦那様のお話。


この旦那様だったら、ストーカーまっしぐらだったのではという、病んでそうな雰囲気を醸しつつ、ギリ病んでないって感じにしたと思ってるんですけど、病んでますかね。

そして、そんな旦那様をちょいちょい上手くコントロールしてる奥様。(笑)

ちなみに旦那様は、奥様に、愛されてなくても嫌われてなきゃ良いと思ってる方です。

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