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やっぱそういう奴

死神の話をまとめサイトにあげるのならこういう感じだ。

 ・水晶玉は本来どんな願いでも叶えてくれる万能の宝具。

 ・だがヒビが入っていたことにより力のバランスが崩れ、その機能を大きく損なう。

 ・その状態で死神が力を使用してしまう。

 ・欠けた個所から力が漏れ出し願いは叶わず。

 ・通常とは異なる使い方をした為、水晶玉が拒絶反応を起こす。

 ・拒絶反応を具体的に言うならば、死神の力が使用者(俺な)に悪い形で返還される。

 ・悪い形というのはつまり――。


「割れたら死ぬねん」

「は?」

「せやからこの水晶玉が割れたら。じぶん死ぬねん」

「は?」

「ごめんやで。いくら急いでたからゆうて確認もせんと力つこうてしもて」

「えっと……ドッキリですか?」

「ドッキリちゃうて! 赤いヘルメット被ったオッサンいてへんやろ? マジやねん」

「マジ?」

「マジ!」

「冗談ですよね?」

「冗談言いにわざわざこおへんよ」

 死。というワードがあまりにも安く聞こえる死神の口調に現実味がない。

「長年この仕事しとるけど僕もこんなん初めてやねん。上からはぎょうさん叩かれるし、始末書どころの騒ぎじゃないねん。きみも不幸やけど僕も結構つらい目におうたから、まぁ痛み分け、ってな感じやな」

 きさまの俺も辛いよ発言などどうでもいい。え? 俺死ぬの? にわかにはというより全然信じられない死神の話。水晶玉の存在が急に重く感じる。

 信じられない、というか信じたくない。だが目の前の超常の力を使った奴の声音はひどく真剣だ。

「まぁ。こっちの不備で今回こんなケースになったけど、いま死神界でも何とか対処しようと上に下へのてんてこまいで、水晶玉ときみの因果関係を断ち切ろうとしてるから。安心しぃや」

「因果関係を断ち切れば、これが割れても死なないんですか」

 力なく水晶玉を差す指が少し震えていた。

「たぶん。やけどな、なんせ初めてのことやから、こっちも手探り状態やねん」

 なんて無責任だ。割れたら本当に死ぬのか? こんな話を唐突に聞かされて、はいそうですか。と言えるほど俺の性格は素直じゃない。半信半疑、いや完全に疑ったまま俺は実験を試みる。

「ちょ! 自分なにしてんねん!」

 死神が初めて焦った声を出す。焦りすぎて声が上擦っている。身を乗り出し俺の行動を止めようと必死なようだ。

 何の実験かは決まっている。んなアホな話に誰が付き合うか! 右手に持つ神様の贈り物とやらを叩きつけて俺の体がどうなるかの実験だ。まぁ割れることは無いだろう。床は畳だから。

 勢いよく振りかぶり右手を振り下ろそうとした時、

「あっ!」

「あかん!」

 漫画的な擬音で表すならばスポン! だろう。

 勢いをつけすぎたのか、はたまた握りがあまかったからか、手の中からスッポ抜けた水晶玉が宙を舞い壁にゴッチンする。

 まるで時が止まる能力にでもかかったように固まる俺と死神。

 壁にぶつかったあとコロコロと畳の上を転がる水晶玉。

 そして時は動き出す。

水晶玉は割れずに存在している。だが衝撃によりヒビの個所から欠片が少しだけ畳に落ちている。うん。とりあえず実験はしっぱ――

「あれ? ……え? ちょっ! くる、しッ――ちょっ! え⁉ うそだろ、苦しい。――ッ! 胸がくる、くるしい! うそだろ⁉ たす、け。た、す、」

 苦しい! 痛い! 鼓動がおかしい⁉ え? なにこれ? 心臓が破裂でもするのこれ? 死ぬの? ちょっとマジで痛いんだけど⁉ ウソだろおい! 痛い! 痛い、痛い痛いいたいいた、い。やべぇいしきが……たすけ。て――

「……じぶんアホやろ? うっすら気付いてはいたけど、じぶんアホやろ?」

 痛みが引いていく。徐々に意識が明確になり何が起きているのか確認すると、死神が俺に手の平を向けていた。

「生きてるか? じぶん自殺志願者なん? それならそれで別の手続きがあんねんけど。でもせっかくの命やから生きとった方が良いと思うけどな」

 死神の手の平が光っている。

 手の平から出る黄色の光はどんどん溢れ俺を包み込んでいく。同時に痛みも消えていく。これが死神の力というやつなのか? 完全に痛みが引いたあと目を閉じ今までの死神の話を思い出していく。

「よっしゃ。痛みも傷も治しといたで。もう大丈夫やろ? せっかくの命や、大切にせな罰が当たるで」

「……」

「ちゃんとせなあかんで」

「…………」

「命あっての物種やで。生きるん辛いと思うけどちゃんとせな」

「………………」

「これからは、ふた――」

「マジじゃねえか……」

「ん?」

「てめぇ、マジのやつじゃねぇかよ! なんてことしてしやがんだ! ぶっ殺すぞこの野郎‼」

「なに急にきれとんねん! 最初から嘘もつかんと説明しとったやろが! 勝手に死にそうになって急にきれんなや! 助けたったのにあんまりやわ! じぶん頭おかしいんか⁉」

 俺のキレに対して逆ギレをしてきやがった。だがこっちにも言い分はある。

「あんたが最初にヒビが入ってるのを確認しなかったからこんなことになったんだろうが! どう責任とってくれんだよ!」

「う。痛いとこ付いてきよんな。せやからこれからは二人で頑張っていこって。僕もできる限りの協力はするから」

「あぁ⁉」

「水晶玉ときみの因果関係が切れるまで、僕が付きっきりでサポートしたる言うてんねん」

「付きっきり?」

「せや。まぁ狭い家やけど二人で暮らすには何とかなるやろ」

 死神が辺りを見渡しながらそう言う。

「まて! その口ぶりだと今日からこの家にお世話になる。みたいな匂いが漂ってくるぞ」

「おっ! 勘はえぇみたいやん。この名探偵」

「出てけ‼ 今すぐこの家から出てけ‼」

「大丈夫やって。何かを始めるには誰かて怖いもんやねん。でも一歩踏み込む勇気があれば世界は別の景色を見せてくれる。始めのうちは誰かてバービーちゃんやねん」

「いや、良いこと言ったみたいな空気だしてるけど全然意味わかんねぇから! なんだバービーちゃんって⁉ 一緒に住むとかはマジでやめろ!」

 心から叫んだ。心の奥の奥の純粋な部分から本気で叫んだ。すると死神は嘆息した後に立ち上がり頭を下げだした。

「な? なに――」

「きみの気持ちは分かる。せやから正直に謝る。ほんますいませんでした。いや、こんなんじゃあ足りんな」

 今度は土下座をしだす。山羊マスクを畳みに当て誠心誠意の態度を示す。

「ほんまにすいませんでした。全部僕が悪い。きみの言う通りや。すいませんでした。ただ、これだけは信じてほしい」

 声と雰囲気はどこまでも真剣だ。

「僕はきみを救いたい。これは嘘偽りなく本当の気持ちや! 確かに僕のミスでこんな事態になってしもた。ほんまに反省や。ほんまにごめん。罪滅ぼしさせてほしい。水晶玉ときみの関係をゼロにしたら改めてきみの願い叶えたい!」

 頭を上げる死神。山羊マスクのせいで顔は分からないが誠意は伝わってくる。

「僕が必ずきみの願い、幸せになりたいって願いを叶えたる。これは男同士の約束や。死神が人間と約束するちゅうのは特別でな。約束を破ると死神は死ぬねん。嘘ちゃうで。これは神様から死神に与えられた枷やねん。僕いうたやろ神様の命令で死神は人間の役に立たなあかんねん。その対象者に嘘をつくのは死神にとっては死と同義。というかほんまに死んでまうねん」

 勢いに負けて反論ができなくなる。いや、勢いじゃない。死神の真摯な態度にだ。何か言わなきゃ。そう思って口から出たのはこんな言葉。

「そんな、約束していいのかよ? もし、この水晶玉と俺の関係を断ち切る前に割れちゃたりしたら、あんたも死ぬんじゃないのかよ?」

「せや。きみと一緒に僕も死ぬやろな」

「だったら、そんな約束しないほうがいんじゃねえの⁉ 解決方法無いんだろ!」

 我ながら意地の悪い質問だ。相手の善意に泥にも似た悪意をぶつける。どうして俺はこんなにも相手の言葉をまっすぐ受け止められないんだろう。

 重苦しい空気が流れ、少しの間が生まれる。死神が何かを喋りかけたが首を振りそれをやめる、観念したような優しい声を出し始めた。

「せやなぁ。今のとこ打つ手なしやからそんな約束せんほうが自分自身の為にはなるかもしれん。けど……」

「けど?」

「じぶんおもろいやん。リアクションとかいちいちおもろいねん。言葉の返しもわるない。端的に言うと僕な、きみのこと気に入ってん。短いやりとりしか無かったけど。そんなん関係無い。気に入った人間だけ辛い目に合わすほど僕は無粋ちゃうで」

「……気に入ったって、そんな理由かよ」

「なに言うてんねん。大事なことやろ? 気に入った奴の為に己をなげ出す気持ちっていうのは。一緒に死んだる。一人より二人の方が少しは気が楽やろ?」

「死にたくはねぇよ」

「もちろんや! 僕も死にたない。だから全力できみを助ける。何を賭してでもきみを守ったる! きみを助ける手伝い、僕にさせてください」

 優しい雰囲気だ。きっと嘘は言っていないのだろう。もう一度頭を下げた死神はどこまでも人情深い人間のように感じた。

意地の悪い質問をしたことが急激に恥ずかしくなってくる。現状を考えると頼れるのはこいつしかいない。一人でいても悩んで苦しいだけだ。それなら……そう思ったら心のしこりが消えていくのが自分自身で理解できた。

「もちろん、きみのプライベートは守るし、それから――」

「もう、いいよ!」

「へ?」

「分かったって。一緒に暮す件。完全には納得してないけど。助けたいっていう誠意は伝わったし」

「ほんまに? やっぱきみはええ奴やで。ありがとう!」

「でも、この家で暮らす以上は俺のルールに従ってくださいね!」

「勿論やん! この家では白いもんでも、きみが黒いうたらそれはもう黒やで」

「調子いいなこの人、いや、死神か……」

 どちらからともなく笑い出す。この感覚久しぶりだな。元カノにフラれてから全然笑ってなかったから……この気持ちを思い出せただけでも、死神には感謝してもいいような気になってきた。良い奴なのかもしれない。

 とんでもない事になってしまった。正直全然笑えない。水晶玉が割れたら死ぬというのも頭では分かったが気持ちが追い付かない。考えると気持ちが沈んでいく。でもこの無駄に明るい死神となら、少しだけこの気持ちが紛れるかもしれない。そう思うと心の薄皮が捲れて気持ちが軽くなる。俺のことを必死で助けたいと言った言葉に嘘は感じなかったし。なによりも熱いものを感じた。一緒に死んでくれるという言葉には、俺も熱くなった。気持ちは伝わった。無茶苦茶なやつだけど、信じてみよう。こいつを。死神を信じてみよう。

「ちょっとごめんやで」

 手刀を切りながら胸ポケットからスマホを取り出す死神。

 どうやら電話がかかってきたようでいそいそと部屋の隅に移動し始める。

「はい。もしもし。あっ、えっと。はい。今日中にはなんとかできますので。」

 仕事の電話だろうか? 妙に丁寧な言葉で対応している。死神も大変なのかなぁ。と思ってしばらく見ていたのだが。

……なんだか様子がおかしい。

「はい。ほんますいません。はい。一度事務所にお伺いさせていただきます。きっちり揃えてっ――はい。もちろんです」

 かなり怪しい匂いがする。なんだ事務所って? なんだ揃えるって? どんな話をしているのか気になり、そっと死神に近づくと電話の相手が叫んでいるのが聞こえてくる。叫ぶというか怒鳴っている。どうやら死神は怒られているようだ。

 さらに近づくと正確に相手の声が聞こえ。やり取りの内容が判明した。

『おいおいおいおい! てめぇ本当に今月分の金返せるんだろうな? 今日中に利子分まとめ払ってもらわねぇとまた追い込みかけっかんな!』

「すいません。おそうなりますけど必ず返しますんで。あの今仕事中なんで一旦切ってもええですか? 終わったら直ぐにかけ直すんで」

『あのさ。前も同じようなこと言って飛んだよね? 信じると思ってんの? 今からそっち行ってやろうか⁉ あぁ‼』

「仕事中なんでホンマに勘弁してください。その節はほんますいませんでした。ちょっと家庭の事情でごたついてまして、今は大丈夫なので必ずかけ直します。ほんまに直ぐかけ直すんで。失礼します。失礼します」

 画面を操作して電話を切る死神。切られる直前まで飛ぶ怒号。俺の視線に気づくとゆっくりとこちらを振り向き、テヘッ。的な雰囲気を醸し出す。

「金、貸してく――」

「出てけ‼」

 どうやらこの死神、いや。借金クソ野郎は駄目な部類の奴のようだ。

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