表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

幸せなら手を叩こう



「よっしゃ‼ いくで! キェェェェェ――【コロン、カツン】――ェェ……あっ⁉︎」


 死神の声と同時に歯を食いしばっている自分がいた——のだが、なんだ今の音?

 

「おい死神?」

「……」

「おい、何か落ちっ――⁉」

「……」

「おい死神。それって……」

「……」

「なんでずっと無言なの? ソレ……落ちたけど」

 油の切れた機械人形よろしく死神が首を捻る。俺も死神から落ちたソレを見る。

 奇声の途中で死神が二人の顔を覗くように前のめりになった。その途中で鳴った【コロン、カツン】という音。

 硬質な音だが、どこか澄んだ音が、傷だらけのコンクリ地面に落ちた音。その音の正体は俺にとっては見慣れに見慣れた物で、何ならつい何分か前に破壊した物。

「死神……お前のズボンの裾から、水晶玉が転がってったんだが?」

 俺の質問から四秒ほどの間をとってから死神が答えた。

「え? ほんま? あっ、ほんまや? なんでこんな所に水晶玉があるんやろ?」

「いや、なんでこんな所にって……お前のズボンの裾から出てくるのハッキリと見たけど」

「いや、ちょっと、分からないです」

 急に標準語? こいつ、こいつ……やりやがったな!

「その地面に落ちてるやつってさ。あれじゃない? 疑似水晶玉じゃない? なんか大きさとか似てるけど? ……疑似水晶玉使えばさ。俺の命使わなくてもさ、助かるんじゃないの?」

 アレを割った俺だからこそ分かるのだが、神ギフトの水晶玉よりも疑似水晶玉は小ぶりとなっている。転がった水晶玉は似ている。というか死神の反応からみてもそうに違いない。

「えっと、あの。ちょっと記憶にございま――」

「どこの政治家だお前は」

 死神に詰め寄る、分かりやすくテンパるクズはなかなか口を割ろうとしない。固まるアホを放っておいて疑似水晶玉を拾う。

「すんません。僕これから英会話のレッスンがあるので、いったん失礼しま――」

「あ、そう。じゃあいいんだね。これね。この水晶玉ね。思いっきり割っても良いってことだもんね。そしたらね。思いっきりね。割ってみようね」

 こちらに背を向け固まる死神。窺うように振り向いたあとに「ヘヘッ」と気持ち悪い声で歩み寄ってきた。

「ちゃうやん。ちゃうやん。ちゃうやん! 聞いて、聞いて、聞いて! いったんほんまに聞いて⁉ ねっ。ホンマに。疑似水晶玉を御上から二つ貰っててん。予備の為いうてね。目的は勿論きみと水晶玉の関係を断ち切る事でね。これはほんまやから。この疑似のやつはな本来な、死神界では秘蔵中の秘蔵やねん。せやから最初っからきみにも使うことが上層部も躊躇いがあってん。でもなかなか因果関係断ち切れへんから、もう使ってまえ! みたいな。疑似水晶玉を使ってさっさとこの面倒な事態を終わらせてまえ。みたいな流になってん。仕事やねん。これはあくまでビジネスやねん」

 いつもの三倍の早口で説明しているのだが、全て言い訳にしか聞こえない。

「今の流れもアレやで。勿論その疑似水晶玉を使う流れやで。ほら、じぶんかっこつけてたやん? だから水差したらアカンかなおもてやで。彼女らを生き返したあとは、あれ、俺死んでない。みたいな流れになるやん。どうして? ってなるやん。力つこたのになんで死んでへんのやろ? ってなるやん。そしたら僕がビシッと言いたかってん」

「……なんて?」

「僕の力で運命ねじ曲げたったわ! ってな。ほら僕あれやん。尊敬されたい、みたいなとこあるやん。せやからそういう演出で――」

「本音いえ」

「本音て‼ これは嘘偽りなく僕の――」

「本音いえ」

「もぅ~‼ なに言うてますの? いややなぁ~僕かて、そこまでクズちゃいまッ――」

「本音いえ」

「………………まぁ、その。借金が、まあ。……何というか、増えてるんで。まぁ……その。うん。難しいとこやね……うん。人生と一緒や」

 その澄ました雰囲気が余計に腹が立つがが、それよりやるべき事がある。

「早く二人を生き返らせろよ」

「……はい!」

「おい! なんだその反抗的な態度。お前ほんと――」

「や・る・い・う・て・る・や・ろ! ホンマにさっきからぐちぐちと。尻の穴の小さい男やな」

 逆ギレかよ! 落ち着け。二人の無事を確認したらだ。その後こいつを殴ろう。

 望月千代、初芽つぼみの側にもう一度寄ると「きぇぇい」とやる気の無い掛け声をだす死神。

直後に俺の手の中にあった疑似水晶玉が二つに割れ。気化し灰色の空に混ざっていく。瓦礫と電信柱の下敷きになっていた二人の体は、引力にひかれるようにヌルッと引き出され、死神の前でもう一度横になる。次には俺が死にかけた時と同じように、黄色い光が二人の周囲を包んでいく。

 顔に赤みが戻り欠損していた部位が再生されていく。

時間をかけずに呼吸が再開され、両者とも可愛いらしい寝息を開始した。

「……良かった」

これで目を覚ましてくれれば万事解決だ。疑似水晶玉様様だ。……ん? 疑似水晶玉って確か……あれだよな。いったい何を犠牲にしたんだ? 嫌な予感がする。一応邪魔はしないように死神の後ろに立ち声をかける。

「おい死神」

「なんですかぁ⁉」

 なぜこいつが迷惑そうな声を出す。

「疑似水晶玉は願いを犠牲にして効果が発動するんだろ? なにを犠牲にしたんだ?」

 両手を翳し、黄色い光をだす死神の肩が一瞬跳ねる。まるで「いっけね!」みたいな反応だ。

「あれは、限りなくフェイクに近いなにかやな」

「は?」

「ちっこい水晶玉は人間の願いしか叶わんもんやからな。覚悟があるやつにしか使えへんねん。死神に憑りつかれるいう覚悟や。分かるか? 何かを得るには何かを捨てる、あの法則や。せやから僕はきみの覚悟を試したんや。まあ、きみはもう憑りつかれてるみたいなもんやから、今考えればいらん決断やったな。軽々しく願いが叶うなんて知ったら人間はすぐ楽しよるやろ、その為にああいったフェイクを取り入れたんや。まぁ、そういう演出やと思っとき」

「……じゃあ俺の幸せになりたいっていうのは――」

「叶うか叶わんかは、全てこれからのきみ次第や」

 な、殴りてぇ……いいこと言ったみたいな雰囲気だすな! あの決意は意味が無かったのか。もうこいつの言葉は何も信じないことにしよう。

「それに。死神は人間の前では嘘はつかれへんからな」

 悲しげにそう呟く死神。なんか被害者ぶってるけど、お前の言葉は何も信じない事にしたから二度と俺には響かないだろうさ。

「他になんか隠してる事は無いのか?」

「なんやその口ぶり。まるで僕が嘘つきみたいな口ぶりやんか。隠し事って、あれか? オプション的なやつのこというてんの?」

「逆になんだよオプション的なやつって⁉」

「それはアレや。今まだ疑似の力が作用してるからな、この子たちにつこてる力を今なら――」

 急に下品な声をだす死神。

「どうとでもできるで……ピンクの展開もバッツリや」

「な、なんだよ。どういうことだよ」

「かぁ~これやからニブチンは困るで!」

 振り向く死神。黄色い光の影響だろうか。無機質なゴムの目が山なりになっているように見える。

「この子らの人格を作り変えて。きみにベタ惚れさすこともできるいうことや」

突き出された右拳、人差し指と中指の間に親指が入れられていた。

「な、なんだよそれ⁉ そんなこと……え? できるの? 催眠みたいなもんなの?」

「ちゃう。ちゃう。ちゃう。催眠なんてそんな温いもんちゃうで。人格を一から作り変えられるんや。きみ好みに。きみだけの存在に」

 なんておそろしい力だ。そんな。これが疑似水晶玉の、超常の力のオプションというものなのか。

「なんも難しいこ考えんでよろしい。本来この子達は死にゆく運命やったんやで。それをきみの善良な心がこの子らを救い出した。少しくらい見返り、いや。ご褒美があってもええと僕は思うで」

 ご褒美って具体的にはどんなことでしょうか? 教えて死神先生。

「ほら、もうすぐ疑似水晶玉の力が無くなっていくで。もう間もなくや。これが消えたらこの子らは目を覚ますで。そうなると彼女らの人格は死ぬ前と同じや。きみみたいなしょうもないゴミクズ人間には一生届かない高嶺の花や。ほらほら。素直になったらよろしいねん。こんな別嬪二人を手籠めにできるチャンスは、二度とないで~」

 た、確かに。この二人が俺に振り向くなんてことは、って、おい。お前いまさりげなく悪口言ったろ?

「さぁ。もう時間はないで。人間らしく肉欲に溺れればよろしいねん」

 瞬時に様々な可能性を考え。(およそ一秒未満程)将来も踏まえた結果。もっとも彼女らに適したオプションを施すことに決める。

「よし。死神先生。今から俺の言うことを彼女らに。オプションをつけてくれ」

 決意の言葉を伝えると。いやらしい声で「御意」と返ってきた。なんだ御意って。

「彼女たちには――」

 こんな結末も悪くはないだろう。


 疑似水晶玉の力が無くなると同時に、灰色の世界は色のついたピースが一つ一つ戻っていき。通常の世界へと戻っていく。しばらくして。


「あれ? つぼみさん?」

「あれ? 千代? なんであんたがって。ここどこ?」

「どこって? ここは私の……えっと。私のお知り合いの。家の。近くの公園、ですかね?」

「そうなの?」

「はい。おそらくですが?」

「なんであんたと二人で公園のベンチで寝てたんだろ?」

「そうですね。たいして天気はよくないのですが」

 お互いにふわふわと可愛らしい欠伸をしている。

「そうです。思い出しました! 私が今住んでる所からつぼみさんのお家に引っ越す為に荷物を運びにきたんですよ。その途中の公園で一休みして、そしたらお互い寝てしまった……んですかね?」

「んん? そうだっけ? でもそんな感じだったような気もする」

「では引っ越し作業開始しましょう。といっても荷物は少ないですけど。終わった後はお知り合いの方から預かった鍵を郵便ポストに入れれば任務完了です」

「任務って。ここは忍びの世界じゃないんだよ」

「えへへ。そうでした。ほらほら早く立ってくださいつぼみさん。善は急げです」

「ちょっと。分かったから。もう、引っ張らないでよ」

 タタタタッと駆けていく二人。


「全ッ然おもろない展開や! なんやあの願い。じぶんホンマにチンチンあんのけ?」

「うっせぇな。クズは黙ってろよ」

 ベンチの対面にある公園遊具、象さん型かくれんぼ滑り台の穴倉から体を乗り出し外に出る。

 二人が無事で。何事もないようで良かった。

「なんであんなオプションにしたんや⁉ じぶんと僕の記憶を消してどないすんねん! せっかくあんな美人どころ二人とくんずほぐれつできたのに。もったいなでほんまに」

 あの二人には俺と死神に関する記憶を消させてもらった。

もう俺には関わらない方がいいだろうし。このアホ(死神)のせいで、もう死ぬような思いをしてほしくないからだ。

 本当は知り合いくらいに留めよと思ったけど、なんだか甘えているような気もしたのできっぱりと記憶を消した。荷物を運び終えたら俺と出会う前の状態に戻っているだろう。

死神の記憶を消したのは、もっちゃん、ではなく。望月さんも死神なんて探さずに普通の女子大生として暮らした方が彼女の為。そう思ったからだ。

 彼女の夢を破ったとは思わない。今回の色々な厄介事を通して分かったことがある。

 自分の力で叶えない夢なんて夢ではない。

 幸せになりたいなら手を叩けばいい。つまり自分で手を叩くという行動をすることに意味があったということ。別の奴が隣で手を叩いてもこっちの心がけ次第でそんなものはどうにでもなっちまう。ということが分かった……と思う。

だから望月さんも、本当に一族の復興を叶えたいなら、自分で手を叩いたたほうが良い。他人の、ましてや死神の合いの手なんかに絶対に頼っちゃダメなんだ。 

もう見えなくなってしまったが。がんばれ望月さん!

「んで、あとどんくらいでくんの?」

「もう着くってよ。来たらマジでどっか行ってろよお前!」

「はいはいはい。お邪魔虫は消えますよ!」

 人にばかり押し付けるんじゃなく。俺自身も手を叩くことにした。死ぬと決意したあの時。頭の中をよぎったやりたいことを一つ一つ叶えていく。ということだ。

 手始めに手を付けたのは――

「元カノちゃんはどんな子なん?」

「どんなって……別に普通の子だよ。愛嬌がある。かな」

「きもっ」

「てめっ、マジでぶっ飛ばすぞクソ野郎!」

 元カノにもう一度好きだと伝えること。どうこうなろうとは考えていない。ただこの気持ちから全てが始まったから。これを伝えないと前に、というか豪快に手を叩けない。そう思ったからだ。

 好きだと伝えて、ありがとうと伝える。それだけ。相手が迷惑するようなら直ぐに帰るし。感触が良いようなら、後は流れでお願いします。って感じだ。

 世界が元に戻った瞬間に、元カノに話があるからこの公園に来てくれ。と電話をしたらすんなりオーケーをもらえた。

 今は元カノ待ちの状態だ。待つ間に死神と時間つぶしの会話をする。こいつとはまだしばらく付き合うことになるのだろう?

本人いわく疑似水晶玉はもう無いらしく、制作にも時間がかかるとの事。まぁ当然のように全く信じてはいない。どうせ嘘だろうと確信している。

今までのことがあるから正直このアホには消えてほしい、と思うのだが、ただ、まぁ。こいつがいて助かったのは事実なので、少しだけ許してやることにした。丁度しょっぱい味噌汁が恋しかった頃でもあるし……。

 今日の天気は家を出た時とちっとも変っていない。曇天が不敵に笑っているようだ。なんだか家をでて今までが非常に長かったように感じる。

 昼近くだからか、それとも寒いからか公園内には人っ子一人いない状態。景色を眺めるのにも飽きたのでバッグから触りなれた水晶玉を取り出す。

「死神? まだ俺と水晶玉の関係って続いてるんだよな?」

「せや。まだまだ継続中や」

 移動しベンチに腰掛ける。死神も座りだす。

 水晶玉を眺めながら今まであった事を回想していく。

「色々あったな」

「せやな」

 都合よく雲間が晴れると日の光が一直線に伸び、水晶玉を照らす。まるで神様がご苦労様と言っているようだ。お礼というわけではないが水晶玉を掲げる。

「ん? なあ、それっ――」と死神が口を開いた瞬間。


「――だ~れだッ‼」


 ドン‼ と、言葉と同時に背中を強く押され上半身がつんのめる。こんな悪戯をするのは俺の知っているかぎり一人しかいない。

「あ、アカン‼」

 死神の余裕のない声。何事かと思い顔を上げると原因が分かった。

「あっ‼」

 水晶玉が宙を浮いていた。掲げていたはずだったが、ドンと背中を押された衝撃で俺の手からスッポ抜けたようだ。

ゆっくりゆっくりと宙を舞う水晶玉。このままいけば地面に衝突してしまうだろう。体を前に倒し、受け止めようとする死神の動きも、ゆっくりとしている。

 何故ゆっくりになっているのか? これは俗に言う死ぬ前は景色がスローモーションになる現象というやつなのか? これってもしかして、水晶玉が割れて死ぬから周りの動きがスローモーションなのか、そうなのか? だが、公園の地面は土だ。コンクリなら割れるのかもしれないが、土で割れる――可能性は充分にある! え? 俺死ぬの? 色々なピンチを潜り抜けてきたのにこんな所で死ぬの? 嘘でしょ?

 背中を押した人物は楽しそうにケタケタと笑っている。

 水晶玉が地面に衝突するまであと三十センチ程だ。

後ろをふり返る。少しだけ伸びた茶色い髪。腕を突き出した状態で前かがみになり、ばかみたいに笑っている。笑いながら髪をかきあげるその見慣れた仕草よりも、彼女の右耳の飾りが気になった。

 水晶玉と地面の衝突はあと十センチ程度。

 右の耳朶にあるアクセサリーには、ぼんやりと見憶えがある。

波打つ雫型に鎌が突き刺さっているデザイン。どこかで見たようだが思い出せない。

水晶玉が地面にぶつかるまではもう間もなくだろう。

 見覚えがあるが何かを思い出せないそのピアスに、俺はどうにも子憎たらしさを感じながら目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ