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決断


「しにがみ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」

 灰色の空に悪魔の怒号が響く。

 ドスンドスンと恐竜並の大きさになった悪魔が灰色の街を闊歩する。邪魔だと言わんばかりに建物を破壊し、怒りの行き場を地団駄で表し道路を陥没させていく。

 破壊された町並みと巨大化した悪魔の姿は、さながらシン・アクマとでも名付けよう。

「あん?」

 悪魔からしたら豆粒にも見えるだろう。だが奴ははっきりと気付いた。足元にいる俺の存在に。

「おい、死神はどうした?」

 グググッと身を屈み俺へと顔を近づける悪魔。なるべくあの真っ黒な目を見ないようにする。腹部にいたはずの神田の爺さんが消えていた。いったいどこに消えたのやら?

「おい人間! 死神はどこだ?」

 目の前に迫る悪魔の顔。怖い。恐怖以外の何ものでもない。小便を漏らさない奴なんてこの世にはいないだろう。悪魔の生暖かい息が全身を這う。くさい! 何だこの臭いは⁉ 汚水と生ゴミと動物の死骸が融合している。この世ならざる臭さだ! こいつの奥歯には暗黒物質でも住み着いとるんか? 

「一つ、確認したい?」

 顔を背け、呼吸を必要最低限に済ましながらの為、黒柳徹子みたいな声になってしまう。

「質問があるならきちんと目を見るのが筋だろう、人間」

 誰が見るか! 悪魔のくせにどうしてそこで人間的なルールが出てくる。死神しかり悪魔しかり。こいつらいちいちめんどくせぇんだよ!

「俺を見逃してくれないか?」

 俺の質問に悪魔は鼻息を一つ出した。足が震える。頼むから臆病はすっこんでいてくれ。

「目的は死神だろう? 俺は関係無いよな? だから俺を見逃してくれ。というかよくよく考えたら俺は巻き込まれただけだし。悪魔さんと死神の問題は当事者で解決すればいい話だろ? 関係無い俺を見逃してくれないか?」

 もう一度悪魔が鼻息を出す。……臭い。鼻息も臭いのかこいつは。

「ダメだ」

 懇願は短い拒絶で終わった。最後の望みも絶たれちまった。

「実に人間らしい姑息な考えで好感をもてるが、最初からお前は殺す予定だった。水晶玉を餌にすれば死神を釣れると思って生かしておいたまでだ。お前の体は次の憑代としていただく。神田の体はもう使えんからな、都合良く代えが見つかったんだ。わざわざ見捨てるバカはいない」

「代えってことは。神田の爺さんは死んだのか?」

 気になったので一応聞いてみる。

「小さいことは気にするな姑息な人間。今日で人間の体が三体手に入れられて、死神も見つけた。お前には感謝の言葉を贈ろう」

 やっぱりそうか。こいつの目的が死神だけなら、逃げることも考えたが。現実はそう甘くないってやつだ。それにあの二人をこれ以上巻き込む訳にいかない。

 腹を決めるしかない。

 ポケットを弄り手の中に死神から渡された物を握る。

 普段触る物よりも少しだけ小ぶりなそれは、ひやりとした感触で、いつものようにこっちの事情なんて知りませんよ。という拒絶を感じる。

「運が悪かったな人間」

 バックリと開く悪魔の口。人ひとり簡単に飲み込むほど大きく開いた口からは、次の瞬間には死しか訪れないのだろう。

「死神! あと頼んだぞこの野郎!」

 その臭い口に食われてたまるかよ! 叫ぶと同時に手の中にある小さな水晶玉を思いっきり地面に叩きつける。

 グラスが割れる音よりも少しだけ鈍く。陶器が割れる音よりも少しだけ軽い音で水晶玉は割れた。

綺麗に真っ二つに割れたあと、酸をかけられた音に近い、溶けるような音。水晶玉が溶けだし気化していく。これで、俺はもう――

「よう決断したで。あとは任しとき! 隅っこの方で茶でもしばいとけや!」

 その声は俺が聞いた死神の声の中で、とびっきりカッコ良かったかもしれない。

「しに、がみーーーーーーーー‼」

 悪臭をまき散らしながら悪魔が後ろ振り向く。そこに立つのは。

「……悪魔はん口臭いで。奥歯で暗黒物質でも飼ってんの?」

 悪魔からビキリという音が聞こえる。後退しながら伺って見ると、こめかみに筋が立っている。どうやらこの悪魔、口臭を気にしているようだ。良かった言わなくて。

「――ンンンンンンンンンンンン‼」

 口を閉じながら大きく状態を起こす悪魔。振り上げる腕が馬鹿でかい煙筒のように見える。

 死神と悪魔の距離は大股で五、六ッ歩程度。巨大化した悪魔の一撃は十分に届く範囲だ。

「死神!」

 あんな一撃をくらったら、いくら〝力を取り戻した死神といえど〟ひとたまりもないはずだから。

「慌てんでえぇ! 巻き添喰らわんように離れとき」

 死神の言葉と同時にビクリと悪魔の体が揺れる。

「久々やで、これ使うの」

 ふぁさりとスーツが落ちる。死神が着ていたスーツが地面に落ちる。

「エリートの力、よう見とき!」

 山羊マスクのみが浮いている。マスクの下は何もない。破壊された通りが見えるだけだ。宙をプラプラと浮くマスク。あの山羊面があいつの本体だったのか?

「ヌッァァァァァァ!」

 両腕を豪快に振り下ろす悪魔。山羊マスクにヒラリと躱される。両腕は標的を捉えられず地面に大きな陥没を作るのみとなった。

「キェェェェェェェェェェェェェェイ!」

 死神が叫ぶ。何だか懐かしい叫び声でもある。叫んだあと、どんどんと巨大化していく山羊マスクは、形状が変わっていく。

 左右の頭部から角が二本ずつ。上と下に向かって生えていく。目が窪み、赤黒い眼光へと変化。白いマスクだったのだが黒い毛が覆いだす。気味の悪い黒い山羊面がホォウ! ホォウ! と高ぶりながら喋り出す。

「キタキタキタキタ‼ あがる、上がる、アガルで~~‼」

 テンションマックスの死神の叫び。叫びに呼応するように首から下が現れ始める。

 骨、血管、血、臓器、肉、皮膚と順々に再生されていく様は、見ていて不愉快な映像ではある。

 筋骨隆々の黒い上半身には腕が四本。背中には同じような黒い翼。下半身は山羊の胴体が再生されていく。四足歩行の下半身には手触りの悪そうな黒い毛がビッシリ。

 うん。なんていうか、お前さ……。

「どや~! これが僕の真の姿や! ハイスペック死神様やでー!」

 ドヤ顔を向けてくる死神。巨大化した大きさは悪魔と同じ。黒い山羊面に人間の上半身に腕が四本。背中に翼。下半身はまた山羊に戻っているその姿はどう見てもお前の方が悪魔なんだよな――俺の感想を早く聞きたいのだろうか? デカイ蹄が忙しなく動いている。

「あ、うん。えっと……カッコイイ、スゲーカッコイイヨ、シニガミ」

「せやろ~‼ きみみたいな奴にもこの神々しい姿の良さが分かるやろ! さて仕事しますかいな!」

 もう一度言うけど、どうみてもお前の方が悪魔に見えるんだけど。それは言わないでおいた方が優しさなんだろうな。本人ノリノリだし。

「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァ‼ 死神ーー‼」

「くっさい息こっち向けんなや!」

 そして始まる化け物同士の戦い。巻き込まれないように離れる。。

 俺の願いを犠牲にして本来の力を取り戻した死神。



「これで俺は幸せにはなれないのか」


 言葉にすれば非常に滑稽なフレーズだが、事実なので仕方がない。

 割った水晶玉は死神の故郷である、水晶の世界に仕入れた物だそうだ。

 一度だけ使用者の願いを叶える。代償はその願い以外の、代わりの願いが永久に叶わない。ということ。

 死神たちが神様の見様見真似で作成したもので、疑似水晶玉らしい。所詮は偽物なので本物の力には及ばず、その為に何かを犠牲にして何かを得る的な法則が機能し、願いが叶うという。

 あれ? どっかで聞いたことあるフレーズだが深くは追及しないでおこう。

 本来は俺と水晶玉の因果関係を断ち切る為に持ってきたらしいのだが、それはご覧のとおり、悪魔よりも悪魔らしい死神の姿に変わってしまった。

 死神の力を取り戻す代わりに代償として俺の願いでもある幸せになりたい。が叶わくなる。疑似水晶玉を渡される時に死神からそう説明された。

 どうにも俺に絡んでくる超常の力というものは、何かの枷を欲しがりがちだ。

 幸せになれない。そう。死神の言うことが本当ならば俺はもう幸せになれない。本来の目的である水晶玉と俺の因果関係も断ち切れていない。踏んだり蹴ったりだ。

 この決断に迷いがなかったかと問われれば迷ったに決まっている。いくら幸せの定義が人それぞれで曖昧なものであろうとも。幸せになりたいに決まっている。

 でも願いとか、夢とか希望なんてのは命あっての物種だろ。単純な考えだけど生きてりゃなんとかなるもんだし。

「……シニーーッがみ」

「まっずぅ! めっちゃ不味いやんこのクソ悪魔! さっさと死ねボケェ!」

 物思いに拭けっていると化け物同士の戦いに決着がついたようだ。

その光景たるや、最早どっちが悪魔か本当に分からない状態となっている。

悪魔の頭部に噛り付き、ブチブチと不快な音をたてながら強引に肉片を貪り喰らう死神。頭が三分の一ほど食われた悪魔は口、目、鼻、耳の穴から黄土色の膿を出しながら膝を付く。

見ていて気持ちが悪い。決め手が捕食ってさ。見た目も加味するとお前の方が悪魔だよ死神。

断末魔に相応しい叫びを上げながら悪魔が地面に突っ伏していく。アニメ的漫画的な感じで消えてなくなるのかと思ったがそうでも無いらしい。

頭部を半分食われて絶命する悪魔。死神がとどめとばかりに腹を裂いて臓物を外部へと投げ出していく。血と銅、糞尿の臭いが周囲に充満し、不快指数は天上を超えて、お釈迦様の顔くらいまで届いている。

死神は非常に楽しそうな笑顔である。こちらから言わせれば、取り立てに来た借金取りを殺すあいつは、ただのサイコパスにしか見えない。

「聖戦! これにて終了や!」

 自分に酔っているご様子なので何も言うまい。

「さて、このポンコツの死体はどうしようかな。というかこのねずみ色の空やら建物はいつ元に戻るんやろ?」

 一仕事終えた死神がスルスルと元のサイズに戻ったあとにそう呟いた。全裸の死神は恥ずかしそうに地面に落ちたスーツを着始める。

 なぜ照れた様子を醸し出す。やめろ意味深にこっちをチラチラ見るな気持ち悪い。誰もお前の裸なんか興味無い! というか死神って普通のおっさんの体なんだな。

「この灰色は、ってそうだ! 二人は⁉」

「あれ、ちょっ。待って! まだズボン穿いてへんから! 一人にせんといて! 寂しいから! 一人は寂しいから!」

 付き合いたての女子高生のようなことを言うバカを無視して、公園へと引き返す。無事でいてくれ!

 途中何度か転びそうになるが、勢いのまま全力で駆けていく。道路や建物は悪魔により破壊され世紀末状態。倒壊された家々。折れた電信柱。原型を留めていないクレーターだらけの道路。その上に魚群のように散る灰色の瓦礫。もしこれらの下敷きにでもなっていたら。そう思うと自然と足が前に出る。はやる気持ちで辿り着いた時、腹の底から声が出た。

「嘘だろおい‼」

 公園の出入り口付近、道路脇で二人の姿を発見した。だがその惨状に顔が歪む。

「もっちゃん! 初芽さん!」

 瓦礫に下半身が埋まるもっちゃっん。その隣で折れた電信柱に左半身をかくす初芽つぼみ。

「冗談だろ……嘘だよ、こんなの。二人とも返事してくれよ!」

 駆け寄り呼びかけるが、口からは血の返事しか返ってこない。粉塵で汚された顔に生はなく、体半分を隠す無機質な凶器の下は、ひび割れた道路を赤に染めている。

「マジかよ! どうすんだよ! 目あけてくれよ二人とも‼」

 俺の願いは叶うはずもない。だって二人は返事をする兆しもないのだから。

なんだよこれ、俺だけ助かっても意味ないだろ。そうだよ! 意味無いぞこんな結末! この二人はただ巻き込まれただけじゃないか。二人が死んで俺が生き残るなんて、あっちゃダメだろこんなの。二人の代わりに俺がこうなればよかったんだよ。どうしてあの時逃げたんだ。どうして二人を置いて悪魔から逃げてしまったんだ。少しでも立ち向かう勇気があれば、死神の話を聞いて直ぐにでも決断していれば、違う結果になっていたかもしれないのに。後悔してもこの二人が目を開けることは無い。分かってはいるがそれでも考えてしまう。俺が黒魔術なんてバカなことに手を出さなければ、悪魔に襲われた時に逃げなければ。疑似水晶玉で二人を生き返らせて逃がしていれば……結局全て我が身可愛さで、自分の事を第一に考えた結果だ。自分を殺してやりたい。もしこれが、幸せになれない力の効力だとしたら、こんなのはあんまりだ。悔しい。認めたくない。悔しい、認めたくない。どうにかしたい、こんなの認めねえぞ俺は! この二人が死ぬのは違うだろうが神様よ! この二人を……。神様。頼む! 俺の命と引き換えでもいいからこの二人、を――‼

 ある! 方法があるじゃないか! それこそ俺の命を使えばこの二人を生きかえらすことができる! そう力を使えば……全部くつがえせるじゃないか!。

「こんなとこにおったんか。もう家帰ろうや」

 死神の力を使えば!

「死神!」

「ん? なんや⁉ 急にマジトーンで。なに? ――って、うわっ~。……こりゃまた、酷いな。巻き込まれたんかな……」

 二人の姿を確認したあと両手を合わせる死神。いや、その行動にはまだ早い。

「この二人を救うぞ!」

「救うぞって、え? どうやって? 疑似水晶玉は一回しか使えへんのやで、さっきの僕の力で使ってもうてるし……って、自分もしかして――」

「今度こそ俺の寿命を使ってお前の力を使う。どんな願いでも叶えられるんだろ?」

「い、いや、まぁ。そうやけど。この二人……命を生き返らすなんて。とんでもないで。生命の循環に強制介入や。それも二人分。悪魔消すよりよっぽどドえらいで」

「やっぱ死ぬのか?」

「当たり前や! 下手したら来世の分つこても足りひんぐらいやで」

「……そうか」

「アホなこと考えんのやめとき。お嬢ちゃん二人は可哀想やけど、これがこの子らの運命やったのかもしれんで? 無理に命を引き延ばしても運命が絶たれた人生はあんまり進められへん。それにじぶん。今の魂の状態分かってへんとはいわさへんで。じぶんの魂は水晶玉と繋がってる。その状態で死ぬって、もう僕にもどうなるか分からへん」

 それは分かる。心配してくれているのも分かる。でも止めないでほしい。俺はこの二人を助けたい。助かったら恩を恩で返すと決めたんだ。もう自分に嘘はつきたくない。頼むから否定しないでくれ。俺を助ける為に戦った二人が死んで、俺だけが生きてるなんて、そんなふざけた結果には耐えられない。このさき生きていても、もうそんなのは人間じゃない。罪に苦しんで生きるより、俺は罰を受け入れる。人として最後は真っ当でいたい! 例え死ぬことになっても……あ! そうか――

「それにな、さっきも言ったけど、来世の魂もつこたらそれこそ、もう。考えがおよばへん。マイナスの面ばっかりや」

 ――どうしてこんなに必死に否定するんだろう。俺の決意を鈍らせるだろうと思ったら。そういえばそうだった。

「死んだ人間を生き返らせるなんて、神への冒涜や。その神様の贈り物で繋がってるじぶんが、そんなことしたら――」

 あの約束があったのか、だからこんなに必死なのか。死神が人間と約束をするってのはこいつらの世界では特別なんだったな。だったらやる事は一つだ。

「死神」

 話の腰を折られて死神が不機嫌に返事をする。その態度がいかにも死神らしく笑ってしまう。

「あの約束、今から無しな」

「やくそく⁉」

 死神の上擦った声がおかしくてまた笑ってしまう。

「俺が死んだらお前も死ぬっていう約束だよ。アレ今から無しな。あの約束は今から無効。だから俺が死んでもお前は生きたままってことで」

「…………………………」

 少し間をおいたあと、死神の肩が下がる。見慣れた無機質なゴムの目が、じっと見つめてくる。こいつにしてみれば確かに必死に止めたくもなる。俺にとっては命の恩人二人でも死神にとっては何の関わりも無い二人なんだから。そりゃ巻き込まれないように必死にもなるさ。逆の立場だったら俺でも必死に止めるだろうし。

だからあの約束はここで終わりだ。お前が何と言おうと、どんだけ止めようと俺はやるよ。

俺から解放されて生々するだろ? 自由になったらまたギャンブルばっかやんのか? ほどほどにしとかねえとまた追い込みかけられんぞ。

「よし! しんみり空気なんて俺らには必要ないな。さっさと頼む。この二人を――」

「バカにしてんのか?」

「へ?」

「じぶん、僕のことバカにしてんのか⁉」

 急な怒号に言葉が詰まる。バカになんかしてないだろ。俺はお前を巻き込まないように――

「なに。一人でかっこつけとんねん! その顔でかっこつけられてもサブイボしかたたへんわ! なにが俺は死んでもお前は生きたままでってことでや! さぶっ! めっちゃさぶっ! そんなんイケメン主人公の台詞であって、きみみたいなモブDあたりの台詞ちゃうねん!」

 ぐっ。確かにくさいかなとは思ったが……いいじゃねぇかよ、最後くらいかっこつけても。というか待て。自分でもモブ顔だというのは理解していたがDなのかよ俺は! A、B、C、Dでモブですら四番目なのかよ! 四と書いて〝し〟と読むじゃねぇか。これから死ぬからか? 死ぬからなのか!

「しょうもな! ほんましょうもないでじぶん。はぁ~アホくさ。こんな男と約束した自分がアホらしくなるでほんま」

「てめぇ、さっきから言わせておけば好き放題言いやがって。お前だってしょうもない借金クソ野郎じゃねぇかよ‼」

「そや‼ 僕はしょうもない借金クソ野郎や! だから頼りなく見えるんか! こんな借金クソ野郎には頼れんいうことか⁉」

「頼るとかそういうことじゃなくて、俺はお前を巻き込まないように――」


「――――――――――ま・き・こ・め・やーーーーーーーーーー‼」


「僕を巻きこんで何が悪いねん! 確かに頼りないかもしれん。情けない姿やしょうもないしまらん姿しか見してへん!」

 両肩に熱。死神の手がしっかりと俺の肩を掴みだす。

「それでも! 僕はきみの為に罪滅ぼしがしたい。こんな状況も元を正せば全部が僕のせいや。こちらこそ巻き込んでほんまにごめんや。すんませんでした。きみが自分の命つかってこの子ら助けたいっていうのを助けさせてほしい。巻き込んでほしい。それで少しでもきみへの罪滅ぼしにさせてほしい。一人で死ぬより二人の方がいいやろ。それに僕は死神やで。死を司る神様やで。絶対にきみの魂は僕が救い出したる」

 熱く語る死神の声はどこまでも真剣だ。ああ、そういえばあの時もそうだったな。こいつはこういつ奴なんだよな。

「死後の世界も僕とならスイスイやで、まだ申し訳ないって気持ちがあるなら、さっさとそれは捨てや。僕は巻き込まれたいから、僕がきみを救いたいから一緒に死んだるわ。それに――」

「気に入った人間だけ辛い目に合わすほど無粋じゃない。ってやつか?」

「……なんや。先言うなや!」

 少しの沈黙の後、どちらともなく笑い出す。

 そうだ。こいつはこういつ奴なんだよ。バカでアホで人の迷惑になることしかしないし、口は悪いし、借金まみれのダメ野郎だけど。

……熱いやつなんだよ。だからだろう。どうにも俺は、こいつのことを憎めない。

「さ、決まったところで急ごか。この子らの魂を強制的に引き戻す。力。つかうで?」

「おう……やってくれ」

 俺から離れもっちゃんと初芽つぼみに近づく死神。

 人生に悔いは無いかというと、めちゃめちゃある。家族に会いたいし。元カノにもう一度告白したいし。行った事ない風俗にも行ってみたいし。それからそれから……。くそ、死ぬ前にどうしてこんなに色々とやりたいことが出てくるんだろうか。やっぱり生きたい。でも、もう決めたんだ。二人を救うって。だから……もう……もういいんだ。

 死神が二人の側にしゃがみ込む。

「あの世で待ってるで」

「あぁ。死神」

「なんや?」

「その、なんつうか。ありがと」

「お礼なんていらんで、僕らの旅はこっからが本番や」

「そうだな。それでも、ありがとう。正直、一人だと無茶苦茶こわいし不安だけど、お前とならどうにかなりそうだわ」

「ふん。当たり前や。僕はエリート死神やからな」

「エリートは借金しないだろ」

「アホいいなや、エリートやから借金すんねん」

「どういう理屈だよ」

「そういう理屈や」

「……」

「……」

「なあ、死んだらどうなんるんだ?」

「それは……死んでからのお楽しみにしとこうや」

「答えになってない、けどまあ。お前となら楽しそうだな」

「任しとき、遊園地より楽しい思いさしたる」

「期待しとくよ」

「……ほな、やるで」

「あぁ…………やってくれ」


 死神はゆっくりとした動作で地面を踏ん張るように足を広げ、掌を合わせ出す。俺に目配せをする。

 それが死神なりの優しさなのは分かっている。だから俺はただ頷き。改めて覚悟を決める。


 なんかバタバタの終わりだったけど、まぁ、悪くなかった。かな?

 俺はそっと目を閉じその時を待った。


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