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クリスマスイブですってね

 クリスマスというイベントをご存知だろうか? 言わずもがな大抵の人は知っているだろう。

それはある者には幸せを運ぶイベントだったりする。

 またある者にはクリスマス? なにそれおいしいの? 俺は一人のほうが良いし、クリスマスとか全然どうでもいいし。キリストの誕生日祝って何が楽しいの? という誰に向けているのか分からない言い訳をし、布団にさっさと潜り込む健康的な行事でもある。

 またまたある者にとっては、見ず知らずの恋人たちに増悪という汚物にも似た厄介な感情を、はらわたでコトコト煮立たせる日だったりもする。

 今回はそんな増悪をこじらせたが為に、とんでもない目にあった男の話だ。なんて微妙かつすべり気味の文言で始まったが、つまる所「俺」の話だ。


 冬将軍よろしくの季節である十二月二十五日。

 ニュースキャスターが十五年ぶりの寒さだなんだとのた打ち回っている今日。

 俺は自宅にこもり、お香をたき、全身黒色の魔術師然とした衣装に身を包んでいる。カビ臭いボロアパートの一室。六畳間の真ん中で胡坐をかき、目の前を睨みつける。


 俺の眼力にロックオンされ、狙い撃つぜ的に凄まれているのは茶色のちゃぶ台テーブル。の上にある、丸っとした水晶玉。

 直径十センチ程の水晶玉を両手でおおうように翳し、ブツブツと独り言を言っている状態だ。

 何をブツブツと言っているかを説明したいと思う。これから始まる壮大なストーリーの序章に相応しいのだが、一つ忘れないでほしい。


 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているという事を。


 By——えっと———たぶん。偉い誰かの言葉。

 耳を傾けて聞いてほしい。冬のしらべにも負けない研ぎ澄まされた俺の声を。


「世の中のカップルが全て滅亡しますように、めちゃくちゃ俺が幸せになれますように。世の中のカップルが全て滅亡しますように、めちゃくちゃ俺が幸せになれますように。世の中のカップルが全て滅亡しますように、めちゃくちゃ俺が幸せになれますように。世の中のカップルが全て滅亡しますように、めちゃくちゃ俺が幸せになれますように———————————」


恨み節たっぷりに何時間も呟いているわけだが。

これは俗にいう黒魔術という儀式だ。

 引かないでほしい。いや、ちょっと待って。ほんと待って。お願い。こんな事をしている理由をこれから話すから、だから聞いて。ほんとすぐだから。先っぽだけだから。すぐ終わるから。ねっ? ねっ!? 

 どうして俺がこんな狂った行為をする羽目になったかの理由だけでも、聞いてほしい。


 話は一ヶ月前に遡る。

友人との談笑中にクリスマスの話題になったことから始まった。

「カップルを根絶やしにする為に、俺は黒魔術をやる!」

 言ったのは俺ではなく、その友人だ。

そのあとも身振り手振りで何やら叫ぶ友人の勢い込んだ姿を見て、俺は鼻で笑った。

 いわく黒魔術という迷信めいた儀式は悪魔を呼び寄せるらしい。呼び出した悪魔に願いを言うと、その願い事が叶う——らしい。

 長年連れ添った我が友は、ついに頭がおかしくなったかと内心で憂いを帯びていると、奴は必要以上に一緒にやろうと進めてきた。

 だが俺には全く興味が無かった。

 黒魔術、なにそれ? アホくさ。ってな感じで、嘘偽りなく全然興味が無かったと断言できる。

 むしろ頭大丈夫か? と友人を心配する慈悲の心があり。なんて俺って良い奴なのだろうかと、自分の優しさに酔っていたふしがあった。

 さて、何故こんなにも余裕の態度で友人の力説を右から左に流していたかというと、答えは簡単。

 俺には彼女がいたからだ。

高校二年始めから付き合い始めてかれこれ三年。

大学にも慣れ、彼女へのクリスマスプレゼントの為にバイトでもやろうかな。なんてな事を考えているリアル充実組だったからだ。

 いまだ必死に訴える友人を、ドブ川に浮く死んだ魚の目で見ながらこの日は終わった。

 それから数日が経ち。バイトで金を貯め、クリスマスプレゼント用に小さなネックレスを買った。蝶をモチーフにした可愛らしいデザインなのできっと彼女は気に入るだろう。

 などと予想を立てながら、ぼんやりと二十五日の日程を脳内シミュレートしていたのは本番が始まる一週間前。

 そして俺にとっての青天の霹靂。寝耳に水。この世の関節が外れた。野郎的な感覚で言うならば、肝っ玉がひっくり返った出来事が起こったのも、本番が始まる一週間前。

唐突に彼女に呼ばれ、のこのこと近所の公園に足を向かわせたのが、この物語の本当の始まりな気がする。

公園で落ち合った彼女から発せられた言葉により、全ての計画が残念無念の状態になってしまった。

 そう。別れというものはいつも突然、いや必然。はたまた蓋然。

 あっさりと別れを告げられた。

 前触れもなく訪れた別れ話にドッキリカメラを探したが、看板を持った赤いヘルメットを被ったオッサンは一向に現れる気配はなく。

「……マジ?」

 という俺の声だけが夜の公園に虚しく響いたのは記憶に新しい。

 フラれた理由は分からず。聞いても教えてくれず。彼女、いや元彼女は一言。

「じゃあね」というと、すたこらさっさと軽快すぎる足取りで去っていった。

 リアルガチに関節が外れたようにその場に佇んでいると。公園を根城にしているであろう方々に尊い者を見る目で微笑まれた。

 ショボボボン。と決まり文句を後頭部に張り付かせ、帰宅した直後に布団を頭から被った。

 悲しみのあまり一筋の涙が頬をつたう——前に怒りが込み上げてきた。

「なんでや? なんでこのタイミングやねん? もう少しでクリスマスやろが! 辛すぎるやろが! こっちはまだ好きなんじゃボケ~!」

ショックのあまり、一度も使ったことのない関西弁が出るのもやぶさかではないほど、心が叫びたがっているんだ的な衝動にまかせて、声を張り上げた。

 魂の咆哮はもちろん彼女には届かず。築六十年のボロアパートに虚しく吸い込まれると、うるさいぞと言わんばかりに隣、下の階からのドン! と壁を叩く抗議の音が聞こえる始末。

 叫ぶこともできないのか! 

と自分を取り巻く運命に反逆の狼煙を上げたが、平々凡々と生きてきた俺は、皇族の生まれでもなければ、母親が所属不明のテロリストに殺されたわけでもなく。かといって事故に巻き込まれ美少女と出会い、強制命令権をもつ力なぞ授かっていないわけで。立ち上がった後に何もできない己の無力さを痛感しながらまた布団にもぐり込み、悲しみ、哀しみ、愛おぼえていますか? 何てことを呟いた直後に一つの妙案を思いつく。

 次の日、充血した目を擦りながら友人に電話した。

 そう。例の友人だ。

 俺は僅かな希望を胸に、黒魔術をやろうとしたのだ! 理由? おいおい、そこは聞かないのが優しさだろ。

 だがしいて言うならば、元彼女とヨリを戻す。何て願いを言うつもりはないさ。俺はそんなに小物じゃない。と自分では思っている。では何を願うのか。俺は考え方の視野を大きく、物事を深く捉えてみた。


 この世界から恋人という概念を消してしまおう。


 それが一晩考えて導き出された答えだった。

 世界から恋人という概念が消えれば、俺のように傷つく同志が減るのではないか? 

 そう思ったのだ。ほら、よく言うだろ? 概念が消えれば下ネタだって存在しないって。

 故に、未来ある我が同志達に早めのクリスマスプレゼントを贈ろうと思っただけのことさ。

 だって恋人という概念が消えたらさ、もう即結婚じゃん? 付き合うという工程が無いからさ。カップルになった瞬間、即、結婚!

 となると可能性だけれども、俺が元彼女とヨリを戻したとしよう。するとあら不思議。

 私たち結婚しました。という幸せを押し付けるハガキをどこに出そうか悩む幸せな日々が訪れるという訳だ。何言っているんだこいつ。と思ったあなた。

 それは正解だ。

 俺も途中でなに阿呆なことを考えているんだと思った。が、男。いや! 漢には一度決めたら最後までやり遂げなければいけない時がある。

 故に我は引かぬ、媚びぬ、省みぬ! の精神で黒魔術の遂行に動き出した。

 願いは違うが志を同じくする我が友に事の経緯を説明し、同意を得ようとしたのだが奴の返答は俺の期待を大きく裏切りやがった。

 どれくらいかと問われれば。

 某スポーツ記事がまともな記事しか書かなくなった。といえば伝わるだろうか。

 とにもかくにも友人の返答を聞いてほしい。


「わりぃ。俺、彼女できちゃってさ! 今から彼女と北海道にスノボー旅行行ってくるわ。じゃあ俺忙しいから電話切るぞ。え? 黒魔術? なに言ってんだよ。あんなの冗談に決まってんだろ。信じんなよ、お前、頭大丈夫か? じゃあな」


ツー、ツー、ツー。


 この時ほど切ないビジートーンもないだろう。

 きっと彼は、恋をした夜はすべてがうまくいきそうで的なマジックにかかったのだろう。

 どうか雪山から戻ってこないようにと東の空にご祈祷を捧げたあと、直ぐに黒魔術の準備にとりかかる。

 この時代、黒魔術のやり方なんぞ調べるのは簡単だ。スマホ片手にネットの海をさまよう。

 ネットは広大ですね少佐。誰に言うわけでもない言葉で自分自身を鼓舞しながら幾つかのサイトを吟味。さらに密に調べ上げる最中に一つのブログに目がとまる。

 様々な種類の黒魔術のやり方を細かく説明しているブログのようで、今の俺にはピッタリと思い、目を皿にし、時にはメモを取りつつ文字の羅列を追っていく。

 一通り調べたあとに俺は駆けた。

 どこかというと、有名免税店であるトン・キホーテだ。黒魔術には道具が必要なようで、その道具は大体あの店に揃っているとブログには書いてあった。

 そこはかとなく異常性を感じたブログだったが、今の俺にはなりふりなど構っていられない。

 店内では耳障りなようで、一度聴いたら覚えてしまう。なんなら街中で口ずさんでしまうあのBGMを聞きながら、お目当ての物をゲットしていく。

 蝋燭。

 変な匂いのお香。

 六芒星がデザインされている黒色のバンダナ。

 ゲームやアニメなんかで見る魔術師のような黒色のローブ。等々。ある程度の物は揃ったのだが、肝心の水晶玉だけは見つからなかった。

 黒魔術には透明で八センチ~十五センチほどの水晶玉が必要らしい。

 黒魔術のすべて、という。例の頭のおかしいブログをやっている人がそう書いていたのだ。

 その場では、まあいいか。と思い一度家に帰り、翌日に違う店舗のトン・キホーテやら雑貨店を巡るがお目当ての水晶玉は見つけられず。ネットで買おうと思ったのだが、どうにも手ごろな価格が見当たらない。

 どうしようか。と頭を悩ませているうちに日時はあゝ無情にも流れていき、とうとうあの日。

 クリスマスになってしまった。

 俺は焦っていた。むろん水晶玉がまだ手元に無いからだ。

 二十四日はまだ我慢できたが、今日という日はことさらに俺の胸が締めつけられた。この心の窮屈な感覚はあの時に似ている。

 そう十四歳のあの時。


姉のブラジャーを内緒で付けたあの日に酷似していた。


 ブラの場合は肉体的な締め付けと罪悪感も重なり胸が窮屈になった。だが内から泉のように溢れ出る衝動に抗うことができずに数時間を過ごし、晩御飯を食べる一家団欒の時までブラを付けて過ごした。

 父、母、姉の視線が怖くもあり、比例するように高揚したことが今となってはいい思い出だ。

風呂場に行き、鏡に映る化け物の姿を見た瞬間に魔法が解け、瞬時にブラを外し洗濯籠に叩き込み、それ以来どうしてか姉の顔をまともに見られなくなったのも——いい思い出だ。

ふぅ。とニヒルな笑みを浮かべたあとに家路へと足を進める。

現在の時刻は二十時。

冬休みを利用して朝から色々探し回ったが水晶玉は見つからなかった。

もしやと思い大学のオカルト研究会なる部室に勝手に忍び込み、探してみたが見つからず。あきらめて帰宅の途中だ。

 我が街の平均的に栄えた駅前は当然のようにクリスマスで賑っている、カップル達が手をつなぎ、ときには肩。上級者達はおでこ。もしくは鼻を合わせながらイルミネーションを眺め、満足そうにどこかへと消えていく。

 幸せそうな恋人達だ。

 俺はある意味君たちの為に黒魔術をやろうと決意したのに、何なのお前ら?

 破れろ! ゴム破れちまえ! できちゃった結婚して、三年後あたりに離婚してしまえ! 心の中で叫んでみたがもはや負け犬の遠吠え以外のなにものでもなかった。

 帰ろう。そして寝よう。

 今日の俺には何よりも睡眠が必要だったのだ。

 黒魔術実行のために朝から水晶玉を探す事でも無く、初めて姉のブラジャーを付けた時を思い出すわけでもなく。寝ることが必要だったのだ。

 孤独感と片寄せ合いながら無気力に足を進めていると。全く見知らぬ通りを歩いていた。

 見知らぬ住宅街の連なり。稀に見るイルミネーションを飾ってある家々にも見覚えはない。いくら考え事をしながら歩いていたとはいえ、駅からの帰り道を間違えるなんて。

ため息をつきながら辺りを見ると。対面にある骨董屋が目に付いた。あまり寄らない住宅街に骨董屋。

 何か運命的なものを感じ、地球の重力に引き寄せられる宇宙軍のように自然と足が向かっていった。

 骨董屋といえば伝統を感じさせる情緒ある雰囲気を想像していたのだが、目の前の店からは古く汚らしい印象しか想像できない。

 だがもしかしたらという淡い期待を胸に抱き店内に入る。

 外観は広い印象だったが、中は随分とせまっ苦しい。きっと壁に並んでいる壺やら茶碗。大きな彫刻が原因だろう。

 店内はお婆ちゃんの家のような独特な、何とも言えない匂い。長時間嗅いでいたくはないスメルに目眩を覚えつつ辺りを探る。

 暗く、暖色の照明が縦横無尽に浮く埃を粉雪のように照らしているのが何よりも不快だ。

 薄めで店内を見渡したあと、さっさと出ようと振り返り出入り口の引き戸に手をかける。

 行きはよいよい帰りは怖い。とでもいった具合に引き戸がなかなかスライドしない。

 入るときはあんなにスムーズだったのに。

 ぬん! と力を込めると——棚が崩れ、物が地面に落ちる音が店内に響く。

 あれ? もしかして俺のせい? おそるおそる振り向くが、どこかの棚が壊れた様子は無い。

 気のせいかと安堵していると、足元に何かが転がってきたのでツイと視線を動かす。

「マジか!」

 叫んでしまった。

 そこには探し求めていた水晶玉があったからだ。

 大きさ、透明度、申し分ない! 俺からは見えないどこかの棚が崩れた拍子に転がってきたのだろうか? いやしかしなんたる偶然か! と叫びたい気持ちを抑え。ブツを手に取り婆の元に。

 生きているのか死んでいるのかよく分からない婆さんが。

「千円」

 と破棄の無い声を出す。安い! と眼力で返事をし、そそくさと千円を渡し店から出る。

 出入り口の引き戸はさっきとは違い軽やかにスライド。

 早く家に帰りたい俺の背中を後押ししてくれているようだ。後ろで婆さんが何かを言っているような気もするが、今は無視。

 何故なら俺は一刻も早く儀式に取りかからねばならないからだ。我が身を燃やす言葉は執念、怨念、それら負の感情。


 そして現在の時刻は草木も眠る丑三つ時。


 家についてから準備を整え、黒魔術を開始したのは日付が変わる少し前。

 それから延々と。

「世の中のカップルが全て滅亡しますように、めちゃくちゃ俺が幸せになれますように」

 という言葉を繰り返しているのだが、一つ気付いたことがある。


「むなしい」


 言葉に出さないようにしていたのだが、漏れ出てしまった。

 薄々は気付いていたさ。

 一時間過ぎた辺りから悲しさやら虚しさが襲い。

 二時間過ぎた辺りでこれって意味あるのかな? と疑問を持ち始め。

 三時間過ぎた辺りで魔術師ローブを床に叩きつけ、ジャージに着替えだしていた。

 黒魔術をやって分かったことは。

「むなしい」

 というあまりにも切ない事実のみだった。全てを忘れて寝よう、布団に潜り込もうとした時――来客を知らせる、ピンポン——という、ありきたりなアナログ音が部屋に響いた。

え、こんな時間に? と固まっているともう一度部屋にピンポンと響く。

それから三度、四度となるインターホン。

なんて非常識な輩がいるのか! 今何時だと思ってんだ⁉ こっちは母ちゃんに日付をまたぐ前に寝るようにと口酸っぱく教えられた良い子ちゃんだぞ。非常識な奴には誰が対応してやるか! 感情の爆発とともに中指を立て布団に潜り込む。

だがまたしても、扉一枚隔てた我が家になるインターホン。

腹を立てつつも無視していたのだが、六度目、七度目、とどめの八度目が響き、こちらも身構える体制となった。

ヤバい。相当に頭のおかしな奴が呼び鈴で遊んでいる。直接文句を言う度胸が無いわけではないが、ここは穏便に済ませたい。

このご時世、玄関を開けた瞬間に——サクリ——と刺されることもありえるからだ。きっと扉越しの相手もその手の奴に違いない。

恐る恐る布団から這い出し玄関に向かい、物音をたてないように小汚いドアスコープを覗く。


誰もいない。


応答が無いことに業を煮やしたか? 愚かな奴だ。我が策に敗れすごすごと帰ったようだな。

全ては盤上の配布通り。扉を開けて確認するまでもない。我勝利せし!

——夜中に拳を天に掲げる自分がアホらしくなり、憩いの最上級たる布団へと移動。

「あれ?」

ふと違和感に気付き、部屋の真ん中にあるちゃぶ台の上を二度見、三度見する。

「水晶玉、どこいった?」

 誰も答えることの無い問いかけは自然と床に落ちるのは自明の理———いや、今はそんな哲学的な答えなどどうでもいいのだ。

 テーブルに置かれていた水晶玉が無くなっている。

 球体である水晶玉はどこかに転がり、旅に行ったのやもしれん。

 だが転がらないように六芒星が描かれた黒布——トンキ・ホーテで九百八十円——で動かないように固定していたのだが?

 廊下と呼ぶにはお粗末な玄関付近で、あれ? あれ? ない? ない? とリズミカルなテンポで探していると。


「じぶん幸せになりたいん?」


 声が聞こえた。


唐突に、何の前振りもなく、全く聞き覚えのない声が耳に届く。

 ——いま、こえが、きこえ、なかった、かい? 某腹話術師のように声ではなく思考が遅れそのまま固まってしまう。気のせいだよな? 振り返り部屋を見ようとした時。


「じぶん幸せになりたいん?」


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