竜人族とやらに番として誘拐されたお姉さまを助けに行くことになりました。稀代の悪役令嬢とまで言われたお姉さまが攫われるなんて、みそっかす三人姉妹の真ん中が助けることができるのでしょうか?
「……フレアー・ソウル!」
私が火の呪文を唱えると、目の前にいるトカゲの大群がしり込みを始めました。
ごきげんよう、三人姉妹の真ん中味噌っかすと言われた、クレア・ラッセルと申します。
火魔法しか使えない私が、単身一人で向かった先は竜人族とやらが支配する竜人国でした。
ああ、どうしてこんなことになってしまったのでしょう。話の始まりは目の前でトカゲにお姉さまがさらわれたことから始まります。
『わが番よ、どうかわが伴侶として……』
『いい男ですわ! まともそうないい男です!』
『お姉さま、見た目に騙されたらだめですわ。変な亜人しかひきつけない体質のお姉さまに言い寄るなんて、絶対どこか変な人ですわ!』
突然わが館に現れたトカゲたちの大群。空飛ぶトカゲが空を覆っていました。お姉さまは目をハートにしてトカゲにのった、金髪のいい男、とやらの差し出す手を取りました。
そして館をめちゃくちゃに壊したトカゲが去っていったあとは残骸だけが残り……。
国交がない民族が、わが国の侯爵の娘をさらったと大問題になり、なぜか誘拐された姉を救うために私が選出されて、向かうことになり。
ええ、悪役令嬢とまで言われた、『変な人外に好かれる体質』を持つ姉が持ち込んだ災厄を妹のお前がなんとかしろってことになったのです。
姉は十九歳、国一番の美貌を持ちますが、もうそろそろ適齢期が過ぎるお年頃、私は15歳、王太子の婚約者、一番下の妹はまだ十二歳、国一番の神童。
いつも姉の持ち込む災厄のしりぬぐいは私になるのです。妹は小さすぎました。
いつも私が割を食うのですわ。
普通じゃないですわよ、トカゲの大群にか弱い少女一人が立ち向かうなんて!
「フレアー・アロー!」
私が手をかざし、呪文を唱えると、トカゲたちが香ばしく焼かれるにおいがしてきます。
ああ、これでも手加減しているのに……。私の防御障壁すら超えられない亜人って弱すぎますわ。
「……さあ、あなたたちにとらわれた金髪碧眼の女、何やら番とか言われていた人がいるはずです。その人のところに案内しなさい!」
偉そうな一人のトカゲを捕まえて、私が命令をすると恐れるようにこくこくとうなずくトカゲ、手加減してこれって竜人族って実は弱いのです?
「……お姉さま、助けに来ました」
「ああ、クレア、来てくれたのね、待ってたわ。もうすごく退屈で、退屈で、トカゲに囲まれて死にそうでしたわ!」
ええ、姉は大きな城の奥の部屋に監禁されていました。どうも私が捕まえたトカゲ、将軍とやらで、城とやらの奥まで入れる権限があったみたいです。
ああ、でも城中大騒ぎになってますわ。
「フレアー・ロンド!」
私が今度は火の全体魔法を唱えると、ドーンという音がして焼け落ちる壁、きちんと防御障壁を張っていますわよ。
「もう本当に、人外なら人外って言ってほしいですわ。私はまともな人間の男性を伴侶にしたいですのに」
「見た目に騙されるなって何回言ったらわかってもらえますの?」
「反省ですわ」
姉がよっこらしょっと立ち上がり、帰りましょうといった途端。
「そうはさせない」
壊れた壁から金髪美青年が入ってきます。とても怖い顔をしていますが……拉致監禁って普通に犯罪ですが。
「わが番、わが伴侶として、ここにとどまると……」
「誘拐されて、監禁されて、それでも番だからあなたを愛しますなんていうもの好きどこにもいないと思いますわ。帰らせてもらいますわ」
「お姉さま、それ魔法封じの指輪!」
「ええもらったんでしてみたら魔法が使えないので驚きましたわ」
「ああ、自力で帰ってこないわけがわかりました」
てへぺろはやめてください。私は金髪青年が若とやらで、この竜人族の王子だということは聞いていましたが、王族はトカゲじゃないって反則だと思います。やりにくい。
「わが番、わが愛を否定するか!」
「番と言われても……私はあなたを愛しておりませんの。独りよがりの愛を語らないでくださいまし」
ああ、バッサリと行きましたわ。私は仕方ないとばかりに若とやらに説明を始めます。
「私はこの人の妹です。この方は、変な人外に好かれる体質があって、幼少のころから変なのに絡まれ続けて、まともな人間の男性を伴侶にしたいという望みがありまして……」
「番として!」
「人の話をこの人聞かないのですわ……」
「はいはいわかりました。フレアー・ウィンド!」
私が仕方ないとばかりに呪文を唱えると、その魔法を防御する若とやら、流石に王子様だけあります。
私はどうしようかなと思い、お姉さまの魔道具を一つ渡しました。
「魔封じがあってもこれ使えますわよね?」
「はいはい、大丈夫ですわ、わが呼びかけに答えて現れよ、召喚の門よ!」
お姉さまに白い箱を渡すと、お姉さまが高らかに呪文を唱え、そこから白い門が現れます。
お姉さまに迷惑をかけた、拉致監禁ドワーフ男、ストーカーエルフ男、強姦未遂ゴブリンなどなどがぞろぞろと出てきます。
「あの男を半殺しにしなさい!」
「ああ、どうしてこう大雑把な命令を……」
従属命令をかけられているので絶対です。お姉さまは召喚師なのですが、自分に迷惑をかけた人外の男たちを呼び出してこきつかっているのです。
男たちがぞろぞろと若とやらに向かい、若が刀を手に呪文を唱えますが、エルフがそれを消し去り、うおおおおと叫びドワーフが斧を手に突っ込み、ゴブリンの槍がさく裂……ああ殺さないでくださいよ。
「そろそろ帰りましょうか、クレア」
「あれ、ほうっておいていいでのですか?」
「時間がたてば勝手に召還されますし、いいのですわ」
お姉さまが今のうちにというので私は周りを見渡し、そろそろと二人で歩き出します。
皆混乱しているので、逃げ出せそうですけど……。
「わが番!」
ああ、ぎったぎたにされる若を後目にお姉さまはわが国までどうやって帰りましょうとため息をついています。迎えが国境にきていますわよというとよかったわとにっこりと笑うお姉さま。
ああ、お姉さまが番とか多分何かの間違いです……こうしていつものように姉のしりぬぐいをさせられた私の仕事が……。
「クレア、お前な、国交がない国の王子を半殺しにして、あげくに城を大火事にするなんて!」
「けが人だけで済んだはずですわ」
「死者は出てないがな……ああ。父上もどうして君に任せたのか……」
「ごめんなさい、クロス」
私はこってり婚約者の王太子クロスに怒られる羽目になりました。まああちらにも非があったので、今回は穏便に済ませることができたらしいですが、エルフの時はまあもう大騒ぎになりました。
森を少し焼いただけでしたのに……。
「とりあえず、お前の姉さんを何とか普通の男とくっつけるために見合いをセッティングした」
「ありがとうございます!」
「君の父上に泣いて頼まれたんだ……」
一番上は変な人外に好かれる体質、真ん中は国一番の破壊魔法の使い手、三番目は実験を繰り返し、爆発を引き起こす爆発魔。迷惑三姉妹と言われているとまたまたクロスがお説教をしますが。
おとなしくしろっていうのなら、お姉さまをなんとかしてくださいですわ。私は巻き込まれているだけですのよ。
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