8.リルアの特訓
あれから数ヶ月、毎日リルアさんの特訓が続いた。
特訓初日に私の身体能力を調べ上げ、特訓メニューを考えてくれた。
当初は鬼の様なメニューに何回も逃げ出したくなったが、人間頑張ればできるものだ。
今では広場で2週走っただけでバテていたランニングも10週走っても余裕になっていた。
視力も聴力も精神を研ぎ澄まして見ると、よく見え、よく聴こえた。私はリルアさんの問いに正解することが増えた。
私があまりにも出来が悪くて、感性を引き上げる薬を買ってもらって飲んだというのは秘密だ。
剣の腕前はって?
剣も以前より扱える。リルアさんは見た目に似合わず剣の腕前はピカイチだったのだ。
この前も森で剣の手解きをしてもらっている最中にペットが襲ってきたが、「邪魔ですね」と言いながらあっという間に倒してしまった。そんなリルアさんを見て私が感動していると
「感動している場合ではありません!ミリさんもこの位剣を扱ってもらわないと」と怒られてしまった。
でも、今では特訓という名目で弱いモンスター相手に戦ったりもしている。
ピンチの時だけ剣の力を使って、後は自分の力でなんとか倒していた。
初めて出会うモンスターはもちろん捕獲もする。
10匹位は捕まえたかな?
本を埋めるにはまだまだ捕まえなくてはいけないけれど。
この前捕獲出来なかったらポイズンシャークもちゃんと捕獲したし。
そういえば、リルアさんに特訓してもらっている間ムウは帰ってこなかった。
「ムウったら私のこと助けてくれるって言ったのに」
ボソッと話したのがリルアさんに聞こえたのか、
「大丈夫ですよ?ムウ様がいなくても私がいますから!」
と言ってくれた。
そして、今日も特訓が始まる。
「ミリさん。弱いペットとの戦いは大分慣れてきたみたいですね。そろそろ、少し強いペットと戦ってみましょうか?」
「はいっ!」
私は勢いよく返事した。
一緒に特訓を始めて、リルアさんの勇姿をみて憧れの存在になっていたのだ。
私も、リルアさんみたいに強くなりたい!
その気持ちが頑張れる源になっていた。
「じゃあ、今日は荒地の方へ行ってみましょう」
とリルアさんは言った。
荒地はペット達の住処が多いらしく、中級者向けのペットがたくさんいるそう。
一昔前の私の力ではとても連れていける場所ではなかったそうだが、今なら行っても大丈夫と判断したそうだ。
私、少しは認められたかな?
荒地は街から少し距離があるため、馬車で途中まで行くことになった。
といっても、日が沈む頃には街に帰る予定なので、そんなに長い時間いることは出来ない。まあお試しといったところだ。
もし、私が荒地のペット達と対等に戦えるのであれば、改めて近くの街を拠点にし、荒地を攻略するそうだ。
そんなこと話をしていたら、馬車が荒地近くの停留所に止まる。
馬車を降りると、冒険者が結構いた。
ここの荒地は腕を磨くには絶好の場所らしい。
リルアさんは荒地に入る前に私に念を押してきた。
ペットを捕獲しているのを他の方に見られない様にしてくださいねと。
以前ムウからも忠告を受けていたので、誰かがいる時は、捕獲をしないように注意を払っていた。
まあ、今までは弱いモンスターばかり戦っていたためか、全然人には出会わなかった。
みんな、弱いモンスターはスルーするみたいで、戦っていたのは私くらい。
たまに冒険者になりたてらしき人はいたけど、すでにこの周辺のペットの捕獲は完了していたから、捕獲はせずに特訓がてら倒してしまっていた。
「では、そろそろ行きましょうか?」
リルアさんの言葉に頷き、荒地に足を入れる。
荒地に入ってしばらく歩くが、ペットの姿はない。どうやら他の冒険者達がペットを倒してしまった後の様だ。
「中々いませんね。もうちょっと先に行ってみましょう」
と先に進む。
あっ!あそこにいるのは!?
私が動く物体に指をさして、位置を教える。
「やっといましたか。うーんとこのペットはチーナスと言って……」
リルアさんが親切に解説を始めるが、向こうに居たペットは私達に気付き、勢いよくかけてきた。
「リルアさんっ!ペットがこっちにきてますっ!」
「あらあら、説明の途中なのに。ではミリさん倒してみましょう」
トカゲの姿をして二足歩行でやってくるチーナスに私は待っていましたという様に剣をリングから取り出す。
「気をつけてくださいよ?今までのペットとは力の差がありますから」
リルアさんに言われ、気を引き締める。
チーナスは私との距離が縮まるとジャンプをして、こちらを目掛けて襲ってきた。
私はそれを避けて、剣で対峙する。
チーナスもやられるかと言わんばかりに攻撃を仕掛けてくる。
やっぱり強いな。と私は思った。
今まで、特訓で倒していた弱いペットとは比べ物にならない。
それもこのトカゲ、鱗を纏っているせいか硬い。剣が何度かペットの体に接触したが刃が通らない。
「ミリさーん!チーナスは背中の鱗が硬いので、お腹の当たりを狙ってみてくださーい!」
リルアさんの助言が入る。
「お腹か……」
狙えるなら狙いたいけど、向こうもそう易々と狙わしてくれないよな。
でも!!ここで負けるわけにはいかない!
「ポイズンシャーク、スキルオンッ!!」
スキル[毒の牙]の効果が発動し、剣が光り毒効果が付与される。
私はここに来て、初めて戦いにスキルを使う。
今まで、まともなスキルがなかったので使わなかったのもあるが、強いペットを前にして、毒なら相手を少しでも傷を与えれば効果があると思ったからだ。
私は相手の攻撃をかわしながら隙ができるのを待つ。
「今だっ!」
隙を見つけ、すぐさま剣で斬りつける。
切りつけたのはお腹ではなく、鱗と鱗の隙間。
懐に飛び込むのは危険だと思い、ならばと鱗がある背中を狙った。
チーナスは剣を受けてもがいていたが、先程剣に付与した毒が効果を発揮し、しばらくすると息絶えた。
「やったぁ!リルアさん倒しましたよ!」
「ミリさんやりましたね。まさか、鱗の隙間を狙うなんて見事です!さあ、周りに誰もいないうちに捕獲しちゃいましょう!」
すぐさま本を鞄から出してチーナスを捕獲する。
「捕獲完了っと!」
捕獲をすませた私にリルアさんが声をかけてくれた。
「ここな辺にはまだペットがいそうですね。この調子で、どんどん捕まえて力をつけましょう」と言い、
「ただしっ!!スキルは反則です。自分の力だけで倒すこと。まあ、相手が強いと私が判断したらその時だけ許可します」
「はーい。すみません」私はリルアさんに謝り、次のペットを探す。
私達は街に帰る時間になるまで、ペットを見つけては戦い捕獲を繰り返したのだった。