3.ペットの捕獲
んんっ……ここは……?
ベッドで横になっていた体を起こし部屋の中を見渡す。
そこはいつもの私の部屋ではなく、宿屋の一室だった。
そうだ……。私は昨日、異世界に来たんだった。
昨日、夢であって欲しいと願って眠りについたのだが、どうやらそれは叶わなかったようだ。はぁ。ため息が出る。
ソファで横になっていたムウは私が起きたのに気がついた。
「ミリ。おきた?」
「ムウ……おはよう」
「昨日はつかれたでしょ。顔を洗って、そこにある服を着るといいよ。昨日リルアが用意してくれたんだ」
服……?そうだ!
昨日、この街に来る時に自分でも思っていた。ここに来るまでの間、すれ違う人達を見ていると明らかに私の服装はこの世界では浮いていたのだ。
お気に入りの服なのに……。
すれ違う人の多くは不思議な顔をしながら私の方を見てくる。それがすごく、恥ずかしくてたまらなかった。
そんな私を見て、ムウがリルアさんにお願いしてくれたのだろうか?
沈んだ気持ちを少しでも盛り上げる為、早速リルアさんが用意してくれた服に腕を通す。
素材は前の服よりガサつくがデザインはまぁまぁだろう。
よし。これで浮くことはないはず!!
新しい服を見にまとった私にムウからはお褒めの言葉を頂いた。
「さて、準備ができたら朝食でも食べておいでよ」
「うん」
わたしはムウに言われて、食堂に向かった。
食堂に近づくに連れてご飯のいい匂いが漂ってくる。
昨日も食堂に行ったが、ご飯のボリュームが満点でこちらの世界のご飯もすごくおいしかった。
でも、異世界に連れてこられて落ち込んでいたからあまりご飯が喉を通らないんだけどね。
ムウは特にご飯を食べなくても問題ないらしく、昨日と同じように私だけご飯を頂く。
そして、朝食を済ませてお腹が満たされた私は部屋に戻ると、ソファで横になりながらくつろいでいた。
ご飯を食べた後に横になるのって最高だよね!
「ミリ。落ち着いたところで、そろそろ話を始めたいんだけどいい??」
私が食後の居眠りに入ろうとしていると、ムウは改まってそう言った。
「うん……」
私は横になっていた体を起こすと、ソファに座り直す。それを確認してからムウは静かに話はじめた。
ムウが話した内容、まずはこの世界のことだ。
この世界のには3つの大きな大陸があり、その周りに小さな島がいくつもあるそうだ。
地球の様に大陸にはそれぞれ人間が治めている国が存在し、その中でも私達がいる大陸の隣の大陸にあるナヤゴルナ王国はこの世界で一番の大国らしい。
色んな食べ物や装飾品など、各国から集まってくるそうで、行く機会があれば一度行ってみたい。
そして、昨日教えてもらったが人間の他に私の世界にはいない生物が存在するということ。
「おさらいだけど、今話したのがこの世界の大体の全貌かな?そして、ここからが本題だよ」
ムウが私を探していた理由。
それは、神様のペットを捕獲することだった。
ムウが仕えている神様には数百匹のペットがいた。
ペットもとい魔物だそうだが。
そして、そのペット達が神様が留守の間に地上へ逃げ出してしまったそうだ。逃げ出したペット達のせいで、この地上にも悪影響が及んでいるそうで、だから捕まえて欲しいと言われた。
「ちょっとまって!そのペット達を私が捕まえるの!?」
「そう。ペットを捕獲できるのはリングに認められたものだけなんだ。だから僕でも捕まえることができないんだよ」
「えっ……私いきなりそんなこと言われても無理だよ!昨日あった魔物だってすごく怖かったんだから」
「大丈夫安心して。僕はミリをサポートする様に神様に言われたんだよ!だからミリは僕が守るよ!昨日も魔物から守ったろ?」
魔物を捕まえるなんて私に出来るのだろうか?
悩んでいる私にムウはとんでもない事を言い出した。
「今はまだ元の世界には帰ることは出来ないけど、神様がペットを全て捕まえてくれたら、元の世界に帰れるようにしてくれるって!それにお礼に何かご褒美もくれるって言ってたよ!」
「ご褒美って?そんなのいらないよ」
「僕は知らないけどミリが絶対喜ぶものだって言ってたよ。だからがんばってみよ?」
いやいや……ご褒美って私子供じゃないし……
私が嫌がるのをよそにムウはどんどん話を先に進めていく。
「まずはペットを捕獲する道具だな」
そう言ってムウは呪文を唱えると、小さな魔法陣が現れる。そしてその中央に、古びたほんが浮かび上がってきた。
「これは何?」
「これがペットを捕まえるときの道具だよ」
「これが?」
私は古びた本を手に取ると、ページをペラペラとめくってみるが中は全て白紙になっていた。
「こんな本でペット捕まえられるの?」
「そう、ここに捕獲したペットを封印していくんだ。そうすると白紙にそのペットの絵が浮かび上がる。そしていまミリがつけているこのブレスレット。このブレスレットは願うと武器を具現化してくれるんだ」
「武器って、私が戦うの?ムウが戦ってくれるんじゃないの?」
「僕はあくまでサポートだよ?それに捕獲するにはミリがその武器で戦わなくちゃいけないんだ」
ペットを捕獲するには特別な武器じゃないと捕まえれないそうで、普通の武器だとそのまま倒してしまうそうだ。だからといっても……
「やっぱり無理。私戦うの怖いっ!」
「大丈夫、僕が君を守る」
ムウが優しい眼差しで私を見つめながらそう言った。
「まずは弱そうなモンスターから捕獲していこう。捕獲の仕方もその時に教えるよ!」
「ん……?あっ!街の近くにちょうどいいモンスターがいるみたいだよ!一度試しに行ってみよう!実際に捕獲してみると案外大したことないかも知れないよ?」
ムウはある程度の距離ならモンスターを感知できるそうだ。
でも、ちょっといきなりすぎない??
私はムウになだめられながら、言われるがままに街の外へ連れ出された。
街を出てしばらく進むと草原が広がっており、大きな木が所々にそびえ立つのが見える。
「うーんとね……あっ!こっちだ」
そう言われてまたムウの後ろをついて歩く。
「ほら、あそこの木の影にスライムがいるよ!」
「えっ?スライム!?」
あのよくゲームに登場するやつ!?
私は目を細めて少し遠くの木の影をじっと見る。
青くてポヨンポヨンしている物体がモゾモゾと動いているのが分かった。
「じゃあ、ミリ。そのブレスレットに武器がほしいと念じて見て?」
「えっ?ブレスレットに?」
「そう」
そう言われて私はブレスレットに武器がほしいと念じて見た。すると、ブレスレットの宝石が仄かに光る。
「宝石に手を添えてごらん」
ムウの言われた通りに手を添える。
すると、宝石じゃない何か別のものが手に当たる感触がした。
それを掴み引き抜いてみる。
「うわっ!」
私の手には細く煌びやかな剣を手にしていた。
剣の刃には何か文字が刻み込まれており、想像よりもとても軽い。そしてすごく手に馴染む。
「それがミリの武器だ。心配はいらない。剣が戦ってくれるよ」
「じゃあ僕がスライムを誘き出すからミリはその剣でスライムと戦って?」
そう言ってムウは行ってしまった。
えっ?まってまだ心の準備が……
そう思っていたら、しばらくしてムウがスライム引き連れて走ってきた。
ちょっと?なんかあのスライム怒っていないか?
表情はわからないけど……
「ミリ!いまだよ!!」
そう言ってムウは私の近くまできたら急に曲がり、スライムだけが私めがけて突進してきた。
「ちょっ!??いや〜!?無理〜!?」
スライムとの距離が縮まる。
私は怖くなって目を瞑った。が……
『ザシュッ!』
なんか切り味がいい音がした。
あれ?私の手が今勝手に動いた気が?
そーっと目を開けるとそこには真っ二つのスライムが。
わっ!きもい……というか……
「私が倒したの?」
「そうだよ。正確にはその剣がかな?」
「見た感じ普通の剣だけど??」
自分が持っている剣を改めて見てみるが、特に勝手に動きそうもない。
「この剣は主人を守って戦ってくれるんだ。といっても最強ってわけではないから、ある程度強いモンスターだとダメみたいだけどね」
「だから、弱いモンスターと戦いながミリ自身も強くならなくちゃダメなんだ」
「もー。剣が守ってくれるんだったらそう言ってよ。ほんと、もうダメかと思ったんだからね」
「さっき剣が戦ってくれるっていったじゃん?それにスライムくらいだったら攻撃受けてもすぐには死なないよ?」
いや、死なないからって……
「さあ、モンスターが粒子になって消える前に封印するよ?」
「さっきの本を開いて?」
そう言われてさっきもらった古本を開いた。
「そしてブレスレットに手を添えて唱えるんだ」
【シール(封印)!!】と
私は手をリングに添えて同じように唱えた。
「シールッッッ!!」
そうすると、ブレスレットから出た光がスライムを包み本の中に吸い込まれていく。
吸い込まれた本を確認すると、先程まで白紙だったページにスライムの絵が描かれていた。
「これにて捕獲完了!!初めてにしては上出来だったよ?」
「ふぁ〜……」
私は緊張が解けたのか一気に力が抜けて座り込んでしまった。
スライムを捕獲して、一度宿屋まで戻った。
もうすごく疲れた。私は部屋に入るや否やソファに倒れ込んでしまった。
「ミリお疲れ様。捕獲の仕方はこれでわかったかな?」
「うん……ブレスレットの武器でモンスターを倒し、本で封印する」
もっと細かく話すとモンスターは地上に逃げてから大分時間が経っており同じ種類のペットが繁殖してるそうだ。
だからいま捕獲したスライムも1匹だけではなく、この先何度も出くわすことになるだろうと。
だけど、一匹捕獲できれば、あとは捕獲することはない。やっつけてしまっても大丈夫だとムウは言う。
全てのペットを捕獲したら、神様が本に捕まえたペットに封印を施してくれる為、繁殖したペットは元の1匹に戻り、この世界からペットはいなくなると教えてくれた。
「でも、ペットが逃げ出すって神様はちゃんと管理してなかったの?」
「ん〜なんか柵の鍵が壊れてたの気づかなかったんだって!」
なんて、適当な神様だ……
スライム一匹でこの体力の浪費。
私本当にこれからやっていけるのかしら?
「大丈夫!ミリならできる!!」
そう言ってムウが笑って私を励ましてくれた。