2.異世界に転移して
魔法陣が光り眩しさに目が眩む。
光が落ち着き目をそっと開けると、辺り一面を生い茂る木々の中に立っていた。
「ここは……?」
「ここは僕が住んでいる世界だよ」
「ムウの住んでいる世界?もしかして私……違う世界に来ちゃったの!?」
ムウのいる世界。私がいた世界とは違う世界。
辺りを見回してみた感じ、私が住んでいる世界とあんまり変わらない気がするのだが?いや、今はそんな事を考えている場合ではない。
「というか、私、急に別の世界に連れてこられても困るよ!リングをはめただけで異世界にワープするなんて。自分の世界に帰らせてよ」
私はムウに攻め寄ったが、彼は下を向いて申し訳なさそうにしている。
「ごめん。一度転移したらしばらくできないんだ」
「えっ……そんな?私は私で生活があるんだよ?仕事だってあるし、急にいなくなったら親だって心配する……」
私一体どうすればいいの……
自分の世界に帰りたいよ……
今にも泣きだしそうな私を見てムウは優しく言った。
「急に連れてきてしまってごめん。でも、ミリの協力がないとこの世界は崩壊してしまうんだ。だから……お願いだよ。僕に協力して欲しい」
「世界が崩壊?私の協力が必要?そんなこと言われたって私にはそんな力なんてない」
「大丈夫。ミリは自分の力に気づいてないだけ。見て?リングだってこうやってミリを受け入れた。だから自身をもって?」
「グスッ」
ムウの説得に私は涙を流しながら渋々頷いた。
「まずは落ち着ける場所まで行こう」
そう言うと、ムウは歩き出した。
此処、森の中に転移したのは人目につかない場所をと選んだのだそうだ。
「近くに町があるから。こっちだよ。ついてきて?」
私は半ベソをかきながら仕方なく、ムウの後ろを付いていく事にする。
「ミリにはこの世界のことを話さなきゃいけないね」
ムウは歩きながらこの世界のことを簡単に教えてくれた。
私と同じ人間がいること。魔物や精霊など。
元の世界では出会ったことのない生物がいること。
そして魔法が存在すること。
魔法なんて、まるでゲームの世界だ。ようやく涙も引いてきた。
「ねえ、魔法って私にも使えるかな?」
「適正があれば自然と使えるようになるんだけど。適性があるかどうかは街に魔術師がいるから一度見てもらうといいよ」
そういって話しをしながら歩いていた時だった。
「ちょっと止まって!」
ムウは急に立ち止まった。
「何っ??」
急に言われてムウを思わず踏んでしまいそうになる。
「動かずにじっとしてて」
「えっ?」
ムウはそう言うと、少し離れた木のあたりをじっと見た。
私も彼が見ている方に目を凝らして見ると、そこには目付きの鋭い虎のような生物がこちらの様子を伺って見ていた。
「ひっ!?何あれっ!?」
私は恐怖でその場を立ちすくむ。
虎のような生物……名前はタイガーヘッドと言うらしい。
その生物は私たちが気づくと同時に襲ってきた。
殺される!?
目の前から勢いよく襲ってくるタイガーヘッドに私は歯を食いしばり目をギュッと瞑った。しかし、もうだめだと思った次の瞬間。
「ギャウッ!」
と悲鳴が聞こえてると辺りは静かになった。
私は恐る恐る目を開くと、先程のタイガーヘッドが光の粒子となって消えていくのが見えた。
一体何が起こったのか?私の頭はパニックだ。
「もう大丈夫だよ?」
声のする方を見ると、今度はキラキラと毛並みが輝くドラゴンみたいな生物が佇ずんでいる。
「ミリは僕が守るから安心して?」
その声はムウなの??
「あなたはムウなの?さっきの虎みたいな生物もあなたが倒してくれたの?」
さっきと容姿が違う。なんかすごく綺麗……
私が彼の姿に見惚れていると、照れながらムウは言う。
「これが本来の僕の姿。僕はドラゴンなんだ」
その言葉を話終わると、ムウの体は光りを放ち、先程の元の可愛い子犬の姿へと戻っていった。
私は恐怖でやっと収まった涙がまた出て泣き出してしまい、そのまましばらく動くことができなかった。でもムウは私が落ち着くまで待ってくれたんだ。
「さっきの虎みたいなやつ……あれがもしかして魔物?」
「そうだよ。近くにいるのは分かってたけど、襲ってくるとはね」
「ムウは一体何者なの?」
「僕は神様の使いなんだ」
「神様!?」
「うん。リングに認めてもらえる人を探してたのは知ってるよね?実は神様の名を受けてリングの適合者を探してたんだよ。だから、やっとミリを見つけた時はすごく嬉しかった」
「でも、なんで犬の姿になっているの?」
「移動するにはこの姿が楽なんだ。人間は魔物を危険な生き物として警戒しているからドラゴンの姿だと不都合なんだ。でも、また魔物がでてもミリを守るから安心して?」
「うん……ありがとう」
目を瞑っていたから、戦った姿を見たわけじゃないけど。
一瞬でさっきの魔物を倒したのだからかなり強いのだろう。
落ち着きを取り戻した私は、またムウに導かれるままに歩き出した。
◇
街は森を抜けて少し行った所にあるらしい。
私はムウと話をしながら歩いていたらあっという間に森を抜けた。
魔物もさっきのタイガーヘッドとかいうやつ以外は出会わなかったし。
「ミリ!もうすぐ街道がある。そこに出たら僕は犬の振りをするけど気にせずついてきてね」
「えっ?なんで?」
「人間は魔物を警戒しているとさっき話したよね。僕が会話をしてるのを誰かに見られると魔物と勘違いされるからね。今まで通り僕の後を付いて来てくれればいいよ」
「わかった」
更にしばらく歩くと、先程ムウが話していた街道が見えてきた。商人や冒険者のような人間達が歩いているのが見える。
ムウに目をやると、尻尾をフリフリしながら歩いてる。
言葉を話さないとただの可愛い犬だな。
街道を進むと数十分。遂に街の前までたどり着いたのだ。
「うわ〜!ここが町なの!?」
この世界に来て、初めて来た街。
ミレナタウンという名の街で、建物はレンガ調に統一されており、どこか外国を漂わせるものがあった。
「ワン!」
わたしが辺りをキョロキョロ観察している、とムウに声を掛けられる。
こっちだよ!と言っているみたいだ。
ムウの後を追い私は街の中を進んだ。
「ワン!」
ムウがまた吠えた。立ち止まったのは一軒の宿屋の前。
ここに入れってこと?
恐る恐る中に入ると元気の良さそうな女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ!宿泊ですか?」
「えっと……」
何を話そうかと悩んでいたら、ムウがカウンターに飛び乗り「わんっ!」と可愛く吠えた。
女性はムウを見つめてしばらくすると「こちらへどうぞ」
と部屋に案内してくれた。
部屋はシンプルな作りになっており、ベッドのほかにソファーとテーブルがあった。
部屋の中も外観と同じように壁がレンガ調になっている。
宿屋ってお風呂がないイメージだと思っていたが、どうやらバス、トイレ付きのようだ。
部屋に入り、近くに誰の気配を感じないことを確認しすると、ムウと女性が話し始めた。
「リルア久しぶり」
「ムウ様。ご無沙汰しております。お話は伺っております」
「ムウ様がいらっしゃったということはこの方が……」
「そうだ。とりあえずこの子に住むところをと思ってな」
「そうでしたか、ではこちらの部屋をお使いください」
「うん。悪いな」
「えっとこの方のお名前は……」
「あっ!ミリと言います」
「ミリ様ですね。私はこの宿を経営している、リルアと申します。なにかあったら遠慮なくいってくださいね?」
「ありがとうございます」
そういって私たちに挨拶をするとリルアは部屋から出て行った。
「ねえムウ?」
「なに?」
「リルアさんはムウの知り合いなの?」
「そう。リルアも僕と同じ神の使いなんだ」
やっぱり。
ムウの話では、この世界には神様の配下がその土地にあった姿に変えてこの世界を監視して、逐一報告をしているそうだ。
ここは人間が暮らす街だから、リルアは宿の主人となって人間の監視をしているのだそうだ。
この世界の秩序を守るために。
「でも、神様って自分で地上に住むものをみることができるんじゃないの?」
「ああ、でも遠くから見てるより、近くで触れ合った方がわかることが多い。だからあえて配下を地上に送り込み、情報を得ているのだ」
へーと感心していたら、
「まあ、神様はめんどくさがり屋だから配下に情報を集めさせているっていうのが本音だけどね」
めんどくさいから……さっき感心したのは取り消しておこう。
「とりあえず、今日は疲れたと思うからゆっくり休もうか!明日これからのことについて話すから!」
「うん」
ほんと、この1日で色々なことが起こりすぎて
ヘトヘトだよ……