真実の瞳
「叔父上、カスミの方が婚約者としては先輩なのです。諦めてください」
ナイスだライトニング!! 婚約者に先輩後輩とかないとは思うけどね……。
「むう……実に残念だな。せっかくワームを使った工事が出来ると思ったんだが……」
さすがに溺愛しているライトニングからはっきりと言われると反論できないようで、ガックリとうなだれるグラッドさん。
「それなら、テイマーの募集をかければいいじゃないですか! 好条件ならポルトハーフェンから引き抜けるかもしれませんよ?」
ポルトハーフェンにはテイマーの職が多く、何人か見かけたことがある。条件次第では働いてくれるかもしれない。どうせ貫通すればポルトハーフェンに戻れるんだし。
「うーん、だが大型の魔物をテイムできるような有能な人材は、大抵冒険者ギルドに所属しているからな……駄目元で募集してみるしかないか。商会を通じて集めてみるのも良いかもしれんな……」
ワームの有用性を目の当たりにしたグラッドさんは、本気でワーム工法を模索するつもりのようだ。
なるほど、この辺りは山脈に囲まれた土地。ワームによって他の町への交易路が開けるのは確かに魅力的だよな。クラーケンの時みたいに、船が止まっただけで危機に陥るようでは、領主としても不安だろうしね。もっと言えば、将来、王都へ通じるトンネルなんていうものまで出来るかもしれない。
「ご心配なく、テイマーならここにいらっしゃいますよ」
高らかにそう宣言するアズライト。みんなの視線が集まる。
「アズライト、ここにアスカ以外にテイマーがいるのか?」
少なくともみんな首を横に振っているけれども。
「はい、旦那さま。正確にはテイマーの才能を持った人間と申し上げた方がよろしいのですが……」
「テイマーの才能? どういう意味だ?」
「御館さま、昨日殿下の力の話をしたかと思いますが、これこそがその力の一つなのです。スキルとしては表に出ていない才能を見極め、それを引き出すことが出来る……それが『真実の瞳』なのです」
ヴィオラの説明に唖然とする一同。それはそうだろう。眠っている才能を見出すだけでも凄まじいのに、それを引き出すことが出来るとは信じられない。なるほど、王が隠そうとしたわけだ。有能な人材を集めることが出来るのだからね。
「そんな大げさなものではありません。それに引き出すことが出来るのは、未成年に限るのです」
アズライトの言葉に、全員の視線がトーラに集まる。この場に未成年は彼しかいない。
「へ? ボクがテイマー? ほ、本当ですか?」
急に注目されて慌てるトーラ。
「本当ですよ。トーラ、私の瞳をみなさい……」
「は、はい……」
アズライトの瞳が虹色に輝き、それを見たトーラの瞳も一瞬だけ輝きを放つ。
「あ……あれ? なんだか変な感じ……うわっ!? これがスキル……?」
どうやらスキルに覚醒したようだ。これはすごいよアズライト。
「ち、ちょっと待ってくれ、話が全く見えないんだけど、殿下ってどういう意味だ?」
唖然としていたグラッドさんが我に返る。ああ、食いつくのそっち? まあ気になるよね。
「叔父上、アズライトは、スタック王国第三王女殿下です。クラーケンに襲われた沈没船から先日イソネが救助しました」
「なんだって!? おいおい、それは早く言ってくれよ……沈没船うんぬんは、この際ツッコまないことにするが……」
呆れたように大きく息を吐くと、アズライトに向かって片膝をつき首を垂れる。
「知らぬこととはいえ、大変失礼いたしました。アズライト王女殿下」
「良いのです。スタック王国はすでに滅び、私は亡命の身。今は旦那さまの貞淑な妻でしかありません」
ちょっと待てアズライト、何も間違っていないけど、グラッドさんをあまり刺激しないで欲しいなあ……なんて。ほら、肩がぷるぷる震えているから!!
「……イソネ殿、決して怒らないから言ってくれ。もしかして、ここにいる女性は全員?」
くっ、さすがに気付いたか。さすがはグラッドさん。ただ者じゃないね。今更嘘も付けない。ここは正直に話すしかない。
「はい、全員俺の婚約者です」
ヤバい……グラッドさん俯いてぶるぶる震えているんですけど……斬られないよね?
「くぅ、くくく、くはははははっ!!」
え? 笑い出して……? 壊れた?
「はあ、はあ……いやあ、もう笑うしかないな。イソネ殿、さすがはライトニングが惚れた英雄。その器に、このグラッド、感服したよ。大丈夫、このことは誰にも話したりはしない。トーラも良いな?」
「ふえっ!? は、はい、もちろんです! イソネさま、アズライトさまは恩人です」
今後はトーラがワームを使役して工事を進めて行くことになり、無事一件落着。
さすがにカスミのように複数同時に使役するのは難しいようだけど、それでも工事のスピードは段違いに早くなるだろう。
さて、思ったより早く片付いたし、俺たちも町へ行こうかな。
「いやあ、助かったよイソネ殿、今夜も楽しみにしていてくれ」
「……今夜も?」
マズい!? ティターニアさんの鋭さは異常。ばれたらお終いだ。
「さ、さあ、みんなで町へ行こうよ。買い物楽しみだな~!」
くっ、なんだこのへなちょこな演技は。悪の組織に潜入した時の演技派どこ行った?
「待て、イソネ。ちょっと話がある」
「ひ、ひぃ……」
ティターニアさんにトイレの裏に連れ込まれる。
「なあイソネ、洗体メイドは最高だっただろ?」
にやにやしながら見つめてくるギルドマスター。くっ、バレテ―ラ。
「は、はい、おかげで昨日は熟睡できましたよ」
「だろうなあ、安心しろ、全員気付いているぞ」
「え? そ、そうなんですか!?」
「ククク、そりゃあ、寝ているイソネをみんなで身体検査したからな」
「ふえっ!? 身体検査って、一体何を……?」
「ふふっ、それはもう口には出せないようなことだな」
そういって楽しそうに笑うティターニアさん。怖い……怖くてこれ以上は聞けないよ。
「まあ、今夜は私たちが洗体してやるからな。しっかり食べて準備しておくんだな」
ばんばん背中を叩きながら去ってゆくティターニアさん。
実際、ライオネルさんのお屋敷では毎晩洗ってもらっていたから、だいぶ慣れたつもりだけど、まさか、アズライトたちまで参加するつもりじゃないだろうな……?
いやいや、さすがにそれはない。王女さまに洗ってもらうとか有り得ない。あれ? クルミは王女さまだから有り得るのか? 待て、今でさえ大変なのに、これ以上増えたら……!?
とりあえず、しっかり体力の付くものを食べようと決意するイソネであった。




