旦那さまと御館さま
「アズライトさま、ヴィオラさん、もし自由に行動したくなったら、いつでも言ってくださいね。無理に俺たちに縛られることはないんですから。もちろん、出来る限りの援助はさせていただきます」
「何をおっしゃいますか!! 私の意志は固いのです。もう旦那さま以外考えられません!!」
「殿下のおっしゃる通りです。私も生涯お側でお仕えしとうございます」
即答か……いや嬉しいんだけどね。まあ、今はこれでいいか。
彼女たちには拠り所が必要だ。今は興奮状態だから余計なことは考えられなくても、今後落ち着けば、嫌でも悲しい現実と向き合わなければならないのだから。
俺だって、リズがいてくれたから何とか前を向いてここまでこれたんだ。今は家族も沢山増えた。少しでもアズライトさまたちの支えになれたらいいなと思うよ。
「それよりも旦那さま!」
「な、何でしょう、アズライトさま?」
「私のことは、アズライト、もしくはアズとお呼びください」
「うえっ!? わ、わかりました。あ、アズライト?」
「……敬語」
「……わかった、アズライト」
「はい、旦那さま!!」
くっ、可愛い……小さなガッツポーズみたいのが可愛い。
「御館さま、それでは私のことはヴィオラ、もしくは影とお呼びください」
いやいやいや、御館さまって何!? それに貴女は影の要素ゼロだよね? むしろウルナさんの方が影っぽいよ?
「ヴィオラ、さすがに御館さまはちょっと……」
「かしこまりました、では殿とお呼びいたします」
「…………いや、やっぱり御館さまでいいや」
殿よりは数段マシな気がする。っていうか、なんでこの世界に殿がいるんだよ?
「おとぎ話に憧れておりました」
うわおっ!? え? ヴィオラって心が読めるの? というか……やはりおとぎ話か。俄然興味が湧いてきたんだけど、その時代劇っぽいおとぎ話。作者絶対に転生者か異世界人に違いない。
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「さてと、この部屋の積み荷だけど、本当にもらってしまって良いの?」
本来なら、アズライトはスタック王国の生き残りなんだから、所有権を主張したって構わない、というかそうする権利があると思う。
「良いのです。船が沈んだ時点で、本来なら回収出来なかったものですし、それに、あの売国奴どもの手に渡るよりははるかに嬉しいのです」
聞けば、アズライトたちは、国を売った連中に囚われて、財宝と一緒に闇の競売にかけられるところだったらしい。酷い話だ。
そういう意味では、クラーケンに襲われたことで、結果的に出逢えたわけで、これもある種の運命ってことなのかな。
「それに……どうせ旦那さまと一緒になるのですから、同じことではありませんか」
そう言って頬を染めるアズライト。
あ、アズライト、今はそれぐらいにしておこうか。ほら、なんかライトニングがにらんでるし。
「それよりアズライト殿、魔剣は? 魔剣はあるのだろうな?」
もう待ち切れないとばかりに、ライトニングが話に割り込んで来る。すごい気迫だ。アズライトが怯えているよ?
「ま、魔剣……ですか? うーん、私は攫われてきたので、積荷の中身は知らないのです。宝物庫にはそういった武具の類いもあったはずですが……」
「私も武具に関しては全く興味がございませんので……でも、もしかしたら魔道具などはあるかもしれませんね」
アズライトもヴィオラも、積荷の中身は知らないようだ。
「中身の確認は後だ。とにかくみんなを呼んで、全て運び出してしまおう」
言い方は悪いけれど、財宝だけではなく、食器や装飾品など金目の物は根こそぎ持ってゆくことになっている。王族専用船だけあって、使えるものはたくさんあるんだよね……。
お宝の確認は船上でも出来る。捕らえた海賊たちの引き渡しもしなければならないし、出来れば今日中に最初の寄港地に到着しておきたい。
ライトニングは少し不満そうだったけど、お楽しみはとっておいたほうがいいよ。
彼女をなだめながら、せっせと宝箱を運び出すイソネであった。
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「ふーん……それでまた増えたんだ、婚約者」
くっ、お宝で誤魔化せるかと思ったけど、やっぱり無理だった……。
「ごめん、リズ。でも、ほっとけなくて……」
「ふふっ、わかってるわよイソネ、そんな貴方だから愛してるのよ。それにね、また増えるかもしれないって思ってたから」
そういって笑うリズ。あれ? 怒ってないのかな。
「え? それってどういう……?」
「ふふふ、気にすると思って言わなかったけれど、この間からイソネに『ハーレム帝の友』とかいう変な加護がついてるわよ! このぶんだとまた増えるかもね?」
やっぱり、付いてたあああああ!!! 変なの付いてたあああああ!!!
くっ、これは困る。俺はカケルくんじゃないんだ。今だってどうしようか悩んでいるのに、これ以上増えたら大変なことになるよ……今度会ったら、何とかしてもらわないとね。まったくなんてこったい。
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さあ、お宝はすべてタイタキック号へと積み終えたし、いよいよ出航だ!
問題は十隻もの海賊船をどうするかだったけど、リズとアスカさんは、売ってお金にする気満々だった。特に海賊団のボスの船は高く売れそうだと二人の笑顔がじつに眩しかったよ。
仕方ないので、海賊たちとスキルで奴隷契約して、寄港地まで付いてきてもらうことに。海賊団を引き連れる絵面は実にシュールだけどね。
あと数時間ほどで日が落ちて暗くなってしまうこのタイミングなら、ここで一泊して、明るくなってから出航するのがセオリーなんだけど、海流操作を使えばぎりぎり間に合う時間でもある。
『ばいばーい!!』
大勢のフナ虫たちに見送られながら、フナテン群島を後にする。最初はおぞましかった彼らも、今では可愛くてしょうがない。まさか別れがこんなに淋しくなるとは思いもしなかったよ……。
何匹か連れて行こうとしたら、女性陣に猛烈に反対されたけどね、何故だ!?
ちなみに海賊たちは嫌というほどフナ虫たちに角質を食べられていたので、皆、お肌ツルツルすっかり綺麗になっている。これなら高く売れるとリズやアスカさんも喜んでいたよ。彼らにとっては確実にトラウマになったことだろうけどね。
さっきリズとアスカが、船とセットで売った方がいいか相談していたから、運が良ければ、船乗りのままでいられるかもしれないよ。




