死神との邂逅
「うわあ!? か、カケルくん?」
「悪いけど、邪神が動き出した……なんで全裸?」
「あ、ああ、みんなから着せ替え人形扱いされてここに隠れていたんですよ……」
半分以上はカケルくんのせいなんだけど……文句を言うのはさすがに筋違いだろうから、迂闊なことは言えない……。
「……状況は理解した。ちょうど良い、これを着てくれ」
これを着てくれと差し出されても、俺には何も見えないんですけど……?
「? 何も見えないんですけど?」
すると、カケルくんは、我が意を得たりとばかりに自慢げに微笑む。
「じゃじゃん、『透明マント〜!!』これを着ていれば、視覚的にはもちろん、匂いや魔力、音までも、周囲から完全に消えるのだよ!」
透明……マント……だって!? もし聞き違いでなければ、これは事件ですよ? ヌーベル賞なんて目じゃないぐらいの大発明じゃないですか!!
「す、すげぇ……カケルくん……これは男の夢そのものですよ!!」
さすがはカケルくん。このマントの有用性は無限大……。伊達に英雄と呼ばれてはいないということか。しかも、あんなに綺麗なお嫁さんたちがいるのに、まだ足りずにロマンを追及する天元突破の情熱!! カッコイイ……これは……惚れる。男としても、惚れてしまうよ。
「ふふふ、見事成功の暁には、そのマントはイソネ君にプレゼントしようではないか!!」
な、なんだって……!? 今、このマントをくれるといったのかいカケルくん? 決めた……この人に一生ついていこう。永遠の兄貴と呼ばせてもらいます……同じ年だけど。
「うおおおおおおお!!! やる気マックス!! カケルくん、俺死んでも成功させますから!!!」
ふふっ、これは死ねない。絶対にミッションを成功させて、透明マントをゲットするのだ。い、いや、もちろん変なことには使わないよ? あくまでも、世界と俺の精神衛生の平和と安定のために使わせてもらうからね?
「よし、頼んだぞ、状況は最悪だ。邪神が自暴自棄になって世界ごと消し去ろうとしている」
……ちょっと待って……いま、聞き捨てならないことを言わなかったかい?
「邪神が自暴自棄……!? いったい何が?」
「……黒歴史に耐えられなかったんだろう」
く、黒歴史……この世界に来てまで聞きたくなかったワードだよ、カケルくん。たった一言で精神を破壊できる闇属性の最強呪文ですよね……う、うわああああああ!!!? 鎮まれ、俺の黒歴史よ、貴様は封印したはず……再び深淵に沈んで二度と出てくるんじゃない。はあはあ……。
「……それは仕方ないですね」
俺のただならぬ様子に察してくれたのだろう。カケルくんの目がいつになく優しい。いや……優しいのは俺がいまだに全裸だからかもしれないね……。
急いで透明マントを羽織る。裸にマント……うん……変態だね。
「だからこそ、俺たちが止めてやらないと。自分の黒歴史のせいで自爆するなんて、あまりにも悲しすぎるだろ? まさに誰も得をしない負の連鎖だ」
たしかにカケルくんの言う通りだ。黒歴史よって自暴自棄になるなんて哀れすぎる……そして、それに巻き込まれる俺たちはもっと悲しすぎるよね。勘弁してほしい。
何としても、阻止しないと。そして、俺にはその力があるのだから。
「そう……ですね、俺、このチェンジスキル、最初は使えない外れスキルだと思っていたんですよ……でも、そうじゃなかった。ちゃんと意味があったんですね」
俺の言葉に力強く頷くカケルくん。
大丈夫だ。この世界には本物の英雄がいる。俺は自分に出来ることを精一杯やるだけだ。もう迷いはない。
でも、それはそれで、さっきからずっと気になっていることがある。
「そ、それより、なんだか空が暗いような……!? 空気も淀んでいる?」
「ああ、邪神のいる世界から漏れ出る邪気の影響だな。世界同時多発でスタンピードが発生しているんだ」
「うえっ!? それってヤバいんじゃ!?」
「大丈夫だ。俺の嫁さんたちと召喚獣たちが時間を稼いでくれている。俺たちが邪神を止めれば全ては終わるんだ。行くぞ!!」
まさかそんなことになっていたなんて……キタカゼさんたちが戻ってこなかったのは、そのせいだったのか……。
「は、はい!!」
みんなに事情を説明している暇はなさそうだ。きっと……いや、絶対に戻って来るから! この世界は俺たちが守ってみせるから!!
カケルくんに触れると、周りの風景が一瞬で切り替わり、そこは例の異空間部屋だった。
『カケル、邪神への転送が始まる……』
周囲の空気が変わる。
え……か、身体が動かない? め、目が釘付けになってしまう。音もなく現れたその存在は、何と形容すればいいのか……美の化身? 死の象徴? いや、そんな陳腐な言葉ではとても表現できない。
確実に言えるのは、おそらく人智をこえた存在だということだけ。
キタカゼさんやクロエさんは、神がかった存在だったけど、まだこの世の範疇にぎりぎり収まっていた。でも、この人……果たして人なのか? 女神さまと言われれば納得するけれど……。
「イソネ君、この人が死神のミコトさん。俺がこの世界に来ることになったきっかけでもあり、最愛の伴侶でもある」
心底自慢げに紹介してくれるカケルくん。
し、死神……!? 伴侶!? ああ……なんか納得したよ。もうね、色々規格外すぎてツッコむ気も起きないけどさ……。
『イソネ……よろしく』
輝く銀髪に燃えるような紅い瞳。いまだに身動き一つ出来ないけれど、ほんのかすかに微笑んでくれたような気がして、心臓が跳ね上がってしまう。
「は、はひ……い、いえ、は、はい……、よ、よろしくお願いします!!」
『ふふっ、面白い子』
英雄カケルと突如現れた死神のミコト。そして切り札であるチェンジスキルを持つイソネ。
邪神との対決に向けて、いよいよ役者が揃い始めるのであった。




