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05 用心棒のカスパー


「おいおい、お前ら何処に行くつもりだ?」


 

 荷物を馬車に積み終えた時、倉庫に男の声が響く。


 現れたのは血塗れの大剣を肩に担いだ大柄な戦士風の男。20代後半ぐらいだろうか、下品な笑みからろくな奴じゃないことが窺い知れる。


「まったく……商品輸送中の護衛を頼まれて来てみれば拠点は壊滅、商品は逃げ出した後。唯一の収穫は魔獣の素材ぐらいときたもんだ。フォレストウルフなんざ大した金にもならないけどな。せめて金目の物が残ってないか探しに来たら……お宝発見ってな」


 男はリズの全身を舐め回すように鑑賞すると歓喜に震えて舌なめずりした。



『おい待てよ…………ちょっと待てよ…………フォレストウルフはどうしたんだ?』


 嘘だろ……あの血は……大剣に染み付いたあの匂いは……


 ロビン、みんな……嘘だよな? 


「あ? 何だその魔獣喋るのかよ? 殺したぜ。全部殺した。百を超えたあたりからは数えていないけどな」


 まるで害虫駆除をしたと言わんばかりに顔をしかめる男。



 あ、あ……ごめん……ごめんな。俺がこんな所に連れて来たばっかりに……俺がみんなを殺したんだ。群れのみんなはボスであるこの俺が守らなきゃいけなかったのに……ごめんな、不甲斐ないボスでごめんな。



 せめて……せめて仇だけは取るから……俺の手でコイツを必ず地獄へ送ってやるから。



 だから許してくれなんて言えない。


 でも、お前だけは絶対に許さねええええぇっ!!!



 『身体強化』に『強脚』を使い弾丸のように男に突っ込む。


 この爪で引裂き、この牙で喰いちぎる為に。



「イソネ!? 駄目えええぇっ!!」


 リズが絶叫する。



 ザシュッ!!!


 肉を切り裂く音が響きフォレストウルフの首が飛ぶ。



「ハッ、ちょっと危なかったぜ今のは」


「い、イソネえええぇっ!? いやぁぁ!?」






『……チェンジ』




「知らなかったのか? 首を切られても、生き物は直ぐには死なないんだぜ。ああ……もう聞こえてないか……」


 すでに事切れている用心棒カスパーを一瞥して小さく息を吐く。



「もうっ! 本当に死んだかと思ったじゃない……ばか……バカあああッ〜!!」


 糸が切れたように崩れ落ち泣き出すリズを抱きしめる。そういう俺も泣いているから格好つかないけれど。




***




「悪いなリズ、手伝ってもらって」


「良いのよ……僅かな間でも貴方の家族だったんだから。せめてこれぐらい………」



 カスパーに殺された仲間たちは穴を掘って埋めてあげた。朝までかかったけれど、リズは黙って手伝ってくれたんだ。



「イソネ……あんまり自分を責めないでね」


「……ありがとうリズ。こんな俺に付いてきてくれて」


「ううん。そんなイソネだから付いて行きたいの。フォレストウルフのために泣くことが出来る優しい貴方が……そんな貴方が、私は大好きだよ……」




***




「…………」


「えっと、それで君はなぜここに居るのかな?」


 2人の前には黙って震える銀狼獣人の少女がいる。


 地下牢に捕まっていたうちの一人だが、いつの間にか荷台の中に忍び込んでいたのだ。

 


「困ったわね。行くところが無いの?」


 リズが優しくたずねると、こくこく頷いた。


「じゃあ、とりあえず俺たちと一緒に来るか?」


 目を見開いて大きく頷く獣人の少女。



「分かったわ、私はリズ、彼がイソネよ。あなたの名前は?」


 リズは鑑定で分かっているはずだが、本人の口から聞くことに意味がある。



「…………クルミ」


「良い名前だ。よろしくなクルミ」

「可愛い名前ね、よろしくクルミ」


「…………よろしく」



 こうしてクルミが俺たちに同行することになった。


挿絵(By みてみん) 

クルミ(使用メーカー様:五百式立ち絵メーカー)



 ところで、あらためて見るとクルミはとんでもない美少女だ。リズを見慣れている俺でもそう思うほどに。


 輝くような銀髪に白いモフモフの耳と尻尾。瞳は碧い宝石をビー玉にしたようでとても綺麗だ。


 カスパーの記憶によればとても珍しい毛色のようで、それもあって組織に狙われたのだろう。


 年齢は15歳。もっと年下だと思っていたけど、俺たちの、正確にはリズの1個下だった。


 あまり食べていないせいで痩せ細っているから余計にそう見えるのだろうが、栄養状態が改善されれば年相応になるのかもしれない。



 でも、クルミがこれ以上魅力的になったら、リズと2人で目立つことこの上ない。この先のことを考えると悩ましいところではあるけれど。



 ちなみに、カスパーは、表向きはC級冒険者として活動しているが、実際は組織の用心棒として裏で汚い仕事をたくさんしていた。


 あまりにも酷い記憶ばかりで正直胸糞悪いが、広範囲に渡る土地勘や裏の世界の知識は今後の役に立ちそうではある。



 また冒険者とは、冒険者ギルドに登録しているなんでも屋であり、魔物の討伐から迷い猫探しまで様々な依頼をこなして成功報酬で生計を立てている人間のことだ。


 職業柄身元確認が緩いので、カスパーのように裏組織の人間の隠れ蓑になることもある。


 C級冒険者は経験を積んだいわば中堅であり、通常遭遇する魔物であれば、倒せるだけの力量を持っている。


 ちなみにカスパーは、大剣術と見切りというスキルを持っていた。必殺の一撃がかわされたのは、見切りスキルの力だろうな。



 驚いたのは、チェンジで入れ替わった際に、短剣術、剣術、大剣術が統合されて総合剣術というスキルに変化したことだ。スキル自体にそういう性質があるのか、チェンジスキルによるものなのかは、わからない。


 また、人族に戻った際に、狼語というスキルが増えていたので、今後もおそらくフォレストウルフと会話することは可能だと思う。




*************************************

【 5話終了時点での主人公 】


【名 前】 オルトロス → カスパー 

【種 族】 フォレストウルフ → 人族

【年 齢】 17 → 28

【身 分】 群れのボス → 用心棒

【職 業】 人身売買組織の用心棒


【スキル】 チェンジ 総合剣術 夜目 身体強化 御者 統率 強脚 狼語 見切り



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i566029
(作/秋の桜子さま)
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