04 フォレストウルフのオルトロス
『チェンジ!!』
ここは先手必勝、群れのボスに対して迷わずスキルを発動する。
ボスが攻撃命令を出した後では手遅れになってしまうかもしれない。
(よしっ、成功だ)
人間以外にもスキルが通用するのか不安ではあったが、無事入れ替わることが出来た。
2メートル以上もある巨体と全身に漲る力強いバネ。違和感はすごいけど、間違いなく強くなっている。
今なら余裕で馬車を飛び越えられる確信がある。
それにある意味裸ではあるのだけれど、まるで分厚い毛皮のコートを着ているような感覚でこちらも思ったほどの違和感はない。
一方で俺と入れ替わった群れのボスの動揺は半端ないようだ。
無理もない。ある程度覚悟して入れ替わった俺と違って、突然2本足になったらそれはびっくりするよな。
案の定まともに歩くことも出来ずに手を地面につき、四つん這いになって狼狽している。
『オルトロス、まだ襲わないの?』
声をかけて来たのは妻のロビン。
どうやらフォレストウルフの言葉も分かるようだ。チェンジスキルすごいな。
『お前たち、あの人間の女は襲うなよ。昔助けてもらったことがあるんだ。誇り高きフォレストウルフの名にかけて恩を仇で返すような真似するんじゃねえぞ!!』
『『『わ、わかりました!』』』
大声で怒鳴るとみんなビクビクしながら従ってくれた。
身体強化スキルのおかげで更に強くなったことがプラスに働いているようだ。
動物は本能的に強いものに従う習性があるからな。
「な、何やってんだ? お前ら! さっさとその偽物を殺せ! う、うわあああ!?」
エルダーの身体になったボスが襲ってくる群れに向かって命令するが、通じる訳も無くあっという間に餌食になってしまう。
俺はリズに駆け寄り身体を擦り付ける。
『大丈夫か、リズ?』
「大丈夫よ、イソネ。本当にモフモフね」
早速俺の身体をモフるリズ。
『すげぇ……ボスが人間の言葉を話してるぜ』
『本当に知り合いだったんだな』
幸い群れの仲間にリズに対する反発はないようだ。
『みんな聞いてくれ。彼女はリズ、仲間になる土産にご馳走の場所を教えてくれたぞ!!』
『ご馳走だって!? やったぜ!』
『助かった。腹が減ってヤバかったんだ』
ご馳走と聞いてみんな大喜びだ。
オルトロスの記憶を見る限り、ここ数日ろくな物を食べていないようだったからね。
『なんだか今日の貴方……頼もしいわね』
ロビンがうっとりとした様子で体を擦り寄せてくる。
「むー、なんかモテモテだね!」
頬を膨らませてむくれるリズが可愛い。
『リズ、相手はフォレストウルフだぞ?』
「でも、満更でも無いくせに〜」
さすがはリズ。確かにフォレストウルフになったせいかロビンがやたら美人に見える。
特にキュッと締まった腰周りがセクシーだ。
「でも大丈夫なの? 私、ご馳走なんて知らないわよ」
『大丈夫だ、実はな…………』
俺の説明を聞いてなるほどと納得するリズ。
そして、やってきたのは森の奥。
「イソネ、ここなの?」
リズが俺の背の上から尋ねる。
『ああ、ここが人身売買組織の拠点の1つだ』
敵を一掃出来て、みんなの腹も膨れる。完璧な一石二鳥作戦だ。
ついでに捕まっている人がいるなら、出来れば助けてあげたいけれど……
エルダーの記憶では、この拠点には大して強い奴は居ないはずだ。
『良いか? 俺が最初に突入するから、お前たちは周りを囲んで一人も逃がすなよ』
拠点をぐるっと囲むようにフォレストウルフを配置してから、リズと一緒に突入する。
『リズ、派手に頼むぞ!』
「了解! 任せて。 ウォーターハンマー!!」
リズの水魔法で扉を破壊する。
『良くやった、ウオオオオオオオン!!!』
混乱する構成員たちを片っ端からなぎ倒していく。
「くそっ、何でここに魔獣が!? 遠距離から攻撃しろ!!」
新たに現れた構成員たちが矢をつがえる。
「させないわ、ウォーターアロー!!」
リズによって生み出された10本の水の矢が、意思を持った生き物のように襲いかかる。
『ありがとうリズ、ロビン、後は頼むよ!』
『任せて、美味しそうな獲物がたくさんいるわね』
舌なめずりするロビンに思わず背筋がぞくぞくしてしまう。
とどめを刺すのはロビンたちに任せて、リズと施設の奥へ向かう。
「チッ、表の連中は何やってんだ!?」
奥にいた組織の幹部連中が慌てて武器を手に取るが、防具などの装備もしていないし、何より皆、酒に酔っていて足元もおぼつかない有様だ。
見たところそれなりに強いものもいるが、飛び抜けて強い者はおらず、全員エルダーよりは弱いように感じる。少なくとも今の俺ならば負ける気はしない。
何より普段から飲み食いばかりしているせいか、腹がだらしなく出ているしな。日ごろの鍛錬大事だよ?
『たまには現場に出てダイエットした方が良いんじゃないか?』
「ま、魔獣が喋った!?」
「ウォーターアロー!!」
幹部連中が動揺した隙を逃さず、リズが魔法を放つ。
「ぎゃあああ!?」
「ぐぁっ!?」
リズとのコンビネーションも馴れたもので、程なく制圧を完了した。
地下の牢屋には、囚われていた人たちが20人ほど残っており、魔獣の姿の俺が行くと怖がられてしまうので、リズに説明してもらうことにする。
結局、助けた人たちは馬車で近くの街まで行くそうだ。御者の経験がある女性がいて良かった。
「ねえ、イソネ。ほら〜戦利品だよ」
自慢げに見せてくれたのは、革袋にいっぱい詰め込んだ金貨や宝石、貴重なポーションや高そうな武器や防具の山。
『リズ……これ全部持って行くのか?』
「当たり前でしょ? もう家には戻れないんだし、迷惑料よ、迷惑料」
『でもリズ、お前はまだ帰れるだろう?』
「馬鹿ね……言ったでしょ、貴方がいるところが私の居場所だって。さあ全部馬車に積み込むわよ」
有り難くて嬉しくて魔獣の身体でなければ多分泣いていただろう。
貰えるものは全部いただくという、たくましいリズに苦笑いしながら馬車に戦利品を積み込んでゆく。
『リズ、ところで誰が御者をするんだ?』
俺は御者のスキルを持っているが魔獣の身体だ。
『ふふっ、もちろんイソネが馬車を引くのよ? 頼りにしてるわ』
花が咲いたように笑うリズ。
『…………はい、頑張ります』
うーん、これは尻に敷かれそうだな。良い意味でね。
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【 4話終了時点での主人公 】
【名 前】 エルダー → オルトロス
【種 族】 人族 → フォレストウルフ
【年 齢】 27 → 17
【身 分】 犯罪組織グループリーダー → 群れのボス
【職 業】 リズのモフモフ兼馬車馬
【スキル】 チェンジ 短剣術 夜目 身体強化 御者 剣術 統率 強脚