盗賊団のアジトへ
「イソネ殿、そろそろ交代の時間だ。行こう」
ベアトリスさんと一緒に宿を出る。これから冒険者ギルドサブギルドマスターのソウザの動きを監視しに行くのだ。
常時3人態勢になるように2人ずつ交代しているのは、動きがあった時点で、情報共有できるようにするためだ。
基本的には、夜目と索敵スキルがある俺かレオナさんが追跡役となって、盗賊団のアジトを突き止めるつもりだ。できれば俺が監視している時に動いてくれればいいのだけれど。
「マイナ、ミザリー、お疲れさん。交代の時間だ」
まあ監視と言っても、ギルドの中では、ギルドマスターとシャロさんが、ソウザの動きをそれとなく監視している。
俺たちはギルドの外の店で、ソウザが出てくるのを待っているだけだけどね。
「後は頼みました。イソネ殿、ベアトリス」
「……よ、よろしくお願いします」
マイナさんとミザリーさんは、交代で宿へ戻ってゆく。
「うふふ……イソネさんと二人で監視なんて……デートみたいでドキドキしますね!」
月明かりの下、上目遣いで微笑む銀髪のミラさんに思わずドキッとしてしまう。
「ミラ……私もいるんだが……」
むっとした様子で俺の隣に座るベアトリスさん。え? 近い、近いですよベアトリスさん?
「あれあれ……ベアトリスったらいつの間に……?」
ミラさんは、面白いものを見つけたとばかりにニンマリ笑うと、すかさず俺の反対側の隣に座る。
えええぇっ!? ナニコレ? もしかして両手に花ってヤツでしょうか?
いやいや、ちょっと待て。俺は今大事な任務中だよね! 集中しないと……
だめだ……どうしても柔らかい感触や甘い匂いに集中してしまう。煩悩退散!!
ふと隣を見れば、二人ともちゃんと監視に集中している。さすがプロの冒険者は違うよ。
いつの間にか腕まで組まれているけどね! 両手がふさがって飲み物が飲めない……いや、それは別に良いんだけどさ。
「あ、あの……腕まで組む必要は無いのでは?」
「ここは酒場だぞ? 男女が一緒にいてこれぐらいしなければ、不自然だ」
「そうですよ? 腕を組むのがお嫌でしたら、私が膝の上に乗りましょうか?」
「ふえっ!? あ、いや、このままで大丈夫です……」
思わず変な声が出て赤面してしまう。
そうだよね、二人の言うとおりだ。変に意識したりして情けない。しっかりしないと。
「むっ……イソネ殿、ソウザのヤツが出てきたぞ……」
「残念だわ……せっかくこれからが本番だったのに……」
ミラさん? 何が本番なのでしょうか?
ほっとしたような、少し残念なような気持ちを切り替えて、ソウザに集中する。
「じゃあ、ミラさんはみんなに知らせてください。俺とベアトリスさんがソウザを追います」
「了解、頑張ってねイソネさん。また続きしましょうね?」
ミラさん……そんな淋しそうな顔しないで下さい。でも続きってなんですかね?
ギルドを出たソウザは、人気の無い裏通りに入ると、いかにも怪しげな酒場に入ってゆく。
「晩御飯……って感じじゃないですね」
「恐らく、ろくでもない奴らの溜まり場だろうな。イソネ殿は、店から出てくる奴を追ってくれ。私は念の為、ソウザをそのまま見張る」
30分ほど経って、ひとりの男が店から出てきた。用心深く周囲を確認していて、いかにも怪しい。
「じゃあ、行ってきます!」
そっと小声でベアトリスさんに声をかける。
「イソネ殿……無茶だけはするな。生きてこそ次の機会があるのだからな」
ベアトリスさんまで、そんな顔しないで下さい。俺ってそんなに信用ないのかな?
過去を振り返れば、別れるたびに身体が変わってる俺は何も言えないことに気付く。
(今の俺は強いんだ。もうチェンジを使わないようにしないと……)
みんなを守るためなら、スキルを使うことを躊躇うつもりはないけど、今回は違う。
戦闘スキルも増えて、もうチェンジ以外に戦う手段が無かった頃の俺じゃない。
この身体をみんな気に入ってくれているみたいだし、二度と安易にスキルは使わないようにしないとね。
***
先行する男は、中々の手練のようで、暗闇の中でもすいすい進んでゆく。
そりゃそうだ。普通、夜に町の外をひとりで移動するなんて、よほど腕に自信がないと出来っこない。
幸い、俺には夜目と索敵スキルがあるから、少し離れたところから安全に追跡することができるけどね。
男は、躊躇うこと無く大森林へと入ってゆく。
昨日の犯罪組織といい、今日の盗賊団といい、魔物よりも同じ人間の方が厄介なんだから笑えないよ。
しばらくして、男の動きが止まるのを感知した。おそらく隠れ家に入ったのだろう。
近付いてみると、それなりに大きな木造の建物が見える。その周りだけ綺麗に森が開けていて、馬車が通れるだけの道も整備されているから、昨日今日出来た拠点では無さそうだ。
(どうやら見張りはいないようだな……)
索敵には見張りの反応は無い。
中の様子を覗こうと建物に近づいた瞬間、
足元の地面が消えた。
しまった――――落とし穴か!?
迂闊だった。見張りがいなかった時点で気付くべきだったのだ。
ズシュッ!!
「ガッ!? か、カハッ……」
口から血が溢れる。
落とし穴には剣や槍が設置してあり、落下した俺の身体を容赦無く刺し貫いた。
即死しなかったのは、頭と心臓を守る防具を付けていたからに過ぎない。
脳裏にベアトリスさんが浮かび、感謝と共に自分の不甲斐なさに苛まれる。
状況は最悪。即死を免れただけで、このまま放置すれば、出血多量で十分致命傷になるのだから。
多分、そう長くは持たないだろう。
(頼む……誰か来てくれ……)
地上から声が聞こえてくる。
「おい、落とし穴に何か落ちたぞ」
「ほっとけ! どうせまた獣だろ?」
「それもそうだな、ワハハハッ」
声が遠くなる。奴らが離れて行ったのか……俺の意識が薄れていっているのか……
俺は……こんなところで……死ぬのかな?
リズ……クルミ……マイナさん……レオナさん……ベアトリスさん……ミザリーさん……ミラさん……
意識が遠くなる。もはや指一本動かせない。
死ぬな……諦めるな……死にたくない、まだ死ねないんだ。だから……動き続けろ俺の心臓……
(…………チェンジ)
意識が途切れる瞬間、イソネは確かにそう呟いた。
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【 21話終了時点での主人公 】
【名 前】 シグマ
【種 族】 熊獣人族
【年 齢】 28
【身 分】 護衛
【職 業】 護衛
【スキル】 チェンジ 総合剣術 夜目 身体強化 御者 統率 強脚 狼語 見切り 奴隷契約 カリスマ 索敵 槍術 剛力 斧術




