02 悪人面のイザーク
チェンジのスキルを使ったことで分かったことがいくつかある。
俺の新しい身体、イザークの持つ記憶が大まかに残っているのだ。
正直気持ちの良いものでは無いが、待ち合わせ場所や、奴らの名前も分かるのは助かる。
そして、これはスキルクリスタルにも書かれていたが、イザークの持つスキルはそのまま俺が使えるようだ。
イザークの持つスキルは、短剣術。
的確にアダムだった俺の急所を貫いており、かなりの腕前のようだ。短剣は抜いて回収しておく。
(じゃあな、俺の身体、じゃあなアダム)
今日から俺はイザークとして生きることになる。最後に一瞥してから、家を出る。 リズが心配だ。一刻も早く待ち合わせ場所へ行かないと。
***
「すいません、遅くなりました」
「おう、イザーク。無事処理出来たか?」
「問題ありません」
会話を聞いて涙を流すリズ。
(ごめんなリズ、もう少しだけ我慢してくれ)
3人はリズを連れて馬車が隠してある場所へと向かう。
「よし、夜が明ける前にアジトまで行くぞ」
どうやら連中のアジトへ向かうようだ。その前に片を付けないとまずいことになる。
出来ればリズの協力が欲しいところだ。何とか2人だけになれるチャンスが欲しいと考えていると、意外に早くその機会が訪れる。
「イザーク、お前は馬車の中でその女を見張ってろ」
どうやらイザークは典型的な悪人面のため、外にいるといらぬ詮索を受けるかららしい。まあ、そもそもイザークは馬車を操れないので、もともと御者台か見張り二分の一の確率だったのだけれど。
理由はともかくこれはツイている。
ゴトゴト山道を走り出した馬車の中で、さっそく俺は声をひそめてリズに話しかける。
『リズ、俺だ、アダムだ。スキルを使ってコイツと入れ替わったんだ。わかったら頷いてくれ。縄を外すから』
泣き晴らして赤くなった目を見開きながら、こくこく頷くリズ。
縄と猿轡を外して泣きながら抱き合う。
『……こんな姿でごめんなリズ』
『良いの、貴方が生きていてさえくれれば……』
こんな姿になっても変わらず接してくれるリズに感謝と申し訳なさで一杯になる。
『よし、話は後でたっぷりしような』
悪人面に野太い声だが、できるだけ優しい声色で伝える。
『まず、あの2人の鑑定内容が知りたい』
リズの鑑定スキルによると、筋肉質の大男のウドが夜目と身体強化のスキルを、リーダーのエルダーが、御者と剣術のスキルを持っているらしい。
単純なパワーならウドだが、総合的なつよさはリーダーのエルダーが圧倒しており、特に剣術は上級レベル。
ならば先にウドから始末しよう。後のことを考えれば、強い身体の方が良いに決まっている。
決してエルダーのほうがイケメンだからでは無い。
『リズ、悪いけど、俺をこの縄で縛ってくれ』
さっきまでリズを縛っていた縄を差し出す。
一瞬きょとんとしていたリズだが、すぐに意図を察して頷いてくれた。
『うん、わかった』
自分がしっかり縛られたのを確認してからウドを呼ぶ。
「ウド! 悪いな、ちょっと来てくれないか?」
「どうしたんだ、イザーク?」
「後ろから何か近づいて来ているみたいなんだ。お前の夜目なら見えるんじゃないか?」
「ウド、行ってやれ。追っ手とは考え難いから魔物かもしれん」
「……わかった」
リーダーのエルダーに言われ、渋々後ろにやってくるウド。
そして、ウドの視界に飛び込んできたのは、縛られたイザークの姿となぜか自由になっている少女。
ウドが思わず声を上げようとした瞬間――――
『チェンジ!!』
「ゴボゴボゴボッ…………!?」
ウドは見動きが出来ない状態で、しかも顔にはリズが水魔法で作り出した水球がすっぽりとハマっているため呼吸も出来ない。
『悪く思うなよ、自業自得だ』
短剣を急所に突き刺しとどめを刺す。
悪人とはいえ、直接人を殺すのは初めてだ。嫌悪感に全身が震えるが、まだ何も終わっていない。
『ありがとうリズ、上手く行ったな』
『ほ、本当に入れ替わっちゃうんだね……びっくりだよ』
話で聞くのと実際に見るのでは全く違う。
リズもようやくスキルの力をはっきり認識したようだ。
『さあ……あとはリーダーを残すのみだな』
リズに視線を送り、互いに頷き合う。
再び縄で縛り始めるリズにちょっとだけ興奮してしまったのは内緒だ。
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【 2話終了時点での主人公 】
【名 前】 イザーク → ウド
【種 族】 人族 → 人族
【年 齢】 26 → 24
【身 分】 犯罪組織末端 → 犯罪組織末端
【職 業】 人身売買組織構成員
【スキル】 チェンジ 短剣術 夜目 身体強化