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ネストの夜


 気が付いたら、みんなの心配そうな顔が、俺を覗き込んでいる。


「うわっ!? ご、ごめん、ちょっと眠くなっちゃって……」


 慌てて飛び起きみんなに謝る。


 どうやら一時的に意識を失っていたみたいだ。


 やはり短時間に何度もチェンジを使うのは負担が大きい。


 おそらく脳が強制的に意識を落としたんだろう。おかげで少し気分が楽になっている。



「イソネ、良かった!」


 クルミが花が咲いたような笑顔で笑う。


「ごめんなクルミ、心配かけて」


「ううん。イソネがすごいのは知ってるから。イソネは私の英雄(ヒーロー)だから」


 ギュッと抱きついてくるクルミの頭を撫でながら心が癒やされてゆくのを感じる。


 大丈夫。俺はちゃんとここにいる。俺の心はここにある。


「イソネ……こういう時は、まず婚約者である私を抱きしめるもんじゃないの〜」


 リズが少しふくれた風で抱きついてくる。


「そうだな。ありがとうリズ」


 リズの甘い香りはいつも俺を安心させてくれる。俺が俺でいられる場所だ。俺は彼女を守るために生きると決めたんだ。



(連中、どれぐらい溜め込んでいるか楽しみだね)


 耳元でささやくリズに思わず吹き出してしまう。


 声を出して笑う俺の姿に安心したのだろう。


 マイナさんたちも一緒に笑い出す。


 

 良かった。ここには俺が守りたかったすべてがちゃんとある。


 

***



 子どもたちを含めて、捕まっていた人々には事情を丁寧に説明する。


 組織はいたる所、あらゆる町に根を張っていること。


 もし組織に今回のことがバレたら、一生逃げ続けなければならなくなるかもしれないこと。


 そうなれば、マイナさんたち路傍の花に迷惑がかかること。


 幸いここに捕まっていた人々の情報は、他の拠点には共有されていない。


 つまり、余計なことを言わなければ、組織にバレる心配はないのだ。



「わかりました。助けていただいた皆さんに迷惑をかける訳にはいきませんからね」


 冒険者ギルドのシャロさんの妹、シャルさんが力強く答える。


 シャルさんには魔物から逃げているうちに迷子になったことにしてもらう。


 捕まっていた人々も、シャルさんの協力で故郷に送り届けてもらうつもりだ。


 みんな此処でのことは一切他言しないと約束してくれた。



 よし、話はまとまったし、恒例の宝探しスタート!!!


 全員で金目のものを物色する。


 とても人聞きが悪いけれど、どうせこの拠点はミザリーさんが灰にするのだ。


 使えるものは使わないと勿体無いじゃないか。それに子どもたちも楽しそうだし、苦労したんだから少しぐらい楽しまないとね!


 そして集まった金貨はみんなで山分けする。


 こんなに貰えないと遠慮されたけど、当面の生活費や護衛を雇う費用もかかる。最後は何とか受け取ってもらった。


 その代わり、馬車や武器、その他の品物は俺たちが貰うことになった。


 金貨と合わせてまたとんでもない額になりそうだね。


 リズの弾けるような笑顔に癒やされながら、戦利品を馬車に積み込んでゆく。



「しっかし、人助けしてガッポリ儲かるとか、拠点潰しは止められないな、マイナ」


 レオナさんが楽しそうに金貨を馬車に積み込む。


「何を言っているのだレオナ。イソネ殿が頑張ってくれたから上手くいっただけで、本来はリスクが高過ぎる仕事だぞ?」


「うむ、確かにマイナの言うとおりだ。イソネ殿のスキルありきの仕事ということだな」


 マイナに同意するベアトリス。


「うう……こんな汚らわしい拠点は早く灰にしてしまいましょう!!」


 ミザリーは1秒でも長く拠点には居たくないようだ。


「でも……良かったわねマイナ。今度のイソネさん、渋くて格好良いわよね〜」


 うっとりしながら、横目でマイナを眺めるミラ。


「だ、だからなんで私に振るんだミラ!?」


「……反応が面白いからだけど?」


 ミラの言葉に赤くなって俯くマイナを愛でる路傍の花のメンバーたち。


 みんなマイナの事が大好きなのだ。



***



「シャル、良かった……無事だったのね」


 泣きながら妹のシャルを抱きしめるシャロ。


「お姉ちゃん! 心配かけてごめんなさい……」

 

 後でシャロさんにだけには事情を説明するつもりだが、今は無事戻れた事を素直に喜んでもらいたい。


「よーし、今夜は町をあげて祝宴だ!!」


 集まった人々が、勝手に祝宴を始める。


 喜びに湧くネストの夜は始まったばかりだ。



「リズ、保存が効かない食材なら良いよな?」


 拠点で手に入れた食材の中には、あまり長期保存が出来ないものも沢山あった。


「もちろん! どーんと振る舞いなさいイソネ!」


 マイナさんたちにも手伝ってもらって、食材を提供する。


「おおっ!? 悪いな旅の方! みんな〜手伝ってくれ!」


 屋台の人たちが集まってきて、たちまちバーベキュー会場に早変わりする。



***



「……イソネ殿、仕方がないとはいえ、本当のヒーローが評価されないのは辛いな」


 浮き立つ町の様子とは裏腹に、私の気持ちはいま一つ盛り上がらない。

 

「このスキルは絶対に表には出せないですからね。でも……俺は、マイナさんが、マイナさんさえ知ってくれていれば十分幸せですよ」


「イソネ殿……」


 どうして貴方はそんなに優しいのだろう。心臓が高鳴る。たぶん私の顔は真っ赤だろう。宵闇よ私の想いと姿をどうか隠して欲しい。貴方の横顔だけ見れれば十分なのだから。


「みんなが無事で笑い合えることの方が、ヒーロー扱いされることなんかより、俺にとってはよほど大切ですからね」


「……そのみんなの中には私も入っているのだろうか?」


 思わず聞いてしまった。優しい貴方がどう答えるなんてわかっているはずなのに。



「もちろんですよ、マイナさん」



 姿は変わっても、その優しい眼差しは変わらない。温かい声色もそのままだ。


 ありがとう、イソネ殿。自己嫌悪など吹き飛んでしまいました。


 だって貴方に名前を呼ばれるだけでこんなに浮かれてしまうのですから。



*************************************

【 18話終了時点での主人公 】


【名 前】 シグマ

【種 族】 熊獣人族

【年 齢】 28

【身 分】 護衛

【職 業】 護衛


【スキル】 チェンジ 総合剣術 夜目 身体強化 御者 統率 強脚 狼語 見切り 奴隷契約 カリスマ 索敵 槍術 剛力 斧術

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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