凄腕の護衛 熊獣人のシグマ
「シグマ、もしかすると敵の狙いはうちの商品かもしれない。悪いが今夜だけお前たちで見張っていてくれ」
「たしかにその可能性はありますね。わかりました、部下を連れて地下を見張るようにします」
部屋を出てゆくシグマ。
ふふふ、これで邪魔者はいなくなった。
俺は残りの構成員たちを順番に部屋へ呼びだす。
「なんでしょうか、ボス」
「内密な話だ。ちょっと近くまでこい」
耳元でささやくようにして急所をひと突きにして仕留める。
倒した構成員は、奥の部屋に放り込んでおく。
あとは単純作業だ。同じ過程を繰り返すだけ。
もはや人を殺しても何も感じなくなっている。
いや違うな……正確には楽しんでいる自分がいる。まるでゲームをしているかのように。
これは罪悪感で心が壊れないようにそう思おうとしているのだろうか?
それともこれまで入れ替わってきた悪人たちの記憶が俺の心を変化させてきているのだろうか?
正直わからないし、今考えることでもない。
どちらにせよ今の俺にはありがたいからな。
やらなければならないことを妨げるような感情は邪魔でしかないのだから。
さて、残りは入口を見張っている2人と、地下にいるシグマとその部下だけだ。
まずは入口から片付けるとしよう。
「お前に差し入れを持って来たぞ。酒と軽食だ、食え」
「おおっ、ボスありがとうございます。いただきます」
(最後の晩餐だ……しっかり味わえよ)
酒を飲み気分が良くなっているところでこの世から消えてもらった。
(あとひとり)
「こんな時に御苦労だな。どうだ何か異常はないか?」
「へい、特に異常はないですね。ボスがこんなところに来たこと以外は! ってすいませんつまらない冗談――――ぐへっ……」
「……本当につまらない冗談だな」
これで残っているのはシグマたちだけだ。
索敵スキルのおかげで拠点内の人の動きは丸裸になっている。討ち漏らしはないな。
拠点を出て大きく両手を振る。
マイナさんたちと決めた合図だ。
木陰から斥候役のレオナさんが音も立てずに現れる。
「レオナさん、イソネです! 作戦は大成功です」
「お、おう……なんだ、その……ずいぶんと大きくなったな」
「ははっ、確かに……」
あらためて言われると軽くへこむな。
こんな姿を見せたくないから、出て来たのがマイナさんじゃなくて良かったとひそかに安堵する。
「じゃあ、最後の仕上げをするんで手伝ってもらえますか」
「ふっ、任せておけ、ちゃんと準備してあるぜ」
荒縄を掲げてみせるレオナさん。
「しかし、イソネのスキルはヤバいな。組織の拠点があっという間に壊滅しちまうんだから」
拠点の内部を歩きながら、レオナさんが笑う。
「そうですね……一瞬で意識を刈り取られなければ死ぬことは無いですからね」
「イソネ……ちょっと屈んでくれないか?」
「? 別に良いですけど」
言われたとおりに屈むとレオナさんが頭を撫でてくれた。
「れ、レオナさん!?」
「ふふっ、ありがとな、イソネ。お前が頑張ってくれたから俺たちは全員無事だ。お前のおかげだよ」
「れ、レオナさん……」
「でもな、キツい時はちゃんと言えよ? 俺たちだってイソネを守ってやりたいんだからな」
「ありがとうございます……」
最後に人前で泣いたのは何時だっただろう。
いや待て……カッコつけたけど、フォレストウルフの時にめっちゃ泣いてたな、俺。
レオナさんの不意打ち気味の優しさに不覚にも涙が出てしまったよ。
「うーん、これでイソネがおっさん巨漢デブじゃなければ抱きしめてやったんだがな」
それは残念でしたね。我が身が恨めしい。
「レオナさん、では上半身だけガチガチにお願いします」
シグマたちがいる場所から近い部屋の前で、レオナさんに上半身を荒縄で縛ってもらう。
これで準備完了だ。
「ではレオナさんはもし俺が転んだらフォローお願いしますね」
「わかった。大丈夫だと思うけど気をつけろよ!」
よし、後はシグマをこの部屋におびき寄せるだけだ。
「う、うわああああ!!? し、シグマ! 助けてくれえええぇっ!」
大声で叫ぶ。
そして部屋に入って床に倒れ込み、大声で喚き続けた。
***
「シグマさん、今の声?」
「間違いなくボスの声だな……」
「俺たちが行きましょうか?」
「いや、俺が行こう」
少し考えてからシグマが動いた。
声が聞こえているので、場所はすぐに分かった。
罠かもしれないので、シグマは慎重に部屋に入る。
(どうやら待ち伏せは無いようだな……)
薄暗い部屋に明かりを灯すと、縛られて寝かされているボスの姿が目に入った。
「ボス、大丈夫ですか?」
周囲を警戒しながら声をかけるシグマ。
「おお、シグマ、よく来てくれたな……チェンジ!!」
「なっ!?」
「レオナさん、今です!!」
「ぐわぁ!?」
潜んでいたレオナが姿を現しサバスと入れ替わったシグマにとどめを刺す。
さすがの凄腕もこれでは為す術が無かった。
「お見事ですレオナさん。後は俺がやりますので、みんなを呼んで来て下さい」
「了解、後はよろしくな!」
そう言ったと思ったら、もう姿が見えなくなっていた。忍者みたいな女性だな。
(あと2人)
「あ、お帰りなさいシグマさん、どうでしたか?」
「問題無い。ボスのイタズラだった」
「は? 何だよそれ。ふざけんな――――へ? な、なんで……ガハッ」
不意打ちで崩れ落ちる部下たち。
壁に持たれかかり腰を下ろす。
「ふぅ……何か疲れたな」
短時間に何度もチェンジを使ったせいだろうか? 焦点が定まらずふらふらする。
みんなが来るまで……少しだけ休もうかな。
膝を抱えて目を閉じる。
そこで意識が途絶えた。
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【 16話終了時点での主人公 】
【名 前】 サバス → シグマ
【種 族】 人族 → 熊獣人族
【年 齢】 49 → 28
【身 分】 組織ボス → 護衛
【職 業】 組織ボス → 護衛
【スキル】 チェンジ 総合剣術 夜目 身体強化 御者 統率 強脚 狼語 見切り 奴隷契約 カリスマ 索敵 槍術 剛力 斧術