最高の結末
「……くん」
誰かに呼ばれているような気がする。
「……イソネくん、大丈夫か?」
気付けば目の前にカケルくんの顔が。眩しくて顔を直視できない。
しかも……なんでお姫様抱っこされてるのさ!? 恥ずかしさで顔が熱くなる。
「あれ……? 俺は一体……?」
「覚えていないのか? いきなりぶっ倒れるから驚いたんだぞ」
そうか……全てを出し切って……それで……あっ!?
「か、カケルくん、あの……勝負の結果は……?」
「…………」
カケルくんの表情から笑顔が消える。そうか……届かなかったんだ。ごめん……マイナさん、ミラさん。俺にもっと力があれば……。不覚にも涙が止まらない。情けなさでいっぱいになる。
「ったく、泣きたいのはこっちの方なんだけどな。ほら見ろよこれ」
死角になっていたカケルくんの顔面に残るアザ。え? 俺が……やったの?
「触るだけで良いって言ったのに思い切りぶん殴るんだもんな……ああ痛い痛い」
ワザとらしくアザを撫でると、もうすっかりアザは消えていた。わざわざ目を覚ますまでそのままにしておいてくれていたらしい。
そっか……勝負に勝ったんだな……俺。良かった……本当に良かったよ。
安心したら更に涙が溢れてくる。うわあ……格好悪い。
「なんだ、結局泣くんだな」
優しいカケルくんの微笑みが温かくて涙が止まらない。無駄な抵抗は止めよう。俺は泣き虫の英雄なんだから。
「イソネさん、格好良かったわよ♡ 愛してるわ」
今まで見たことが無いぐらい、ミラさんが顔を赤くして頭を胸元に抱き抱える。あ、当たってますって!!
「……いいの。当ててるの」
「イソネ殿……その……なんというか……すまんっ!!」
いきなり土下座をするマイナさん。
え? なんでマイナさんが謝るの?
「はははっ、いやあすまんなイソネ殿。そなたの本音が知りたいと、ミラの提案に乗せられてしまってな。まさか、ここまでの事態は想定していなかったので正直肝が冷えたがな」
国王陛下? 話が見えないんですけど……ミラさん?
「ごめんなさーい。だってイソネさんったら、私たちのことを本当に大切に思ってくれているかわからなかったから……てへぺろ」
くっ……リアルでてへぺろする人がいるなんて。てことは……まさかこれ全部……?
「まさか!! 縁談は本当だ。我々は断ったんだが、その……私も気になっていたから……」
くっ……可愛い。マイナさんのその表情を見れただけで十分ですよ。
「むっ!? なんかマイナだけずるい……イソネさん、私は?」
ミラさんのすねた顔も可愛いです。命をかける価値がありますよ。
「まったく……俺は感謝して欲しいけどな。悪役やらせられるわ、呼ばれたのに縁談は断られるわ。おまけに思い切り殴られるわ……」
カケルくん……なんか本当にごめんね? なんで俺が謝るのかわからないけど、きっと俺がもっとしっかりしていれば避けられた茶番だったってことだよね。
「冗談だよ。俺もイソネくんを覚醒させるっていう目的があったからな」
あ……そいうえばなんか色々進化したんだっけ……?
「というわけで、東の平和はイソネくんに任せたぞ。今度帝国とやりあうんだろ?」
あの……どこまで知っているんですかね。
「イソネくんが知っているよりも知っているのは確実だな。あとで大事なところだけ教えるよ」
結局俺がやるんですね。カケルくんなら秒で終わりそうだけど?
「俺がやるのはフェアじゃないからな」
はい……頑張ります。
数日後、王都に到着したリズたちと合流。
ティターニアさんたちが参加したギルドマスターによる総会議で、俺のS級認定が正式に認められた。
「駆さまああああああ!!!」
「おお、会いたかったよリッカ。本当に刹那にそっくりだな」
弾丸のようなリッカさんのアタックを何でもないように受け止めるカケルくん。
あれ、俺だったら骨折しているだろうな……さすがカケルくん。
リッカさんは、ギルドマスターを辞めて、カケルくんのところへ行くらしい。
そして、カケルくんが再び王都へやってきた理由は――――
「立派になったな……アダム……いや今はイソネか」
「きゃああ!! 可愛いお嫁さんがいっぱい!!」
苦笑いの父さんと大はしゃぎの母さん。
「リズ……おめでとう」
「うんうん、立派になったな少年!!」
リズの両親、カインさんとタチアナさん。
カケルくんは、王都で結婚式を挙げることになった俺たちのために、サプライズで行方不明だった両親を連れて来てくれたのだ。
一番驚いたのは、リズのお母さんが元クリスタリアの公女さまだったってこと。つまりリズは、お姫さまだったってことだ。
とりあえず新婚旅行の行き先の一つに決まっているんだよね。なんでもすごいスパリゾートがあるらしいから、俺も楽しみにしている。
トラキアへも行かなきゃならないし、スタック王国の再興、リアン殿下を帝位に就けなくちゃならないし、やることは山積みだけど、きっと全部上手く行く。
「どうしたのイソネ、にやにやしちゃって……?」
「何でもないよリズ。みんなが大好きって思っただけだから」
「ふふっ、そうね。最高の家族だと私も思うわ」
腕を組んで愛するみんなの元へ。
「ねえイソネ。あれ以来チェンジ使えなくなっちゃったんでしょ?」
カケルくんとの勝負でオリジンを発動した結果、俺はチェンジを使えなくなった。
「ああ、でも良いんだよ。俺にとっての最高の結末、もうチェンジする必要はないんだからさ」
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これで、王都編完結です。
今後、機会があれば、帝国編、トラキア編、スタック王国再興編など、
書いていければ良いなと思っています。
再びイソネたちの物語で再会できることを願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。