01 ジモ村のアダム
現在連載中の『異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収拾つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~』 と同じ世界、ほぼ同じ時間軸のお話となりますので、あわせてお読みいただけるとより楽しめると思います。
こちらは、サブストーリー的な作品なので、時間があるときの不定期更新となる予定です。
俺はアダム。ジモ村という小さな山奥の村で生まれ育ち、今年で16歳の成人を迎えたばかりだ。
村の人間は、春になると山の幸や狩った獲物を売りに麓の町へ行くが、その際、その年成人を迎えるものは、無料で町の神殿で神官さまにスキル鑑定をしてもらえるのだ。
これは国が人材発掘のために行なっているそうで、良いスキルを持つものは、騎士団にスカウトされることもあるそうだ。
とはいえ、こんな田舎にすごいスキル持ちなんかいるわけもなく、農作業や、狩りに役立つスキルが出たらラッキーだなという程度の認識しかない。
俺は生まれ育った村が好きだし、親から受け継いた小さいけど立派な畑、そして可愛い許嫁もいる。
騎士や冒険者に憧れて村を出たがっている奴らもいるけど、俺はまったく興味がなかった。
***
トナリ町の神殿
「皆さんようこそ神殿にいらっしゃいました。これからスキルの鑑定をいたしますが、どんな人間にも必ずスキルは授けられています。創造神であらせられる女神イリゼ様の御導きに感謝を忘れないように――――」
神官さまの長い説教が終わったが、要するに、俺たち人間には生まれつきスキルが与えられていて、ほとんどの場合、スキルを認識する事で初めて発動するらしい。
誰にでもあるという事は、当然俺にもスキルがあるのだろう。興味はなかったが、やはり気にはなってくる。
高望みはしないが、生活に役立つスキルであることを女神様に祈りながら順番を待つ。
とはいえ、スキルはすでに授けられているのだから今更祈ったところで何も変わらないのだが……
「次はジモ村のアダム入りなさい」
神官さまに呼ばれて石造りの祈祷室に入る。
中は簡素な造りで、奥に透明の板のようなものが安置されている。
「その透明な板のようなものがスキルクリスタルです。触れた者のスキル名と内容が浮かび上がるので、しっかり自分で確認して下さいね」
説明によれば、スキルクリスタルに浮かび上がる文字は基本的に本人にしか読むことが出来ないらしい。
さらに文字の読み書きが出来ない人間でも読めるというのだから驚いてしまう。
つまり、スキルは本人による自己申告だということになる。
世の中には知られたくない変なスキルも存在するため、この機能があることにより多くの人々が安心して神殿に訪れるようになった。
実際のところ、良いスキルを持つものはそれを隠すことはしないので、人材発掘には支障は無いし、記録そのものは密かに保管されているので、犯罪を犯した人間はばっちりスキルを調べられてしまう。
アダムがスキルクリスタルに触れると、クリスタルが光り、文字が浮かび上がる。
そこに書かれていた内容は――――
スキル名【チェンジ】
対象を定め強くチェンジと念ずることで発動する。
チェンジする対象と身体を入れ替えることが出来る。また、一度チェンジした身体には戻れない。
スキル、記憶は、新しい身体に引き継ぐことが出来る。
回数制限無し。
何だ……これは?
元の身体に戻れないというなら、人生を捨てるのと一緒じゃないか。
それに若い身体に乗り換えて長生きするような外道に墜ちる気もさらさら無い。
すごいスキルなのかもしれないが、はっきり言って一生使うことは無いだろうな。
農作業にも狩りにも役に立たないスキルだったことにガッカリしながら祈祷室を出る。
「おや、お望みのスキルではなかったようですね?」
「はい、まったく使えないスキルでガッカリしています」
あっ!?……つい本音が出てしまった!?
「ふふっ、今はそう思うかもしれませんが、女神様はその人に必要なスキルを授けるのです。いつかきっと役に立つ時がくるでしょう」
神官さまに御礼を言って村へ帰る。
役に立つねえ……出来ればそんな機会は一生来なくて構わない。
人生捨てなきゃならない状況なんて真っ平御免だからな。
それにだ……俺が人生を捨てるだけならまだ良いが、チェンジする相手の人生も同時に奪ってしまうんだよな……このスキル。
ますます使えないスキルに頭が痛くなるが、元々スキル無しでこれまで生きて来たのだから、何も変わらないんだと思えば少しは気が楽になる。
「アダムはどうだったの? スキルわかったんでしょ?」
村に戻ると、後ろから女性が抱きついてくる。
「リズ、お前急に抱きつくのやめてくれよ」
「何でよ? 別に良いじゃない、私たち結婚するんだし〜」
「いや、それはそうなんだが、俺が耐えられない……」
「んふふ〜、アダムも男だもんね、良いよ、私たち成人したんだし……ねっ」
悪戯っぽく笑うのは村一番の美少女で俺の許嫁のリズ。
リズ(使用メーカー様:五百式立ち絵メーカー)
母親譲りの青色の髪にブルーの瞳。リズの母親は何処ぞの貴族の令嬢だという噂もあるが、真相は本人が語らないので分からない。
俺とリズの両親は半年前に王都に行ったきり帰って来ていないのだ。
心配だが今は2人で待つ以外の選択肢はなかった。
両親が留守の間、俺とリズは一緒に暮らしていた訳だが、健康な若い男女が同じ屋根の下。
成人した以上、お互いにこれ以上我慢する理由もない。
その晩、俺たちは無事結ばれたのだった。
「……なるほどね、確かにアダムのスキルは使いどころが無いね。せっかくすごいスキルなのに……」
「だろ? それに引き換えリズはすげぇよな。水魔法と鑑定スキル。2つも有るんだから」
「うん……でも大変だったんだよ!? いろんなところから勧誘されて」
レアなスキルを複数持っているのだから当然だろうな。
「もし、リズが村から出たいなら俺は応援するぞ」
「バカね、アダムがいるところが私の居場所よ?」
「ありがとうリズ……」
「愛してるわアダム……」
「ガッ!?」
「きゃあ!?」
突然後ろから殴られ倒れるアダム。
3人組の男たちにリズも拘束されてしまう。
「ほお……これは本当に上玉だな。わざわざ町からつけてきた甲斐があったな」
「おっと、魔法は使うなよ? そこの男が死ぬぞ」
リズが咄嗟に水魔法を使おうとしたが、アダムを人質に取られては黙るしかない。
全身縄で縛られ猿轡をされたリズは見動きすら出来ない。
「よし、撤収するぞ!」
リーダーの合図で男たちが動き出す。
「イザーク、お前はその男を始末しておけ」
「わかった」
『っ!? んんううっ〜!?』
その言葉を聞いてリズが必死に声をあげようとするが、くぐもった唸り声にしかならない。
リズが連れ出された後、残ったイザークがアダムに短剣を振りかざす。
「悪く思うなよ、これも仕事なんだ」
朦朧とする意識の中でも、一つだけはっきりしていることがある。
リズを助けなければならない。
俺は死ぬわけにはいかないんだよ!!!
『チェンジ!!!』
目の前に短剣が突き刺さり死んでいる自分の身体がある。 一瞬でもスキルの発動が遅ければ、死んでいたのは間違いなく自分自身だった。
たまらず胃の中身を全て吐き出してしまう。まるで俺が幽霊にでもなった気分だよ。
(いつかじゃなくて、さっそく使う羽目になるとはな……待ってろよリズ、今助けに行くからな)