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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第三部 守護する真星

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八四話 暗躍していた存在

「おいカリン、課金アイテムを使わないと先に進めないのは酷くないか?」

「そんな事ないわよ。ログインボーナスを溜めれば無課金でも進めるんだから」


 俺はカリンの作ったゲームのテストプレイヤーとなっていた。自分が主人公となっているゲームをするのは贅沢と言えるが、サングラスとアロハシャツを装備して肩にフクロウを乗せているアバターは自分とは思えないので複雑な心境だった。


「事件解決に必要なアイテムがマスターキーなのはともかく、それをビルのオーナーから購入するのは闇が深いな……。これは名探偵の行動としてアウトだろう」


 もちろん危険な設定に苦言を呈するのも忘れない。ビルのオーナーに大金を払ってマスターキーを売ってもらうのは倫理的な問題があるのだ。


 ある意味では現実的な設定と言えるが、名探偵として犯罪臭が漂っている行動を認めるわけにはいかない。製作者であるカリンの倫理観も心配でならなかった。

 そして喧々諤々(けんけんがくがく)と騒ぎながら進めていくと、あるボス戦でユキが声を上げた。


「あっ……」


 そのボス戦の相手は怪盗――その名も『怪盗カンジロウ』だ。

 明らかにカンジをモチーフにした怪盗なので肖像権的な問題を感じるが、ルカは知人が出てきたので「カンジだ!」と嬉しそうだ。


 しかし、俺はユキの反応が引っ掛かっていた。先程までは純粋にゲームを楽しんでいたにも関わらず、今のユキはどことなく表情が曇っているのだ。


「どうしたユキ? まさかとは思うが、カンジと知り合いなのか?」

「い、いえ、知りませんが……」


 あり得ないと思いつつも確認してみたが、やはり否定の声が返ってきた。

 ガンジはこれまで一度も村を出ていないと言っていたので当然ではある。


 ユキは奥歯に物が挟まったようにモゴモゴしていたが……しばらく待つと、もはやこれまでと観念したかのように口を割った。 


「あの、それが実は……私の家に、怪盗から予告状が届いてるんです」


 その言葉に思わず思考が止まる。

 怪盗から予告状が届いた……? このメガネっ娘、ゲームのやり過ぎでゲームと現実の区別がつかなくなったのだろうか?

 俺はゲーム依存の少女を本気で心配していたが、カリンの反応は違った。


「えぇっ!? た、大変じゃないの。どうしてそんな大事な事を黙ってたのよ!」


 カリンはあたふたと動転していた。

 友人が突拍子もない事を言い出したから驚いているという雰囲気ではない。まるでユキに現実的な脅威が迫っているかのような驚き方だ。


 探偵ゲームを作っていた影響でカリンもおかしくなっているのか? と心配事の種を増やしていると、ラスが訳知り顔で口を挟んだ。


「カァーッ、()()()()()()か。まさかユキ嬢の家が狙われるとはなぁ……」


 怪盗ロスター?

 周知の事実であるかのように言っているが、もちろん俺は聞いた事がなかった。


 俺は動揺を隠したまま周囲を確認する。ユキやカリンは当然の如く知っている顔だ。氷華も沈痛な表情なので知っていると考えるべきだろう。


 この場で知らないのは俺だけなのか……いや、大丈夫だ。ラスクをぼろぼろロスしながら食べている少女、このルカも絶対に知らないはずだ。


「ルカ、ラスクは皿の上で食べることを意識しなくては駄目だぞ」


 普段であれば事務所を汚されたら叱りつけるところだが、今の俺は穏やかな心を持っていた。唯一の仲間に対して厳しく出来るはずもない。

 叱るどころかヨシヨシしながら「あむ……」とラスクを食べさせてしまう。


「ふむ、なるほどな。怪盗ロスターか」


 平静さを取り戻した俺に恐れるものはない。

 あたかも知っているような体で『怪盗ロスター』とネットで検索してしまうのみだ。そう、知っている上で再確認するかの如くだ。

 そしてその検索結果に目を通し、俺も怪盗の存在を思い出した。


「……都市伝説のようなものだと思っていたが、この怪盗は実在していたんだな」


 これはすぐに思い至らなかったのも無理はない。主要メディアで取り上げられているようなものではなく、単なるネット上の噂話に過ぎないものなのだ。


 資産家を標的に狙う窃盗犯。しかもその犯行前には標的やマスコミに予告状を送りつけるという大胆不敵な泥棒、それが『怪盗ロスター』だ。


 しかし、ネットで存在を噂されてはいたが、実際にマスコミで報道されていない上に窃盗被害者が名乗り出たという話も聞いていない。

 俺がガセネタだと思い込んで意識から除外していたのも当然だろう。


「ああ、そういえば一般には報道規制が敷かれていたわね。被害者の中にはマスコミに顔が効く人間も多いらしいから」

「なるほどな……それなら俺が詳細を知らなかったのも当然だ。うむ、当然だ」


 俺は自己肯定しながら納得する。

 名の知れた大家なら優秀な警備を配しているはずだろうが、それを出し抜かれたとなれば大家の面子に関わってくる話だ。

 マスコミに圧力を掛けて情報を隠蔽するのも分からなくはないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、八五話〔ライバル的な存在〕

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