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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第三部 守護する真星
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八三話 迷走してしまう看板

「仕事漬けで構ってやれなくて悪かったな。しかしカリンの気持ちは有り難いが、現状のホームページでも充分過ぎると思うぞ」

「そ、そんなんじゃなくて、私の面子の問題なのよ。とにかく見てみなさい」


 照れ照れしたカリンに促され、ノートパソコンのマウスを受け取った。

 氷華から『子供にホームページを作らせているのですか』と非難を含んだ眼差しを浴びつつ、俺は複雑な気持ちでアイコンをクリックする。


「こ、これは一体……」


 俺は表示された画面に戸惑っていた。

 話の流れ的には探偵事務所のトップページが表示されるはずだったが、そこには予想外の文言が表示されていたのだ。


『フッ、千道探偵事務所の世界へようこそ。まずはユーザー登録をするがいい』


 なぜ探偵事務所のホームページを見るだけなのにユーザー登録の必要が……?

 顧客を大量に抱えている大手なら会員制でも成立するのかも知れないが、この千道探偵事務所には強気過ぎる方針ではないだろうか。 


 しかも、この案内役のマスコット。どうやら俺をデフォルメ化したキャラクターのようだが、客商売とは思えないほどに偉そうな態度だ。


 尊大な態度のマスコットがユーザー登録を迫っているというトップページ。これは探偵事務所のホームページとして如何なものかと、カリンに視線を向ける。


「ふふ、大丈夫よ。今回はテストプレイだからユーザー登録は必要ないわ」


 なにやら見当違いの答えが返ってきた。

 この不可解な展開の説明を求めたのだが、これほど自信満々に言われては返す言葉がなかった。自信作という事で妙なテンションになっているのかも知れない。


「わぁーっ、すごい……。このキャラクター、千道さんの特徴をよく捉えてるね」


 なぜか千道マスコットを絶賛しているユキ。

 特徴をよく捉えているとの事だが、俺はこのマスコットのように腕を組んで不敵な笑みを浮かべていた事は一度もない。ナチュラルに失礼な煽りっ娘である。


 ともあれ、困惑しつつも画面を先に進める。


 次に表示されたのは、見慣れた雑居ビルのデフォルメ画像。

 そして、画面中央のアイコンには――――『ゲームスタート』の文字!?


 震える手でアイコンをクリックすると、内心の疑惑は確信へと変化していく。

 画面端にあるのは『クエスト』や『フレンド』などのアイコン。……こ、これは、もしかしなくてもアレではないだろうか。


「これは毎日ログインするだけで五チェリーが貰えるのよ。一週間続けてログインすれば連続ログインボーナスが……」


 完全にソーシャルゲーム……!

 なんてこった……アイコンの時点で怪しいと思っていたが、デイリーボーナスや連続ログインボーナスまで搭載しているとなれば疑う余地がない。


 しかし、なぜ探偵事務所のホームページがソシャゲになってしまったのか。このままでは探偵に依頼するつもりがソシャゲをプレイする破目になってしまう。

 あまりの事態に呆然としていると、ご意見番のカラスが不満の声を上げた。


「おいおい嬢ちゃんよぉ、千道探偵事務所なのにオレ様がいないじゃねぇか」

「ふふ、分かってるわよ。このショップで購入すればオプションで付けられるから。えぇと、ラスは……五千チェリーね」


 ラスが課金アイテムになっている……!

 なぜかラスは満更でも無さそうな様子だが、ペットショップの売り物のような扱いで構わないのだろうか?


 しかもこのゲームは千円で五百チェリーが手に入るらしいので、ラスは一万円で買えてしまうという事になるのだ。これは安いのか高いのか。


「すごーい、千道さんの服も変えられるんだね」


 キャラクターの着せ替え要素に魅せられているユキ。同級生がソシャゲを作ったという事実を平然と受け入れているのは大したものだが、しかしキーボードを操作してサングラスとアロハシャツを選択するのは止めてほしい。


「俺をチンピラにするのは止めるんだ。それにしても……オプションの動物もやたらと種類が多いな。とりあえず白いフクロウを選んでおくか」

「カァッッ!?」

「――ちょっと、ラスが可哀想でしょ!」


 軽い気持ちでフクロウを選択した直後、カリンから非難の声が飛んできた。

 ラスを庇っているようではあるが、そもそも動物の選択肢を提示したのはカリンなのでマッチポンプ感は否めなかった。


 とりあえずラスを「やめろぉ」と撫で回して機嫌を取り、氷華から妬みの視線を受けながらゲームを先に進めてみる。


「なるほど……これは、よく出来ているな」


 カードとアイテムを駆使して謎を解いていくという形式のゲームだが、なぜか犯人とのバトル要素などもあるので中々に面白い。


 これはとても中学生が作るようなレベルのゲームではない。コンテンツが微妙ではあるが、普通に第一線で戦えるクオリティのゲームだ。


「そうでしょ! ただ、本格稼働の前にサーバーを増強する必要が……」

「まぁ、待て。ゲームとしてはよく出来ているが……残念ながら、不採用だ」


 嬉しそうな幼女に告げるのは心苦しかったが、言わないわけにはいかなかった。

 むしろカリンが「なんでよっ!」と不満を露わにしているのが不思議でならない。聡明な幼女なら言わずとも知れたことなのだ。


「今回はホームページのリニューアルじゃなかったのか? これを見て探偵事務所のホームページだと気付く者は居ないだろう」

「そ、それは……えっと、従来のホームページならこのリンクから飛べるわ」


 完全に目的を見失っていたカリンは苦し紛れの回答を返した。

 確かに探偵事務所のホームページへのリンクは貼ってあるが、ソシャゲのホーム画面から探偵に依頼しようと考える人間が存在するとは思えなかった。


 ……しかし、これは全て俺の責任だ。


 俺が二週間も仕事に没頭したせいで、カリンに寂しい思いをさせてしまった。

 だからこそ、賢い幼女とは思えないような迷走をしてしまったのだ。


 意識的なのか無意識なのかは分からないが、おそらくは俺を金銭的に不自由させない事だけを考えていたのだろうと思う。


「…………」


 おっと、これはいかん。

 己の失態を自覚したのか、カリンがしょんぼりしている。俺の為に頑張ってくれたのだから見過ごすわけにはいかない。


「せっかく作ったのだから、これはカリンが個人的に運用するといい。しかし、これほどの代物を一人で作れるなんて本当に凄いな」


 カリンを手放しで褒め称えながら頭を撫でる。

 ついでにユキのお土産のマカロンを「もごっ」と放り込んでやれば、褒められ好きなカリンは「もおおっ」と牛のような声を上げながら嬉しそうな様子だ。


 それにしても、小人閑居(しょうじんかんきょ)して不善を為す――ロクでもない人間が暇を持て余すと悪事を働くという意味の言葉があるが、優秀な人間を退屈させても暴走してしまうという事がよく分かった。


 これからは仕事で忙しくても、カリンのチャットの相手くらいはするようにしておこう。……次はどんな大作が生まれるのか考えるだけでも恐ろしいのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、八四話〔暗躍していた存在〕

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い意味で、自分の想像の斜め上を飛んでいく作品であり、一読者として次はどんな展開になるのか? といったワクワク感がたまりません。 素敵な作品だと思います。 カリンにもぶっ飛んだところ(遊び…
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