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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第三部 守護する真星
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八十話 微笑ましき意思表明

 幼女誘拐事件は無事に解決したが、それでも依然として問題は残っている。

 

「カリンの秘められた能力については詳しく分かっていないが……問題は、強力な能力者を狙う組織がまだ存在しているという事だ」


 これは天針家から聞いた情報だ。

 天針家は主戦力の大部分を失った事で暗殺業から足を洗うという話になったが……実のところ、廃業については前々から若手を中心に検討されていたらしい。


 その要因は大きく分けて二つ。ライゲンに執着しすぎて戦力が激減した事と、もう一つ――天針家の対抗勢力の台頭だ。


 近年では超能力者が寄り集まった組織が次々に現れているらしく、戦力が低下している天針家では対応が難しくなっていたらしいのだ。


「なんでも裏の世界では強力な能力者の奪い合いになっているらしくてな、しかも多くの組織が『超能力者を見分ける能力者』を抱えているという話だ」

「またカリンちゃんが狙われるかもしれない、という事ですか……?」

「その可能性はあると考えるべきだ。少なくとも一度は狙われているのだからな」

「そんな……」


 ユキは友人の身を案じて蒼白になっていた。

 光人教団による誘拐事件の時と同じように、カリンを取り巻く情勢についてはユキに伏せておくという手はあったが、それはカリンが望まなかった。


 前々から予想はしていたが、天針家から得た情報によって裏付けが取れた。将来的にカリンが超能力者に狙われる可能性は極めて高い、と。


 だからこそカリンは、ユキには知る権利があると主張したのだ。


 神桜家の令嬢と付き合うことで営利誘拐に巻き込まれる危険性は理解しているだろうが、超能力関連の事件に知らず知らずの内に巻き込まれるのはフェアではないとの事だ。妙に律儀なところはカリンらしいと言えるだろう。


「ちなみに有望株の勧誘に失敗した時には始末するケースが多いそうだ。将来的に敵へ回る可能性があるからだろうな」


 これに関しては組織側の対応も分からなくはない。法の手が届かない攻撃手段を持つ相手は厄介なので、味方にならないなら始末してしまうという事だ。


 この不穏な話にユキはますます顔色を悪くしているが、カリンと友達付き合いを続けるリスクを知ってもらう為なので伝えざるを得なかった。


 もちろん、カリンとの付き合いを続けるか否かの選択を迫るつもりはない。


 ここで意思を確認したところで『距離を置きます』とは答え辛いだろうし、もしも口先だけの好返事を聞かされたら空しい思いを抱くことになる。

 だから、この話はこれで終わりだ。


「それはそれとして……そういえば、カリンに先の旅行の写真を見せてなかったな。平和的に解決した証拠を見せてやろう」


 とりあえずユキにプレッシャーをかけないように別の話題に変えておく。

 伝えるべき事は伝えたので、後の判断はユキに委ねるだけだ。今後は危険を避けてカリンと距離を取るという事なら、それはそれで仕方がないだろう。


「……ねぇ、なんかこの写真おかしくない?」


 俺の意図を悟ったのか、カリンもユキの反応を気にしないようにしていた。

 カリンとしては友達付き合いを続けたいはずだろうが、怯えるユキに無理強いするような真似はしたくないのだろう。


 ちなみにカリンに見せている写真は天針家で撮ったものだ。チーム海龍と天針衆が笑顔で肩を並べている集合写真。和解の成立が一目で分かる平和的な写真だ。


 しかし、カリンは集合写真の違和感を見抜いていた。その小さな指が指し示すのは俺の肩に乗っているカラス――そう、現場に存在しなかったはずのラスだ。


「ここの影がちょっと不自然よ。これ、ラスが写真を加工したんでしょ」

「カァッ、その判断は早計だぜ。反射光の影響を受けてる可能性もあるからな」


 ラスによる過去の捏造は露見していた。

 集合写真に自分が存在しないのは気に食わないという事で、ラスはコラ職人となって写真を加工していたが、その技術力を知るカリンの目は欺けなかったのだ。


 名探偵のような幼女と往生際の悪いカラスの議論を見守っていると、少し落ち着きを取り戻したユキがぽつりと呟く。


「……カリンちゃん。こないだのスキー旅行は一緒に行けなかったけど、夏休みになったら、一緒にお出かけしようね」


 なるほど……それがユキの答えという事か。

 これはユキの意思表明。カリンは危険な組織に狙われているが、それでも変わらない関係を続けていくという宣言だ。


 当然の事ながら、ユキにも超能力者の危険性は分かっているはずだ。神桜家の娘ですら誘拐されている、聡いユキがその意味を理解していないはずがない。

 その上で変わらない関係を求めるのなら、もう余計な言葉は要らないだろう。


「う、うん……」


 もちろんユキの想いはカリンにも伝わっている。ユキが気を回して自然に告げているにも関わらず、カリンは泣きそうな顔で俯いているのだ。


 そんな少女たちの姿は微笑ましくもあり羨ましくもある。俺は学生時代には人間不信を拗らせていたので、同世代に親しい友人は存在しなかったのだ。


 俺と同じような能力を持ちながらも歪んでいないカリン。その差を作ったのは、幼い頃からの友人という存在なのかも知れない。


「旅行か……。冬はスキーに行ったという事で、夏は海にでも行くとするか」


 ともあれ、カリンの能力を秘匿する方法を見つけるまでは心配だ。ここは当然のように俺も旅行に同行する流れを作っておく。


 女子中学生たちの旅行に混じるのはちょっとアレだが、成人として子供を引率すると思えば不自然でもないだろう。


「アタシは泳ぐのが得意だぞ!」


 聞いてもいない自己申告をするルカ。

 真面目な話は聞き流しても遊びの話題には食いつき抜群だ。例によって自分が護衛である事を忘れているようだが、これで護衛としては優秀なので心配はない。


 将来的にカリンの生活を脅かす組織が現れたとしても、俺とルカが付いていれば余計な手出しなどさせはしないのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、八一話〔軍人的新聞配達〕

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