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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第三部 守護する真星
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七九話 新しい客人

 今日は探偵事務所に新しい客人を迎えていた。


 客人と言っても仕事の依頼者ではない。ここ最近は遠征などで精力的に活動していたが、本業である探偵業の方は閑古鳥が鳴き続けているのだ。


 今日の来客は仕事関係ではなく友人枠。カリンの親友であり俺やラスとも親交がある少女、真星ユキを探偵事務所に迎えていた。


「ラスさんってカラスさんだったんですね……」


 本日の目的の一つは、ラスのお披露目。

 前々からカリンを通じてチャット友達になっていたが、まだラスの正体を伝えてなかったので改めて対面の機会を設けたのだ。


「カァッ、直接会って話すのは初めてだな。オレ様がラス、千道ビャクの相棒よ」


 相変わらず俺の相棒を自称しているラス。

 俺の感覚ではマスコット枠という感覚なのだが、ラス的には愛玩動物扱いは好ましくないらしい。身綺麗にしているカラスなので触り心地も良好なのだが。


「千道さんの別アカウントなのかと、ちょっとだけ思ってました……」


 チャットのプロフィール画像のままの姿だとは思わなかったのだろう、ユキは困惑した眼差しでラスを見ている。


 しかし、ユキが漏らした発言は聞き逃せない。

 カリンからの紹介という事で、時期的に俺とラスが同一人物だと誤解するのは分からなくもないが……俺はラスやユキとチャットをしていた事もあるのだ。


 その中ではラスが俺を褒めていた事もある――つまり、それはユキの主観では『自作自演で草生えます!』という事になるのだ……!


「こらこら、自作自演扱いするとは何事だ」

「ううっ、ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに頭を下げるユキ。

 非常に失礼ではあったが、素直に謝罪が出来るところは評価したい。非実在存在扱いされたラスも「失礼な嬢ちゃんだぜ」と言いながらも怒っていないようだ。


「ちょっとビャク、なにユキを苛めてるのよ!」


 そこで口を挟んだのはカリン。

 カリンがユキを探偵事務所まで連れてきたという事で、親友を守らなくてはと使命感を抱いているのかも知れない。ユキの付き人は車で待機しているので尚更だ。


「俺がイジメをするものか。ほらユキ、素直に自白したという事で飴をやろう」

「あ、ありがとうございます……」

「……なんでユキには強引に押し込まないのよ」


 正直なメガネっ娘にご褒美を与えた直後、ジェラシー幼女が口を挟んできた。

 友人だけが飴を貰っているので嫉妬したのだろうが……ほんの数秒前にユキを苛めるなと言っておきながら、その発言内容はイジメを促しているかのようだ。


「こらこら、いくらなんでも『強引に押し込みなさい!』とは乱暴過ぎるぞ。俺にそんな非道な真似が出来るわけがないだろう」

「曲解するのはやめなさい! そうじゃなくて、私の時はいつも強引に押し込んでるって事を言ってるのよ!」


 荒ぶるカリンをやんわりと(たしな)めると、予想外の言葉が返ってきた。

 給食を残すことを許さない鬼教師のように振る舞った記憶はないのだが……もしかすると、得意の飴投げで投入している事についてだろうか?


「飴投げの事か? あれは緩い放物線を描いているから喉に負担を与えていないだろう。強引に押し込んでいるとは人聞きが悪いな」


 カリンと初めて会った時には『ふごっ!?』と喉仏に命中させるという失態を犯してしまったが、基本的には優しく口内に着陸させているはずだ。

 誘拐犯が口を押さえつけているかのような物言いは心外である。


「それにだ。そのまま飴を与えようとしても、カリンの場合は意地を張って断るだろうが。……どうだ、カリンも飴が欲しいか?」

「べ、べつに、飴なんて……もごっ!」


 言ってるそばから意地を張っていたので問答無用で投入しておく。ユキが苦笑しているのも仕方ないほどの意地っ張りである。


 なにやらウーッと唸り声を上げるカリン。そんな幼女を温かい目で見守っていると、大人しくしていた同席者が声を上げた。


「なぁビャク、アタシにも飴くれよ」


 カリンと違って素直なルカ。

 ユキがお土産に持ってきたプリンを堪能していたはずだったが、他の子供たちが飴を貰っていたので妬ましくなってしまったようだ。


「ルカはプリンを食べている最中だろうが……まったく、仕方のない奴だな」

「へへっ……あむ」


 我が意を得たりとばかりに満面の笑みだ。

 いやしんぼな少女ではあるが、これほど欲望に正直となると逆に清々しくて好感が持てる。そんなこんなで騒がしく歓談したところで、本日の本題に入った。


「ところで、ユキ。カリンが変わった能力を持つことは知っているな?」

「は、はい。小さい頃に教えてもらいました」


 カリンが自身の能力について話している相手は数少ない。同類である俺やルカを除けば、古い知り合いでは付き人の雨音と親友のユキだけだ。

 他人の心を読むというデリケートな能力なので軽々しく話せないのも仕方ない。


「千道さんも同じような体質だから、カリンちゃんとお友達になったんですよね」

「当たらずとも遠からずだ。似たような能力に親近感を抱いたのは確かだが、カリンが腹黒い人間だったら積極的に近付こうとは思わなかったからな」


 ユキは信用出来るので俺の能力についても説明済みだが、そこに少し誤解があったようなので訂正しておいた。


 自分の同類に興味を持ったのは間違いないにしても、カリンの精神性に惹かれたからこそ友好関係を築きたいと思ったのだ。


「…………」


 当のカリンは、自分の性質を褒められた事が恥ずかしかったのか赤面している。

 何も聞こえていないような体でプリンを食べているが、さっきまで一緒に会話をしていたのだから誤魔化せるはずもなかった。

 もちろん俺は優しいのでからかいはしない。素知らぬフリをして話を続ける。


「そこで本題だ。実はカリンには別の強大な能力も眠っているらしくてな。公にはしていないが、先日にはその能力を狙われて誘拐までされている」

「えぇぇっ!? ゆ、誘拐って、だ、大丈夫だったのカリンちゃん」


 光人教団に攫われたのは少し前の話になるが、無用な心配を掛けたくないという事でユキにも伏せていたのだ。


 しかし、流石はカリンが見込んだ友人と言うべきか。それなりに興味を引くワードだった『別の強大な能力』のくだりには全く関心を示していない。カリンが超能力者であろうとなかろうと、ユキにとっては些細な問題に過ぎないのだろう。


「大丈夫よ、全然大した事ないわ。……その、すぐにビャクたちが来てくれたし」


 攫われたカリンと再会した時には泣いていたので『全然大した事ない』とは言い難いが、それをわざわざ指摘するような無粋な真似はしない。


 いつものように無駄に虚言癖を発揮しているならともかく、友人を安心させる為の嘘となれば微笑ましいものだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、八十話〔微笑ましき意思表明〕

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