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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第二部 躍動する海龍
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五六話 見逃さない標的

「俺がルカを守るつもりなのは否定しないが、あんたに聞いておきたい事がある」


 ここまでの話を聞いたところで、俺の胸中に一つの疑惑が生じていた。

 それは、半ば確信に近い疑惑だ。


「まずは確認だ。龍の一族は戦闘に長けた集団であり、同時に超能力者の集団でもあると聞いた。ここまでは間違いないな?」


 光人教団の教祖から聞いた話を確認すると、ルカの父親は隠すことなく頷いた。

 ここまでは想定通りだ。龍の里に招かれた時点で超能力を秘匿する気が無いのは分かっていたので、俺の本題はここからになる。


「あんたの実家――天針家も、()()()()()()()()()()()()()?」


 暗殺を生業とする天針家。その情報だけなら気に留めなかったが、先の話ではルカの両親は互角に渡り合ったとの事だった。


 父親が凄腕なのは分かっているが、母親は海龍の直系――何らかの超能力を持つ人物だ。そんな相手と拮抗したとなると父親の方も常人とは思えない。


 天針家は歴史のある一族という話もあったので、海龍家と同じく天針家も超能力者の集団だと考えたという訳だ。俺は返答を待たずに言葉を続ける。


「世間を騒がしている超常事件、これが超能力者の仕業である事は言うまでもないな? つい先日に俺が『ジャンプ』を終わらせたが、まだ超能力を悪用する存在が数多く残っているのが現状だ」


 ちなみに、先の一件で終息した超常事件はジャンプだけではない。

 これは光人教団の教祖に尋問して判明した事になるが、例のバニッシュを含む他の超能力者も重犯罪を繰り返していたという話だったのだ。


 あの教団は大金で犯罪依頼を受けて資金源にしていたとの事なので、ある意味では天針家の在り方に似ていたとも言えるだろう。もう光人教団の超能力者が悪事を働く事はないが……しかし、それで全て終わったわけではない。


「単刀直入に聞かせてもらう。今も超能力で人を殺めている『アシッド』や『ボム』――これは天針家の人間が関与しているな?」


 これらの事件に関しては、この国の西側で多く発生している傾向がある。

 そして、『西』の天針だ。天針家が暗殺者の一族であり超能力者集団だとすれば、これらの超能力犯罪に関与している可能性は極めて高いはずだろう。


「儂は天針家の当主を務めていた身、かつての部下の情報を売るわけにはいかぬ。たとえ今は敵対関係にあるとしてもだ」

「……それだけ聞ければ充分だ」


 俺の目には答えが見えていた。俺の能力については既に説明済みなので、こちらが察したことも伝わっているはずだろう。


 標的であるアシッドかボム、そのどちらかは()()()()()()()()()()

 それが分かれば、俺には充分だ。


 本来なら敵の能力について根掘り葉掘り聞いておくべきなのかも知れないが、友人の伝手で自宅に招かれておいて意に沿わぬことをするつもりはない。


 ルカの父親は娘が狙われながらも義理を重んじている。その考え方は万人に理解されるものではないだろうが、俺はそんな不器用な人間が嫌いではないのだ。

 それでも、これだけは伝えておくべきだろう。


「俺は近い内に天針家を潰すつもりだ。あんたの立場は味方でもなければ敵でもない、その認識で間違いないな?」


 真っ直ぐ見据えて問い掛けると、ルカの父親は負の感情を発露することなく頷いた。この迷いの無さからすると、前々から覚悟は決めていたという事なのだろう。


 そしてそう、天針家は潰す。


 俺の標的としていた超能力者が在籍している事もあるが、それ以上にルカの命が狙われているという事実が看過できない。


 海龍家の人間は暗殺者に狙われている事を気にしていないが、友人である俺が心配でならない。だから、俺の一存で天針家は潰させてもらう。


「ま、待ちなさいよビャク。その天針って暗殺者の一族なんでしょ? 一人でどうにか出来るわけないじゃないの」


 無事に話が纏まりかけたところで、カリンから『待った』が入った。

 小馬鹿にするような口調ではあるが、その透き通った瞳は不安そうに揺れている。カリンが俺の身を案じてくれているのは明白だ。


「ビャクはともかくルカが心配だから、私から雨音に言って……」

「――まぁ待て。雨音に頼るのは駄目だ」


 最恐の付き人を召喚しようとしているカリンを止めておく。

 確かに雨音なら天針家を殲滅可能な戦力を集められるかも知れないが、しかしその手段はなるべく避けておきたい。


 これはあくまでも天針家と海龍家の問題であり、可能な限り部外者を介入させるべきではないという思いがあるのだ。

 なんとなくだが、ルカの父親も身内だけで片を付ける事を望んでいる感がある。


「カリンが心配してくれるのは嬉しいが、俺の話を最後まで聞くがいい」

「べ、べつにビャクの事なんて……」

「――なにも俺一人で天針家を潰すとは言っていない。せっかくだから当事者であるルカにも協力してもらうつもりだ」


 幼女がモニョモニョ言い訳しているところを遮って核心を伝えた。これは照れ隠しの嘘を言わせないという優しさである。


 ちなみに話題に上がったルカは話を聞いていないが、ごはんの上に焼肉を乗せてハグハグかきこんでいる顔が幸せそうなので注意する気も起きない。

 好戦的なルカが誘いを断るとも思えないので確定メンバーと考えておこう。


「俺とルカだけでも充分だが、そうだな……今回の件の関係者という事で、次兄のライゲンにも協力を要請してみるとしよう」


 海龍ライゲン。こちらも天針家には関心が薄いようだが、自分や家族が狙われているのだから協力してくれる可能性は高いはずだ。

 それに今はタイミングも良い。


「ライゲンはカリンの姉に付いているという話だったが、来週に帰国予定だとニュースで観たからな。渡りに船とはこの事だ」


 ライゲンの護衛対象は大衆受けする美人であり、神桜家の家族会議に参加しているほどの大物でもある。そんな人物をマスコミが放って置くはずもなく、意識して調べなくても自然と動向が耳に入ってくるのだ。


「むーっっ……なんでビャクが私よりもお姉様の予定に詳しいのよ」


 だがカリンは納得できないのか、ふくれっ面で不満を露わにしている。

 家族である自分よりも他人の方が詳しく知っていた事が気に食わないようだが、情報強者が責められるのは筋違いというものだろう。


「まぁ、ライゲンは忙しい身だからな。場合によっては俺とルカだけで動くことになるかも知れないが、それでも戦力的には問題無いはずだろう」


 ちなみに海龍家の長男については選考外だ。

 若くして海龍家の当代当主を務めているらしいので戦力的には申し分ないが、連絡先どころか居場所すら分からないので手の打ちようがないのだ。


 そして戦力という意味では龍の里の面々――カンジなども協力してくれそうな気はするが、天針家と海龍家の因縁に村人を巻き込むのは避けたいので誘わない。


 どのみち俺とルカだけでも戦力的に充分ではある。いつ襲撃してくるか分からない相手を待つならともかく、今回はこちらが一方的に攻めるだけだ。

 前回のように人質を取られているわけでもないので楽なものだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、五七話〔未明の出立〕

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