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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第二部 躍動する海龍
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四四話 向かうべき場所

「……話を戻そう。教祖の話によると、光人教団の他にも超能力者の組織が存在していて、その関係性は良好なものではなかったようだ」


 他の組織について教祖は詳しく知らなかったが、光人教団の超能力者たちが別の超能力集団について話していたのを聞いた事があると言っていた。


 その集団の詳細が気になるところではあるが、残念ながら光人教団の潜在的な敵だったという事しか分かっていない。資料の類も残ってなかったのでお手上げだ。


「光人教団は他の組織に対抗する為に強力な能力者を欲していた。だから、図抜けた能力者であるカリンが連中に狙われたという訳だ」


 カリンにとっては迷惑極まりない話ではある。

 そもそも本人に能力の心当たりが無いと言っているのだから、カリンを引き入れたところで肩透かしな結果になっていただけだろう。


「話は分かったな? ――というわけで、来週の土日にルカの実家に行くぞ!」

「おうっ!」

「ま、待ちなさいっ! ルカの実家に行くって、そ、それって……」


 おや? ここまで説明すれば察せられると思ったのだが、意外にもカリンから制止の声が掛かってしまった。賢いカリンらしくもない察しの悪さだ。


 よく分かっていないはずなのに二つ返事をしているルカもどうかと思うが、こちらは平常運転と言えば平常運転だ。大体においてノリで生きている少女なのだ。


「カリンよ、考えてもみろ。光人教団に超能力者を見分ける能力者が居たという事は、他の組織にも似たような能力を持つ者が居る可能性があるんだ」


 いつになく理解力が低下しているカリンに補足説明をしておく。

 理解力が存在していないルカは「ラスも来るんだろ?」と来週の事しか考えていないが、こちらはもう手の施しようがない。

 もちろんカリンは、俺の言わんとするところを正確に察した。 


「……他の組織から干渉を受ける前に情報を集めるってこと? 海龍は能力者集団として有名って話だったものね」

「その通りだ。受け身の姿勢で待ち続けるのは性に合わないからな」


 今は問題無いにしても、今後も安寧とした生活が保証されているとは限らない。

 俺たちに必要なのは情報。お飾りの教祖から断片的な情報は得られたが、他の組織についての情報は詳細不明のままとなっている。


 将来的に他の組織と敵対するかどうかはともかくとして、その筋では有名らしい『海龍』から超能力関連の情報を集めておくに越した事はないのだ。


「へへっ、ビャクたちがアタシの家に来るなんて楽しみだな。親父もビャクとカリンに会いたいって言ってたから喜ぶぞ」

「えっ!? 私もルカの実家に行くの!?」

「ん? そんなの当たり前だろ?」


 我が道を行くルカにブレはない。

 護衛でありながら雇い主の予定を勝手に決めている有様だ。カリンの反応の方がおかしいと言わんばかりの態度には感服である。


「し、仕方ないわね……そこまで言うなら、私も一緒に行ってあげるわ」


 気乗りしなさそうな口調ながらも頬を緩めているカリン。どうやら友達の家に遊びに行くという一大イベントを楽しみにしているようだ。


「よしよし、決まりだな。ルカの実家は遠いから泊りがけになるが、既に保護者の雨音からは許可を得ているから安心しろ」

「やけに手回しがいいわね……っていうか、妙にビャクと雨音の仲が良い気がするんだけど。なんで私の頭越しに連絡取り合ってるのよ」


 カリンはぶすっとした顔で文句を言う。

 姉のような存在を取られた気持ちになっているのかも知れないが、俺としても意外なほどに雨音から信頼されている感はある。


「雨音と話が合うのは事実だな。そもそもカリンが俺の事を好意的に伝えてくれたからこそ警戒心が低いのだろうが」

「こ、好意的になんて伝えてないわよっ!」


 カリンは顔を真っ赤にして否定しているが、俺は雨音が入院している病院に出向いて本人から聞いたので間違いない。


 もちろん雨音はカリンの言葉を鵜呑みにしていたわけではない。自分でも俺の行状を調査したらしく、ほぼ初対面でありながら俺の性質を熟知していた。


 特に神桜大銀の殺害報酬が『ラーメン一杯無料券』だったのが秀逸だ。

 俺は報酬を受け取る気などなかったが、そんな俺でも気兼ねなく受け取れるギリギリの線を突いてきたのである。


「そういえば……ルカの父親が俺に会いたがっているとは聞いていたが、お前の父親はカリンにも興味を持っていたんだな」


 動揺している幼女を攻めるのは大人げないので話を変えておく。

 俺は耳聡い名探偵なので、ルカの父親がカリンにも会いたがっていたという話を聞き逃していない。それはさりげなく初耳の情報だ。


「そ、そうよ。ルカの父親が私に会いたがってるなんて初めて聞いたわ」

「あれ、そうだったか? 親父もそうだけどお袋もカリンに会いたがってたぞ」


 実に予想通りの反応を返すルカ。しかも母親の情報まで増えている始末だ。

 ルカが伝え忘れていたのは火を見るより明らかだが、父親としても娘にメッセンジャーが務まるとは思っていないはずなので問題は無いだろう。


 まぁなんにせよ、ルカの実家に向かうとなると事前に準備すべき事は多い。

 森と山しか存在していない地方なので移動手段の確保は必須であるし、旅行日程も余裕を持って二泊三日くらいは見ておいた方が良いだろう。


 日課の新聞配達にも穴を空けることになるので職場へのフォローも必要だ。

 あの職場には短期休暇で上司に休みを申請するという社会のルールは存在しないので、お休みする時は配達仲間に依頼して代行してもらう事になる。


 本来なら一週間前に依頼するのはマナー違反なのだが……まぁ、旅行のお土産をエサにすれば喜んで引き受けてくれる仲間も多いはずだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、四五話〔蹴球的新聞配達〕

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