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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第二部 躍動する海龍
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四三話 幼女の能力開発

 光人教団の切り捨てを前提とした懐柔計画。

 それらの裏事情を説明すると、やはりと言うべきかカリンは呆然としていた。


「なによそれ、なんでそこまでするのよ……」


 光人教団の中核は超能力者だとしても、大きく育った組織を潰してまでカリンを手に入れようという計画だ。にわかには信じられないのも無理はない。


「類を見ない強力な能力者に見えたという話だったからな。超能力についても詳しく聞いておいたから、それを聞けばカリンにも心当たりが生まれるやも知れんぞ」


 光人教団は大勢の超能力者を抱え込んでいただけあって、一般人では知り得ない超能力についての知識が深かった。


 実を言えば、教祖よりもジャンプの方が超能力事情に詳しかったらしいが、あの女は想定外の死を迎えてしまったので致し方ない。


「まずは種別、超能力の種別は大きく分けて三種類に分けられる。自己干渉型、他者干渉型、それから物質干渉型だ」

「超能力の種別ね。そのくくりで分けると……私の能力が自己干渉型、ジャンプみたいな能力が他者干渉型って事なのかしら?」


 流石にカリンは理解が早い。単語だけで察せられてしまうと物足りなさを覚えるほどだが、ここは説明の手間が省けた事を喜ぶべきだろう。


「ああ、その解釈で合っている。身体が透明になるバニッシュなども自己干渉型の一つだな。というか、超能力者は自己干渉型が大半を占めるそうだ」


 光人教団には十人以上の超能力者が在籍していたようだが、あのジャンプを除いて全員が自己干渉型だったとの事だ。


「他者干渉型や物質干渉型の能力者は数が少ないらしくてな、超能力者を見分ける能力者に言わせると『高位の能力者』という扱いらしい」

「だから、ジャンプが超能力者たちのリーダーって扱いだったのかしら?」

「その可能性はあると思うぞ。一概に比較はできないが、実際に超能力の出力だけを見ればジャンプは相当なものだったからな」


 大人を数十メートルの高さまで跳び上がらせるエネルギー量は凄まじい。

 別種の超能力に優劣をつける事は難しいが、あのジャンプが高位の能力者だと言われれば分からなくもない思いはある。


「ふ〜ん、そうなんだ……って、あれ? そういえばビャクの念動力って、珍しい物質干渉型って事になるんじゃないの?」

「俺の感覚的には物質ではなく空間に干渉しているんだが……まぁ、広義では物質干渉型という事になるのかも知れんな」


 更に付け加えれば、俺には負の感情が見えるという能力もある。

 複数の能力を持つ者を『マルチ能力者』と呼ぶらしいが、こちらも希少な存在という話だった。場合によっては俺が狙われていた可能性もあっただろう。


「俺の事はともかく、まずはカリンだ。カリンは強力な能力者だと思われていた――つまり、カリンには他者干渉型や物質干渉型の能力もあるのではないか?」


 カリンは類を見ないほどに強力な能力者だと目されていた。

 そして他者干渉型や物質干渉型は高位の能力と見做されている。そうなると、カリンはそれらの能力を使えるという可能性が出てくるのだ。


「そ、そんな事言われても分かんないわよ」

「まぁ、物は試しだ。カリンも念動力が使えるかどうか試してみたらどうだ?」


 カリンの能力は俺のそれに近い。

 本人が自覚していないだけで、俺と同質の力が眠っている可能性は充分にある。

 だからこそ、まずは俺と同じ念動力を試してもらおうという訳だ。


 とりあえず「これで試してみるといい」とテーブルの小皿に黒砂糖を置くと、カリンは手を翳して「うーんっ」と唸り始めた。


「…………ぷっ」

「な、なに笑ってんのよ!!」


 おっと、これはいかん。

 幼女が黒砂糖に手を翳して唸っている姿が微笑ましくて吹き出してしまった。


「悪かった悪かった、これは俺に非があったと認めよう。真剣にやっている相手を笑うとは信義にもとる振る舞いだった」


 顔を真っ赤にしてぽかぽか殴ってくる幼女に誠意を込めて謝罪する。

 ラスも愉快そうに「カッカッカッ」と鳴いているのだが、発案者である俺だけは笑うわけにはいかなかった。今回ばかりは素直に謝らざるを得ない。


「……ああ、そうだ。それからもう一つ気になる情報があったんだった」


 とりあえずカリンの超能力問題は手掛かりがないので棚上げだ。

 まだ不機嫌そうなカリンの事は置いておき、役目を終えた黒砂糖を手に入れてニッコリしているルカへと視線を移す。


「あの教祖の話によるとだな、ルカ――いや、海龍の一族は超能力業界では『能力者集団』として有名という話だったぞ」

「えぇっ!? ルカも超能力が使えるの?」


 カリンは驚いているが、冷静に考えてみればそれほどおかしな話ではない。

 なにしろルカの戦闘能力は常軌を逸している。これは自己干渉型の能力、身体強化系の能力を持っていると考える方が自然だ。


「んん……?」


 当のルカは不思議そうな顔だ。

 この様子から察するに、自分が能力者だと自覚せずに力を振るっていたのかも知れない。……いや、そもそも俺たちの話を聞いていなかったような気もする。


「簡単に言ってしまえば、ルカは俺やカリンと一緒という事だな」

「そっか、ビャクたちと一緒か!」


 説明を聞き流していた問題児に分かりやすく伝えると、ルカは嬉しそうに笑み崩れた。手間の掛かる子ほど可愛いとは言うが、つい甘やかしそうになる笑顔だ。


「……でも超能力業界で有名って言うけど、なんなのそれ。なんか胡散臭いわね」


 俺が不出来な生徒に温かい眼差しを向けているのが気に食わないのか、優等生のカリンが面白くなさそうな声で言葉尻を捕らえた。

 とりあえず説明を補足しておくとしよう。


「ああ、どうも超能力者たちの組織は光人教団以外にも存在しているらしい」

「ははん、そういうことね……。組織に居ないはずの物質干渉型の能力を知ってたのは、組織の外部にも情報源があったからなのね」


 優等生な幼女は話の断片だけで察してしまう。

 人の話を聞かない問題児に爪の垢を煎じて飲ましてやりたいほどである。


「こらこら、ルカ。お前にとって興味のない話なのは分かるが、真面目に話を聞いているラスの邪魔をするんじゃない」


 ラスの身体に触ろうとして「カァッ!」と怒られていたルカを叱責する。

 このカラスは『相棒以外には触らせない』という拘りを持っているらしく、他人に触られる事を嫌うのだ。人が嫌がる事をやってしまうのは見過ごせない。


 しかしルカは叱責を受けても「へへっ」と、なぜか嬉しそうな顔だ。俺が学園の教師なら絶対に受け持ちたくない生徒だと言わざるを得ないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、四四話〔向かうべき場所〕

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