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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道
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百五十話 天下無法の空柳

 俺は名探偵であっても万能ではない。大抵のトラブルは解決出来るという自信はあるが、一個人なので人手を必要とする捜査には限界がある。


 その点では空柳警察に隙はない。金と権力を駆使する捜査網は圧倒的であり、しかも目的の為には手段を選ばないという狂気も有していた。


「…………」


 しかし、今回に限っては空柳警察の元締めも無言で考え込んでいた。

 普段なら夕飯の献立を告げるように『今夜はダムにしましょう』と問題解決の答えを口にする雨音。その雨音が考え込んでいるという一事だけでも、今回の件が容易ならぬ案件だと推し量れるものがあった。


「その様子からすると、政府筋の情報については雨音も知らなかったようだな」

「……そうですね。これは私の手落ちでした」

「いやいや、まさか政府筋からカリンの名前が出てくるとは誰も思うまい」


 なにやら俺が不手際を責めている様相になっていたのでフォローしておく。

 流石に政府関係にまで目を光らせておくのは現実的ではない。……正直に言えば、雨音の手が現行政府に及んでいなかった事にホッとしているくらいだ。


「まぁなんにせよ、現段階では情報が全く足りていない。そもそも樹神教団がカリンを求めている理由が分からないからな」

「ええ。……ですが、千道さんの情報のおかげで今後の方針が決まりました」


 おっと、珍しく考え込んでいたと思ったら方針が決まったようだ。

 下手に動けば国が敵に回りかねないところだが、この難しい局面でも雨音の目には迷いがない。流石にラスボス系付き人は頼りになる。

 そして超然とした雨音は、いつもの涼しげな笑みを浮かべて口を開く。


「――樹神教団の関東支部長を(さら)いましょう」


 ん、んん? ど、どういう事なんだ……?

 俺の聞き間違いで『触りましょう』が『攫いましょう』に聞こえたのかと思ったが、しかしわざわざ要人にボディタッチを試みる理由はない。


 あまり考えたくはないが、雨音は明らかに『拉致』を提案している。倫理観に欠けた雨音らしい手法ではあるが……だが、今回ばかりは物申さずにはいられない。


「ちょっと待て。確かに樹神教団の幹部を尋問すれば手っ取り早いが、相手が樹神教団となると空柳家でも揉み消しが難しいだろう?」


 樹神教団が現行政府に働きかけているという事は、最終的には神桜家に政治的圧力をかけてくる可能性が高いと考えるべきだ。


 神桜家がそれに素直に従うかはともかく、雨音が事前に手を打っておきたいという気持ちは分かる。しかし、樹神教団に手を出すことには大きな問題がある。


「樹神教団は樹民党と繋がっているが、神桜家は樹民党を推していると聞いたぞ。雨音の行動は神桜家の意向に反するのではないか?」


 俺が慎重になっている理由はそれだ。裏付けも取れていない段階で動いたとして、その事で神桜家に――カリンに迷惑を掛けては申し訳ないのだ。


 しかも雨音に至っては空柳家の人間、神桜家の分家の人間だ。雨音の場合は俺以上に慎重な行動が求められるはずだろう。


「ふふ、大丈夫ですよ。私の仕業だと露見しなければ何も問題ありません」


 うっっ、完全に犯罪者の思考ではないか……。これは友人として諌めるべきかと悩んでいると、雨音は正義を標榜するような笑顔で先を続ける。


「それに実際のところ、今回の件が無くとも樹神教団には接触するつもりでした。樹神教団に関しては先のドレイン事件への関与を疑っていましたから」


 樹神教団が黒幕という信じ難い情報。自己正当化の為にデッチ上げているのでは? と反射的に真偽を確かめてしまうが、雨音の感情に偽りは見えなかった。


 ドレイン事件。

 超能力を後天的に与えて超能力者を襲わせた事件だが、確かに考えてみれば……カリンを求めているという事で、樹神教団は超能力に関わりがある可能性が高い。


 それに空柳警察にしては捜査が難航していると思っていたが、ドレイン事件の背後に樹神教団が存在していたとなれば納得がいく。

 相手は絶大な影響力を持つ巨大組織なので権力的手段が効かないという訳だ。


「……なるほど。妙だとは思ったが、『樹神教団の関東支部長』という具体的な対象が即座に出てきたのはそういう事情か」


 いくらなんでも標的の決定が早過ぎると思っていたが、前々から関東支部長の拉致を目論んでいたという事なら話も分かる。

 おそらくは、疑惑対象が大物だったので慎重に証拠を固めていたのだろう。


「今回のカリンの件と併せれば強硬手段も妥当といったところか。――分かった、そういう事なら俺も全面的に協力させてもらう」

「ふふ、ありがとうございます。早速で申し訳ありませんが……標的の行動パターンから考慮しますと、決行日は次の木曜日が狙い目ですね」

「そ、そうか」


 流石はラスボス系付き人の雨音。スーパーの特売日を把握しているかのように、早くも襲撃に適した日程を把握していた。味方ながらに恐ろしい手際の良さだ。


 まぁなにはともあれ。雨音の部下は優秀なので手伝いは不要かも知れないが、今回は失敗が許されないので惜しみなく協力させてもらうとしよう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百五一話〔正義の襲撃犯〕

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