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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百四七話 始まってしまう草野球大会

 晴れ渡る澄み切った青空。

 そんな爽やかな日和の中、河川敷のグラウンドには大勢の人間が集っていた。


 平日の午前中という時間帯を考えればニート集団だと誤解されかねないが、しかし決してそんな事はない。実際には夜間や休日に働いている者が大半であり、それぞれが本日の『草野球大会』の為に時間の都合を付けていた。


「今日も他チームはメンバー不足か。これなら俺たちの大会連覇は安泰だな」


 俺は周囲を見回して栄光を確信する。

 平日の午前中という時間帯、各町の町民しか参加資格が無いという条件。これらの厳しい条件によって、どのチームも恒常的にメンバー不足となっているのだ。


「ノンノン、油断は駄目だよ。卑劣な出雲町だけはフルメンバーなんだからね」


 俺を戒めるのは出雲町嫌いのルチャーノ。

 野球経験者でフルメンバーを揃えている出雲町、いつも滅多打ちにされている相手なので警戒するのは分かるが……しかし、今回に限っては心配無用だ。


「ふふ、何も問題はあるまい。ガブリフに続いて大型新人が加入しただろう?」


 前大会ではガブリフが加入した事で辛勝をもぎ取ったが、今回は前回メンバーに加えて大型新人が加入している。人数的にも余裕が生まれているので負ける要素はない。俺の自信に満ちた態度を受け、張り詰めていたルチャーノも表情を緩めた。


「――カンジだね。確かに彼は素晴らしい。草野球の為にあれほどの逸材を探してくるなんて、本当にビャクの手腕には頭が下がるよ」


 新聞販売店の新人であり運動神経の塊のような男。野球に関しては全くの初心者だったが、軽くレクチャーしただけで才能の片鱗を見せていた。


 決して草野球をやらせる為にカンジを都会に誘ったわけではないが、反則的存在である龍の一族が加入したからには大会連覇は約束されているはずだろう。


 ――――。


 そして草野球大会は始まった。

 第一試合は少数精鋭チーム同士の対決。ホームラン多発の激戦だったが、人数差が決め手となって勝敗は決した。やはり二人きりのチームでは限界があったのだ。


 続いて第二回戦は事実上の優勝決定戦、チャイクル団と出雲町の対決だ。

 出雲町のメンバーと向き合って整列するチャイクル団。因縁の対決なので戦意が漲るところだが……しかし、チャイクル団の面々には困惑が広がっていた。


 それは想定外の誤算。

 大会主催者であるペカチュウさんとカンジの会話が発端だった――『お前さんはどこに住んどる?』『インペリアルってマンションだ』『そこは出雲町だな』


 そう、カンジの所属チームはまさかの出雲町だったのだ……!


 同じ職場に勤めているから同じ町内だと思い込んでいたが、その浅はかな考えをペカチュウさんが打ち砕いてしまった。この草野球は町同士の対抗戦。たとえ職場の同僚であっても容赦なく敵味方となってしまうのだ。


「ボクを裏切ったのかカンジッッ!! アアアアアアッッッ!!!」


 ルチャーノは激怒していた。

 この男は恋人に浮気された事がトラウマになっているので不義に敏感なのだ。待ち合わせに一秒でも遅れるとガチギレしてしまう危険人物である。


「ど、どうしたんだあいつ……」


 そしてガブリフは引いていた。普段は温厚なルチャーノが目を血走らせているので無理もない。元軍人同士で仲が良かったので尚更の事だろう。


「なぁに、ちょっとした発作のようなものだ。素人では抑えるのは難しいが、チャイクルさんがフォローに動いているから大丈夫だ」


 友人のプライバシーは明かせないので誤魔化しておく。実際、ルチャーノが狂乱状態に陥るのは珍しくもない。いつも通りキャプテンに任せておけば万事解決だ。


「出前、届イテルヨ!」


 ルチャーノに優しく語り掛けるチャイクルさん。その言葉の意味は分からなくとも慰めている事は分かる。ルチャーノを当て身で眠らせてしまう俺とは違うのだ。


「ここにまともなヤツはいねぇのかよ……」


 ガブリフは失礼な事を呟いているが、仲良しだったルチャーノがアレだった事を思えば仕方ない。友人が別人のようになっているので心情は察するに余りある。


 それに実際のところ、この草野球大会に奇人変人が多いことは否定できない。

 ルチャーノは見ての通り大きな闇を抱えているし、この状況で大爆笑しているロマルドなどは完全にサイコパスだと言わざるを得ない。


 大会主催者であるペカチュウさんも中々の強者だ。若者の笑顔が見たいという理由で草野球大会を開催している奇特な人物ではあるが、どんな時でもヘッドライト付きのヘルメットを被っている奇人でもある。しかも常にフル点灯だ。


「そんな、オレは裏切り者だったのか……」


 おっと、これはいけない。

 カンジが裏切り者扱いにショックを受けている。生粋の正直者なのでルチャーノに罵倒されたのが堪えたようだ。ここは共通の友人としてフォローしなくては。


「ルチャーノは発狂しただけだから気にするな。それに、チームは異なっても一緒に野球をする事には変わりない。――そうだろう、カンジ?」

「それもそうだな!」


 もちろんカンジの立ち直りは早い。

 一瞬で元気を取り戻したかと思えば「よろしくなっ!」と人懐っこい笑顔で出雲町に溶け込んでいる。この底抜けの前向きさは見習いたいものだ。


 ともかく、チャイクル団からカンジが抜けたのは諦めるしかない。こちらにはまだ五人も残っているので勝機は十分にあるはずだ。


 そして、いよいよ始まるポジション抽選。

 この草野球は一回ごとにポジション変更が課せられているが、その順番はペカチュウさんによるランダム抽選となっている。


 ポンコツ投手が先発になると一回コールド負けが濃厚となってしまうが――「ミーが先発だね!」とロマルドが投手に決まった。


 これは悪くないスタートだ。

 俺やチャイクルさんほどではなくともロマルドの投球は安定している。こちらの人数は少なくとも大量失点には至らないはずだろう。


「先発がロマルドとは幸先が良いね。彼なら三点以内には抑えられそうだ」


 正気を取り戻したルチャーノは上から目線である。俺たちの敗因の大半はルチャーノ絡みなのだが、チャイクルさんのおかげで心に余裕が生まれているようだ。


 そのルチャーノのポジションはキャッチャー。この男はピッチャー以外では有能なので、確かに幸先の良いスタートだと言えるだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四八話〔決着してしまう草野球大会〕

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