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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道
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百四五話 成長するソシャゲ

 何かと忙しかった夏が過ぎ、季節は涼しい風が吹く秋を迎えていた。個人的に進めているドレイン事件の捜査は難航しているが、雨音が追っている線では着実に捜査が進んでいると聞く。遠からず空柳警察が首謀者の特定に至るはずだろう。


 ちなみにドレイン事件は伏せられているので世間では話題になっていない。


 派手な超能力関連の事件が落ち着いた事もあって、世間の話題の中心は再緑化。

 実際のところは誰にも分かっていないが、樹海に不穏な兆候が現れている事から、国内外で徐々に不安が広がりつつあった。


 そして人心の不安となれば宗教関係が強い。


 それでなくとも国内最大手だった樹神教団などは飛ぶ鳥を落とす勢いなので、次の選挙も政教合体アタックで樹民党が圧勝するはずだろう。……まぁしかし、世界情勢が不安定になっていても俺の周囲は平和なものだ。


「えっ、ラスちゃんは『闇の狩人』の称号持ってるの? それはすごいね……」

「カァッ、あれには難儀したぜ。なにせ殲滅戦でノーミスクリアが条件だからな」


 平和な探偵事務所で不穏な会話を交わすユキとラス。ちなみに二人が話しているのはソシャゲ――『千道探偵事務所の事件簿』についての話だ。雨音の手配によって正式にリリースされたカリンの力作である。


 天才幼女のお手製だけあってクオリティが高く、口コミを中心にして順調に売り上げを伸ばしているとの事だ。探偵物のゲームで『殲滅戦』という単語が出てくる不自然さはともかく、カリンの才能が世に認められるのは友人としても喜ばしい。


「たしかゲームの大型アップデートが今日だったか? せっかくだから代表取締役として会社に顔を出してきたらどうだ?」

「ふん、私が顔を出したところで何も変わらないわ。むしろ邪魔になるだけよ」


 俺の提案は幼女社長に一蹴された。

 人見知りなので必要以上に他人に会いたくないだけだと思うが、俺の方も思い付きで言ってみただけなので構わない。たとえソシャゲ運営会社が『探偵事務所の階下』にあっても、わざわざカリンが顔を見せる必要性はないのだ。


 ――そう、探偵事務所の階下。


 雨音の手配したソシャゲ運営会社は、なぜか探偵事務所の階下に入居している。実際のところ、前々から雨音が雑居ビルに手を伸ばしている気配はあった。


 雨音が復帰した直後から退去していく風俗案内所や消費者金融。カリンの悪影響になる要素を排除するかの如く、自然な形で雑居ビルの健全化が進んでいたのだ。


 それでも……そんな個人的な理由でテナントを追い出すはずがないと、この件に雨音が関わっているのは気のせいだろうと当初は考えていた。


 だがしかし、カリン絡みの変化に雨音が関与していないはずがなかった。

 俺の疑惑が決定的となったのは事務所家賃の振り込み――そう、家賃の振り込み先が『空柳不動産』に変わった事が決定的だった……!


「しかし、まさか探偵事務所の階下にカリンの会社が入ることになるとはな」

「雨音が変に気を利かせてくれたのよ。でも別に悪い事ではないでしょ」


 付き人の豪腕ぶりを擁護するカリン。

 実際のところ、カリンの擁護は何も間違っていない。ビルの旧オーナーは大金を受け取ってホクホク、旧テナントも円満な形で退去したとの事なのだ。


「まぁ、そうだな。強いて問題点を挙げるとすれば…………この事務所が階下の人間から『社長室』と呼ばれている事くらいだろう」

「そ、そんなの知らないわよ!」


 一階から三階がカリンの会社で、四階が千道探偵事務所。そしてカリンが四階に出入りしているという事で、この事務所は社員から『社長室』などと呼ばれているのだ。カリンはここで仕事をしているので間違いとも言い切れないのが複雑だ。


「だが、ソシャゲのおかげで千道探偵事務所の名前が売れているのは事実だ。その程度の事で文句を言っていたらバチが当たるというものだろう」


 ソシャゲが順調にセールスを伸ばしているので事務所の知名度も上がっている。

 カリンはタイアップ料を支払っていないのが引っ掛かっているようだが、零細事務所としては大々的に宣伝してもらえるだけで充分過ぎるというものだ。


「そのわりにはビャクが仕事をしてるトコを見たことないけど……」

「いやいや、最近はメールも届くようになったぞ? つい先日にも『ガチャの排出率を教えてください』と質問を受けたからな」

「間違いメールじゃないの!」


 不毛地帯だったホームページにアクセスが生まれるようになったので、それが問い合わせ先の間違いであっても一向に構わない。

 俺としては寛容にソシャゲ運営会社のサイトに誘導してしまうばかりだ。


 そんなこんなで俺とカリンが賑やかに話していると、俺たちの会話に出てきた『ガチャの排出率』という単語をユキが拾ってきた。


「カリンちゃん、ガチャで毛皮のコートが全然出てこないんだけど……」


 ゲーム製作者に直接クレームを入れるユキ。

 なにやら難しい顔をしていると思っていたが、不毛なガチャに挑戦し続けていたからのようだ。もっとも、これは金銭問題が発生しているわけではない。


 俺たちは生の声を届けるテストプレイヤーという扱いになっているので、友人の手によって課金地獄に落とされているわけではないのだ。


「毛皮のコートって、新しく増えたアイテムね。ちょっと私も試してみるわ…………って、あれ? 一回目であっさり出たわよ」


 ユーザーの声を確かめるべくカリンが自分のスマホで試すと、ガチャの排出率には問題無いとばかりにユキのお目当てが出てきたようだ。家電の故障で修理業者を呼んだら、そのタイミングだけ絶好調で稼働しているような気まずさである。


「カリンちゃんのアカウントは、その……忖度(そんたく)されてるんじゃないかな?」


 流石は煽りっ子のユキ。

 言いにくそうな体でありながら全く遠慮していないストレートな暴言である。まぁしかし、製作者のアカウントだけに気持ちは分からなくもない。


「そ、そんな事ないわよ! 私は運営会社に何も言ってないんだから!」


 もちろんカリンも黙ってはいない。

 身に覚えがないのにエコ贔屓扱いされたのだから当然の反論だ。しかし、このまま子供たちの論争を座視するわけにはいかない。


 ユキのガチャは無料なので金銭が絡んでいるわけではないが、些細な行き違いから親友同士で喧嘩になってはいけないのだ。


「待つんだ二人とも。ここは名探偵が中立な立場で裁定を下してやろう」


 氷華は言い争いには介入しないし、ラスは甘いところがあるので一方に肩入れするような真似はしない。ここは厳正な裁定人である俺の出番だ。まずは実証がてらガチャに挑戦してもらおうという事で、なにげなくユキのスマホを覗き込む。


「うっ……」


 そしてユキのアバターを見て言葉を失った。

 今回のアップデートでは『騎乗系の動物』が追加されたと聞いていたが、俺の顔をしたアバターがまたがっているのは――――ホッキョクグマ。


 しかもほぼ半裸で肩に大きな斧を担いでいるという有様だ。どう見ても蛮族にしか見えないのだが、このメガネっ娘は俺をどうするつもりなのだろうか……?


明日も夜に投稿予定。

次回、百四六話〔開かれた忖度裁判〕

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