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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道

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百三九話 暗躍する付き人

 カリンの付き人であり長期の入院生活を送っている女性、空柳雨音。

 長い入院生活は退屈だろうと思って定期的に訪れているが、しかし今日に限っては事情が違う。今日は珍しくも雨音から呼び出しを受けていた。


「元気そうだな雨音。……と言っても、つい先日に会ったばかりだがな」


 最近は雨音が快復してきたという事で、これまで断っていたカリンのお見舞いが先日に解禁された。俺はそれに付き合ったという形だ。


 憎まれ口を叩きながらも嬉しそうだったカリン、お見舞い品のメロンをもぐもぐしていたルカ。子供たちがお見舞いに満足していたのは記憶に新しい。


「ふふっ、そうですね。――それで、本日お呼び立てしたのは他でもありません。千道さんにお伝えすべき情報があったからです」


 挨拶もそこそこに本題へ入る雨音。

 電話で話さずに呼び出してきたくらいなので何事かと思ったが、このラスボス系付き人が『お伝えすべき情報』と判断したとなれば只事ではない。何が飛び出してくるのかと身構えていると、雨音はおもむろに見覚えのある書類を取り出した。


「まずはこれを。この方を覚えていますか?」

「……ああ。この男とは直接会っているからな」


 カリンの潜在的な脅威を把握するべく、かつて雨音は超能力者の疑いがある人間を調べ上げていた。この書類に載っているのは過去の調査対象の一人だ。


「この男は『シャボン』だな。身体からシャボン玉のような気泡を出せるという能力、自分の超能力を隠すことなく動画投稿サイトに投稿していた男だ」


 雨音に目を付けられるだけあって超能力の秘匿意識がない男だった。視聴者には手品だと認識されていたようだが、超能力の存在を知っている者が見れば超能力にしか見えなかったのだ。ちなみに『シャボン』は俺が勝手に命名した名前である。


「ええ、その通りです。千道さんが無害な能力者だと判断された方ですね」

「何らかの組織に所属しているわけでもなく、超能力を見世物にして小銭を稼いでいただけだからな。ファンを装って直接話したから間違いない」


 俺は超能力を悪用する者は許さないが、この男の場合は悪用していたわけではない。言うなれば自分の芸を売り物にする大道芸人のようなものである。


「ここで資料が出てきたという事は、この男が何かしらの悪事を働いたのか? とても大それた事をする人間には見えなかったが……」


 善人でもなければ悪人でもないといった印象だったので意外な感がある。

 事務的で心のこもっていない態度ながらも握手をしてくれたので、どちらかと言えばプラスの印象を持っていたほどだ。お礼がてら定期的に動画を再生しているくらいである。……しかし、雨音の返答は予想外のものだった。


「いえ、この方は変死体として――()()()()()()()()()()()()()()


 俺はその情報に背筋を凍らせた。これがただの死亡情報なら驚かないが、問題は『ミイラとなって発見された』という点だ。


 通常では考えられない異常な死体。

 だがしかし、俺は人間がミイラ化する現場を少し前に見たことがある。


 ――――奇跡の子。


 救世聖者の会という団体の象徴的存在だった少年。あの子供が人間をミイラ化する『ドレイン』という能力を持っていた。


 死亡した男は超能力者、超能力者を狙っていた少年。この符号が偶然のものとは考えにくいが、奇跡の子は間違いなく死亡している。俺の目の前で木っ端微塵になっている。不可解な情報に頭を悩ませていると、雨音は更なる爆弾を投下する。


「すでに犯人は私の部下が確保しています。以前に調査した能力者を見張らせていたところ、思惑通りに不審人物が網に掛かりました」

「そ、そうか、相変わらず仕事が早いな」


 恐るべきはラスボス系付き人。俺の耳に入れる前には事件を終わらせているので名探偵の立つ瀬がない。動画投稿者の超能力者がミイラで発見されたという事で、他の超能力者も狙われると予想していたようだ。


 以前に雨音がリストアップした面々は総じて超能力の秘匿意識が低かった。犯人側にとっても目星を付けやすかったという事なのだろう。


「それにしても……危険な相手という事なら、俺に声を掛けてほしかったところだ。自分の部下に超能力者の相手をさせるのは感心しないな」


 光人教団事件の後始末に動員されていた空柳家の人間――雨音の私兵を動かしたようだが、一般人に超能力者を相手取らせるのは危険過ぎる。

 結果的に首尾良く捕らえていても俺が苦言を呈するのは当然だった。


「ふふっ、大丈夫です。有無を言わさず麻酔銃で無力化するよう命じました」


 恐ろしい事を笑顔で告げてしまう雨音。

 明確な証拠も無かったはずなのに問答無用で制圧してしまったようだ。これで罪悪感が微塵も見えないのが驚異的である。


「そ、そうか。雨音の倫理観が大丈夫ではない気がするが……まぁ、それはこの際置いておく。結局のところ、その男は『クロ』だったわけだな」

「ええ、そうです。最新の薬を用いた尋問で洗いざらい吐いてもらいました」


 うっっ、さりげなく深い闇を匂わせているではないか……。最新の薬という不穏なワードを最新のスマホみたいな感覚で言っているのが恐ろしい。


 しかも今回の犯人、雨音側に何らかの害を為したわけでもないのだ。放って置くとカリンに危険が及ぶ可能性があるというだけで、問答無用で麻酔銃を喰らわせて薬を使った尋問まで行っている。これで冤罪ならどうするつもりだったのか……。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四十話〔不穏な影〕

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