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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第六部 終わりの千道
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百三五話 帰ってきた名探偵

 シアポール旅行からの帰国後。

 郵便受けに溜まっていたチラシを処理し、スパムメールしか届かないメールボックスを確認していると、カリンとルカが探偵事務所に顔を見せた。


 旅行直後となれば自宅でゆっくりしそうなものだが、神桜家の屋敷より事務所の方が落ち着くとなれば是非もない。俺としては温かく歓迎するばかりである。


「――しかし、樹海が捕食するところを観れたのは幸運だったな。このご時勢では大金を払っても観れるものではない。これも日頃の行いが良いおかげだろう」


 映画館に行った後に喫茶店で感想を言い合うかのように、俺たちは和気あいあいとシアポール旅行の思い出に花を咲かせていた。


 スイカ割り、遠泳、チャイクルさん、市場観光、などイベントが目白押しだったが、とくに樹海が装甲車を捕食するという一大スペクタクルは希少性が高かった。樹海を刺激するのは厳禁となっているので簡単に観れるものではないのだ。


「ふん、なにが日頃の行いよ。あれはビャクが自分でやった事じゃないの」


 反抗期真っ盛りなカリンは今日も反抗する。

 装甲車が激しく吹き飛ぶという不可解な現象。かなり頑張れば燃料に引火して爆発したように見えなくもなかったので、わざわざ俺の方から自供するつもりはなかったのだが……直感で生きている野生児に『あれやったのビャクだろっ!』と見抜かれたのが痛かった。ルカ好みの派手な展開だったので大喜びしていたのだ。


 チャイクルさんには適当に誤魔化してしまったが、疑念を持った子供たちに追求されれば嘘を吐くわけにはいかなかったという訳だ。


「あれは事故のようなものだ。結果として通行止めの問題は解決したわけだし、カリンたちも貴重な光景を観れたのだから万々歳だろう」

「白々しいわね……。大体、いつの間にあんな事が出来るようになったのよ」


 カリンはふくれっ面で報告を欠いていた事を責める。あのツバキの妹という事で、知人の全てを把握していなければ気が済まない性分なのかも知れない。


 これくらいなら可愛いものだが、将来的に『昨晩に飲んでた牛乳は賞味期限が二日も過ぎてたわよ!』などと言い出したら指摘してやるとしよう。


「俺は自己研鑽を怠らない名探偵だからな、新技を会得していても不思議ではあるまい。ところで、チャイクルさんはどうだった? カリンによく似ていただろう」

「どこが私に似てるのよ。……まぁ、ルカが懐くだけあって悪い人間ではないみたいね。私には全然似てないけど」


 チャイクルさんに似ているという最高の褒め言葉を否定してしまうカリン。

 自負心が強いのでオンリーワンな存在でありたいという気持ちが強いのか。


 だが、サティーラばりに『私と似ているなんて烏滸(おこ)がましいわ!』と自分を卑下されても困るので、これくらいの評価で落ち着いている方が良いのかも知れない。


「……んぐ、チャイクルはイイ奴だったなっ!」


 流石に本能で生きているルカはよく分かっている。ランバード家からお土産で貰ったドライフルーツをもぐもぐしているので買収的な雰囲気を感じなくもないが、サティーラをハラハラさせるくらいに仲良しだったので本心からの言葉だろう。


「ただよ、あれは危ういぜ。人を疑うってことを知らねえからなぁ……」


 いつの間にかマレー語を習得していた裏切り者のラスは言う。基本的にチャイクルさんは俺たちと一緒の時には日本語しか使わなかったが、たまたま席を外して戻ってきた時にラスと流暢に会話していたのだ。まさに腹心の裏切りである。


「……そうだな。サティーラのような人間が傍に居てくれれば安心なのだが」


 俺はラスへの嫉妬心を抑え込んで言葉を返す。

 そもそもラスが現地の言葉を予習していないはずがなかったのだ。俺も勉強しておけばよかっただけの話なので、ラスへの見苦しい嫉妬など許されるはずもない。


「そいや、相棒はサティーラ嬢と出立直前に連絡先を交換してたな」

「むっ……なによ、ビャクたちって連絡先を交換するような仲だったの?」


 友達の少ないカリンが嫉妬しているが、これは友情ではなく事務的な連絡網の構築だ。サティーラからは『殿下の有事には報告しろ』と言われているのだ。


 それほど心配なら当人が国を出れば良さそうなものだが、サティーラは自分を卑下しているので殿下の身近で暮らす事に抵抗感があるようだ。


 サティーラには共感を覚えているので力になりたいとは思うが、当人の心情の問題となれば俺が手伝えることは少ない。俺に出来るのは背中を押すことだけ――殿下がモテているとメールを送って焦燥感を煽ってやるくらいのものだ。


「カァッ、相棒とサティーラ嬢の事なら心配いらないぜ。オレ様に言わせりゃ、同じ宗教を信仰する同志みたいなもんだからよ」

「べ、べつに、ビャクたちの事なんて……」


 ジェラシー幼女に微妙なフォローをするラス。

 俺とサティーラはチャイクルさんを通じて繋がっているだけと言いたいのだろうが、なんとなく『宗教』という単語には引っ掛かりを覚えるものがあった。


「こらこら、その言い方は止めるんだ。確かにチャイクルさんは神の如き御方だが、一人の友人として扱うべきであって崇め敬ってはいかんのだ」

「ほんとに熱心な信者みたいね……」


 ちなみに俺は宗教に悪印象を抱いてはいない。

 これまで宗教団体と敵対する機会が多かったが、それは悪党が宗教団体の看板を掲げていただけであって、俺は無宗教論者として敵対したわけではないのだ。


 心の拠り所があれば精神が安定するという事もあるので、むしろ宗教そのものには肯定的な感情を持っていると言えるくらいだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百三六話〔揺るがない関係〕

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