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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第五部 飛翔するランバード
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百二三話 マナーを知る男

 燦然(さんぜん)と輝く強烈な太陽。白い砂浜はホットプレートのように熱せられ、俺の鍛え上げた足でも熱量を感じるほどの高温になっている。子供たちの足ではサンダルが無ければ厳しいはずだろう。……もちろん、子供たちの中には例外も存在する。


「ビャクッ、海だ! うおおおッッ!!」


 元気過ぎるルカは砂浜の熱さなど微塵も感じさせない。初めての海で興奮しているのは分かるが、意味不明なほどにテンションが高いのでちょっと引いてしまう。


「落ち着けルカ、本当に落ち着け。それにカリンたちはどうした? 一応は護衛なんだから部屋に置いてきたら駄目だろうが」

「海なんだから仕方ないだろッ!」


 訳の分からない逆切れをするルカ。本当に全く意味が分からない。

 行きの飛行機ではすやすや寝ていたので可愛いものだったが、現地に着いた途端にフルスロットルとなってしまった。


「――ちょっとルカ、日焼け止めを塗らないと大変だって言ったでしょ」


 そこで護衛対象がパタパタと走ってきた。

 悪態を吐きながらもルカを心配している相変わらずのカリン。どちらが保護者なのか分からないのも見慣れた光景だ。ともあれ、ここは口を挟んでおくとしよう。


「まぁ待てカリン、日焼けで痛い思いをしておくのも一つの経験だ」


 賢者は歴史から学び愚者は経験から学ぶ、と言う言葉があるが、実践派のルカが経験からしか学べないのは明白だ。あらかじめルカに『答え』を教えるのは簡単だが、将来の事を考えれば失敗して学ばせる方が為になるというものだ。


「アタシが日焼けなんかするはずないだろ!」


 太陽光に負けるはずがないとばかりに自信を見せるルカ。余人が言えば妄言にしか聞こえないところだが、人間離れしている龍の一族の場合は強がりとも言い切れない。とりあえず「そうかそうか」とヨシヨシしてニッコリさせておく。


「しかしやけに遅いと思ったら、カリンたちは日焼け止めを塗っていたのか」


 別荘で着替えて浜辺で集合という予定だったが、カリンたちの着替えが妙に遅いとは思っていた。まぁ、カリンの肌は日差しに弱そうなので当然の対策ではある。


「女の子の場合は着替えだけでも男性より時間が掛かりますから。中には身嗜みを気にしないルカさんのような例外も存在しますけど……」 


 言い訳のような事を言いながらもチクリとルカを刺してしまうユキ。小さなディスりを忘れない見上げた毒舌家である。


 おそらくルカがヨシヨシ甘やかされているのが面白くないのだろうが……ここは同じく不機嫌そうなカリンと一緒くたに褒めておくとしよう。


「ユキもカリンもワンピースの水着か。可愛らしくて似合ってるぞ。なんとなく子供を海に連れてきた父親のような気分だ」


 はっはっはっ、と心からの言葉で褒めておく。

 俺に子供が出来るというイメージは欠片も湧かないが、だからこそあり得ない未来を実現しているかのような温かい気持ちになるのだ。

 なぜかムーッとしている子供たちはさておき、続けて氷華に視線を移す。


「今日ばかりは氷華も水着か。武芸を嗜んでいるとは聞いたが、よく鍛えられている均整の取れた身体だな。日々の研鑽が見て取れるぞ」

「っっ!?」


 ついでとばかりに褒めておくと、氷華は視線から身を守るように身体を隠してしまった。なにやら顔を赤らめて睨みつけてくるが、しかしそこに嫌悪感は見えない。おそらく鍛錬の成果を見抜かれて動揺しているだけだろう。


「セ、セクハラよっ!」


 本日のファーストセクハラだ。

 大盤振る舞いでセクハラポイントを与えるカリンは相変わらずだが、副審のユキもジトっとした目をしているので、このまま座視していては多数決の暴力で敗北しかねない。ここは俺の正当性を主張しておくべきだろう。


「いやいや、女性の水着姿に感想を述べるのはマナーのようなものだぞ」


 世間知らずなお嬢様に一般常識を教えておく。

 何を隠そう、俺は社会のマナーを知る男。企業から請われればマナー講師を務め上げる自信があるほどだ――そう、マナー講師に公的資格は必要ないのだ……!


「ところでラスは暑くないのか? 黒色は熱を吸収するから大変だろう」


 まだ子供たちがご機嫌斜めなので話を逸らす。

 ただ、話題転換の口実であっても俺が気になっていたのは本当だ。俺の肩にとまっているラスに触ると、ちょっと心配になるくらいにホカホカしているのだ。


「カァッ。黒色は幅広い波長の光を吸収するから熱くはなるが、その代わり紫外線の透過率は低いからな。そんなに悪い事ばかりでもねぇぜ」


 雑学を披露しながら強がってしまうラス。

 それらしい事を言って煙に巻こうとしているが、熱中症のリスクに関しては否定できていない。紫外線対策だけが万全でも片手落ちだ。


「ラスは身体を定期的に濡らしておくといい。ほら、水分も摂っておけ」

「ごぼごぼっ……」


 とりあえずペットボトルの水を強引に飲ませておく。このカラスは弱音を吐かないので積極的に配慮しなくてはならないのだ。絵面は虐待のように見えなくもないが、これはラスに必要な事なので躊躇ったりはしない。


明日も夜に投稿予定。

次回、百二四話〔正しきレジャー精神〕

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